すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「美食の歓び」 キュルノンスキー/ガストン・ドリース (フランス)  <中央公論新社 文庫本> 【Amazon】
1927年、投票によって名誉ある”食通の王”に選ばれ、1928年には”美食アカデミー”を創設した、名実ともに20世紀初頭のフランス随一の美食家キュルノンスキー(1872年〜1956年)と、 食に関する著書のあるガストン・ドリースによる、美食に関するエッセー集。
にえ 珍しく小説じゃないものを。1933年に出版されたフランスの食に関する楽しいお話です。
すみ きちんとした結論に向かっていく話じゃなくて、思いつくままに書きつづったってイメージだったよね。食に関する知識が豊富な紳士が、食事をしながらおもしろ蘊蓄話をたっぷり聞かせてくれてるって感じで読めた。
にえ 1章ずつは短いの。料理の歴史、作り方はもちろんのこと、美食クラブ、食を愛した有名な作家や音楽家、国王や貴族などなどのエピソード、珍聞奇談、食材のとれる地方の話、と、とにかくいろんな話が詰まってた。
すみ 新しくはないけど古すぎずってのがまたいいよね。読んでると、この時代が一番、食文化が豊かだったんじゃないかと思えてきちゃう。
にえ 食が文化になってるよね。今だってそうなんだろうけど、なんというか、もっと芳醇で、いい意味で貪欲な気がする。
すみ ユーモアたっぷりに楽しく、知識豊かに食を語るところは、まさにフランス紳士ならではだよね。そして、なにより嬉しいのが、まず最初に女性美食家について触れているところ。さすがフランス紳士、 男の話をする前に、きっちり女性への敬意を示していました。
にえ 男性の美食クラブに対抗して、女性だけの美食クラブをつくったって話とか、読んでて嬉しくなっちゃったよね。
すみ その次には、最新の料理法ってことになるのかな? 立体派料理ってのに触れてるの。
にえ これはいいんだか、悪いんだか、けっこう変った組み合わせの料理がいろいろ紹介されてたよね。
すみ そうそう、読んでいるうちに、世界三大料理といっても結局、フランス料理は食材に限界があって、こういう突飛な組み合わせや変った料理法に走るしかなかったのかなって気もしてきたな。 中華料理に比べると、どうしても食材が少なすぎるって印象。
にえ そうだね〜。中華料理で同じような話があったら、思いつきもしないような食材の数々が、思いつきもしないような調理法で、途轍もない料理となっていく話が次々に出てきて、 圧倒されるばかりになってただろうね。
すみ そうなのよ、フランス料理だから、まだ滑稽で楽しげな範囲におさまってるのよ、きっと。
にえ でもねえ、だからってフランスの料理が決して貧相ではないことが、先を読んでいけばわかるよ。
すみ きっと最高級料理を並べたてられるんだろうと思ってたら違ってた。高級なレストランで出される飾り立てられた料理よりも、シンプルな田舎料理のほうがずっと美味しいって考え方なんだよね。
にえ フランスでは、自動車もまだないような昔から、はるばる片田舎の宿屋まで出掛けていって、その地方でしか食べられないような美味しい料理を食べるっていう趣味人がいたみたい。
すみ かなりの昔からガイドブックがあったみたいね。楽しそう。この本の著者も、ずいぶんといろんなところに行って舌鼓を打ってきたらしいし。
にえ ガイドブックは古くからあったけど、一般的には17世紀の前半ぐらいまでは、フォークを使わずに手づかみで食べてたんだよね。陶器の皿が使われだしたのもずいぶん遅いし。 16世紀には日本にもポルトガル人やスペイン人が来てたでしょ、日本人が陶器のうつわで食事をしているのを見て、なんとも思わなかったのかな。自分たちはまだ木の皿を使ってたんでしょ。
すみ 食材についても驚くよね。ジャガイモなんて昔から食べてるのかと思ったらそうでもなかったし。
にえ 驚いたといえば、あの「三銃士」などを書いた大デュマに、食に関する有名な著作があったってこと。知らなかった〜。
すみ 有名人のエピソードもたくさん出てきたよね。バルザックの食通も知らなかったし、サド侯爵の牢獄での食事にもビックリしたし、 ベートーベンが料理に凝っていたなんて知らなかったし、挙げるときりがないんだけど。
にえ カニバリズムにまでも触れていて、とにかく食べることについて語り尽くしてたよね。私はこれほど食べることばかりに夢中になれないかなと思いつつも、読んでてホントに楽しかった。
すみ 読みながらいろいろ考えちゃって、そういうふだん考えないことを考えるのがまた楽しかった。こんな美食の話を読みながら、しょせん人は自分の母親の作ってくれた料理の味に近いものが一番美味しいんだろうな、なんてことも思ったし。 楽しめますよ〜。