=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「かげろう」 ジル・ペロー (フランス)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
第二次世界大戦のさなか、30歳になったとはいえ、まだその美しい脚で人目を奪うところのある人妻は、幼い息子と娘を連れ、ナチスから逃れるためパリを発った。 しかし、敵の銃撃は民間人へもおよび、街道で命を落としかけたところ、一人の少年に助けられた。少年の名はジャン、16歳だが、大人のように落ち着いた灰色の目を持つ、不思議な少年だった。 ジョルジュ・シムノン文学賞受賞作。 | |
私たちにとっては初めてのジム・ペローで、エマニュエル・ベアール主演で映画化された作品です。 | |
ジョルジュ・シムノン文学賞を受賞してるのよね。ジョルジュ・シムノンといえば、言わずと知れたメグレ警視シリーズを書いたミステリ作家で、 これは純文学作品じゃないの、どうして? と思ったけど、読んで納得。サスペンス作品のようなところもあるのよね。 | |
まあ、それについては話すわけにはいかないから置いといて(笑)、どうだろう、おもしろかったといえばいいのかな。 | |
そうだね〜、感動するとか、胸にしみたとか、そういうんじゃないけど、なんだか本当に上質の小説って感じだった。 | |
フランス文学らしいなというか、エマニュエル・ベアールが主演の映画っぽいなと思った。 | |
うんうん、イメージがピッタリ来すぎるぐらいだったね。小説じたいはそんなに長くないの、中編ってところかな。 | |
名前はないんだけど、語り手は人妻なんだよね。夫はエリート軍人で、二人の子供とパリの自宅で留守をまもっていた30歳の女性。 | |
この語り口がいいんだよね。色気があるというか、細やかに心理の移ろいが語られてるんだけど、なんとも惹かれるものがあるの。 | |
若い娘のうちに結婚して、そのまま世間知らずで育った人妻は、こういう非常事態には無能の人で、でも、自分がそういう甘ちゃんだということは しっかり自覚している、したたかさもあるんだよね。 | |
子供に対する接し方が興味深かったよね。つい苛立って叱りつけてばかりになりそうで、それを抑えてなんとか上手く接していこうとしていて。 | |
でも、けっこう子供の心理を読んでるよね。うまいこと煽てたりもするし。なんとなくぎこちなかったりもするけど。 | |
母親である前に女ってところがあったかも。子供を育てなきゃって一心不乱な母じゃなくて、鏡に映る自分の姿を見つめて細かに分析しているような女で、 子供に対してもそういう女を感じたな。 | |
少年については、もっと複雑。子供を連れて一人でなんとかできる能力なんて自分にはないとわかってるから、上手く利用しようと思っているようなところもあり、 大人のような目をした少年に怯え、早く離れたがってもいて、でも、どこかで惹かれていて。 | |
人妻の過去も、しだいにわかってくるんだよね。そのへんは映画では省かれているらしいけど。 | |
敵軍だけじゃなく、フランスの兵士にも怯え、一軒の空き家で、母子3人と素性のしれない少年の4人は、いびつな家族のような共同生活をすることに。 | |
エロティックで、でも濃厚なところまでは行かず、どこか冷めたような印象もあり。このへんは人妻の醸しだす雰囲気が創り上げた世界で、そこがなんともフランス映画っぽいと思わせたのよね。 | |
でも、魅力はそれだけじゃなくて、最後には・・・ってことでしょう。う〜ん、なんとも上質な小説だった。 | |
いい感じに、作品世界に飲みこまれたね。いい感じに「してやられた」感もあって、これは満足の逸品でした。 | |