=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「私」 ヴォルフガング・ヒルビヒ (ドイツ)
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旧東ドイツ時代、私はA市の工場で働きながら、作家となるべくテクストを書きためていた。私はシンディーが好きだったが、シンディーにはハリーという恋人がいた。 やがて私はA市にいられない事情が出来てベルリンに移り住んだ。そこに待っていたのは、下宿を営む中年の寡婦ファルベ夫人と、私を公安省のスパイに誘う、フォイアーバッハ中尉だった。 | |
もと東ドイツの作家さんということで、読んでみました。 | |
前から1冊は読んでみようと思っていた、クリスタ・ヴォルフより、なぜかこちらが先になっちゃったけどね。 | |
巻末の訳者あとがきによると、ヴォルフは西側読者を念頭に置いて書いていて、壁崩壊前から西側で知られてたけど、ヒルビヒは西側読者を念頭に置かずに書いていて、 注目されだしたのは壁崩壊後になってからなんだって。 | |
そこからは一気に有名作家になったみたいだけどね。壁崩壊後からの文学賞受賞歴の華々しいこと。 | |
ただ、西側読者を念頭に置かずに書いているってのがポイントだったね。この「私」はちょっと旧東ドイツの事情に明るくない私にはわかりづらかったな。 | |
理解できないわけじゃないんだよね。主人公である私、この人は作者の姿の投影でもある見たいなんだけど、この主人公が、西側に亡命しようとしている人を探るスパイになるの。 | |
そう、でも、そこからがモヤモヤしてくるよね。スパイっていっても、集会に出掛けて、話がヘタだとかメモしてるだけだし、目を付けた人のあとをふらふらついて歩くだけで、これといった確証もつかまず、 あげくには、報告書が文学的すぎるとなじられて、でも、優秀なスパイらしくて。 | |
うん、具体的に、なんというか把握しづらいよね。説明もなく、ただ主人公の頭の中ばかりが延々と書かれてるって感じで、それもまたどう受けとめればいいのかも理解しづらかったし。 | |
止めたくなるほど理解できないってところまではいかないんだよね。登場人物は少ないし。主人公の他には一番多く出てくるのがフォイアーバッハ少佐。この人は主人公の指導将校ってことで、 主人公をスパイに誘い、スパイの指導をし、管理をしているみたい。 | |
私はフォイアーバッハ少佐が一番理解しにくかったよ。なんだか異常なほど主人公のことが好きみたいなのよね。しかも最初っから。 | |
公安省の少佐とはいえ、言うこともやってることも、ちょっとだらしないというか、わりと好き勝手にやってて、旧東ドイツではこんなものだったのかなあと、そのへんもよくわからなかったな。 | |
とにかく旧東ドイツを当然のようにわかっている人たちに向けて書いた小説なんだよね、たぶん。私たちが読むべきじゃなかったのかも。 | |
ストーリーは追えるんだけどね。少ないながらも印象的な登場人物が幾人か出てきて、まったく関係なさそうだったりもするけど、 実はわかってみると、そういうことかってなってたりするの。 | |
正直、表の顔がピンとこなかったから、裏の顔に驚けなかったけどね。 | |
そうそう、シンディーって女性は終始一貫して何を考えているのかわからない女だったし、ハリーっていうのがまた、ほとんど登場せずに名前だけだから、 ふだんがどういうひとなのかよくわからなかったし。 | |
ファルベ夫人もわかりづらかったよ。女としてみてほしいのか母親的に見てほしいのかってところからわからない女性だし、なんか親切にも心がないような、それでいて飢えているような感じもあり、 とにかく、なんなんだ、この人は、で終わってしまった。 | |
ちょっと私たちには荷が重すぎたかな。すんなり読了はできるけど、咀嚼して味わうってところまでは達せられなかったというか。 | |
う〜ん、そうねえ。旧東ドイツ以前に主人公の人となりというか、感情というか、そういうのが把握できなくて、だから何?的になってしまったのが敗因かな。共感できていれば、全然違う感想になったと思うんだけど、 一言でいえば、わからなかった。 | |
主人公が作家として成り立ちたいと強く願っていることだけは伝わってきたけどね。西側に発表の場を見つけていくしかないんだけど、西側では東側からの亡命作家なんていまさらそれほど珍しくもないだろうし、 流行もしょっちゅう変るだろうし、自分の作品など見向きもされないんじゃないかという恐れ、それでも西側に活路を見出したいと切望する、そのへんはわかる気がした。 | |
ただ、小説のことを別とすると、主人公は東側に対して否定的ではないのよね。たぶん、肯定的。 | |
そのへんがドイツでの人気の理由のひとつなのかな。自分たちのいた社会を壁崩壊後はひたすら貶されることへの反発から、そんなに悪いばかりじゃなかったと言ってくれる代弁者としての人気だとか? | |
さあ、どうなんだろう。とにかく、私たちごときが気安く読む小説じゃなかったってことで、ごめんなさいだね。 | |