=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「甘美なる来世へ」 T.R.ピアソン (アメリカ)
<みすず書房 単行本> 【Amazon】
アメリカ南部の小さな田舎町ニーリーでは、ひと夏に大きな出来事はせいぜいひとつぐらししか起きないはずだった。ところがその夏、禿のジーター嬢が亡くなるという大きな出来事がひとつあったにも関わらず、 もっと大きな、町中を揺るがすほどの出来事が起きることとなった。 | |
T.R.ピアソンの初翻訳本です。あと2作、ニーリーを舞台にした小説があるらしくて、あわせてニーリー三部作となっているのだそうな。 | |
とにかくまあ、変った小説だから、読んでみたいけど大丈夫かな〜、どんな感じだろうと期待と不安が入り混じっちゃうところだろうから、 順を追って話しましょ。 | |
まずねえ、最初に度肝を抜かれちゃうの。句読点も句点もなく、ただひたすらベタベタ〜っと連なる文字を、延々と読んでいくんだけど、その文章自体もまた、妙な繰り返しが多くてクドクドしくて、 うー、こんなんで400ページ近くを読了できるのか、とめいっぱい不安になっちゃうの。 | |
3、4ページぐらいまでなんとか読んだところで、この先はどうなるんだと、つい先のページをめくって見ちゃうよね。 | |
そうそう、そうすると、どうやら30ページぐらいまで我慢して読めば、ちょっと楽になるらしいとわかって、もうちょっと頑張ってみようと、またひたすら文字を追う(笑) | |
内容は、禿のジーターって人が亡くなった話みたいなんだけど、そのジーターの遺体が発見されるまでの経緯として、隣に住んでるアスキュー夫人の家の雨樋が調子悪くて、修理する人を呼ぶって話が長々と続くのよね。 | |
禿っていうと、どうしても男性かと思っちゃうけど、どうやら馬毛の鬘を頭に載せた老嬢のことらしいの。なんで単なるジーターじゃないかといえば、そこは田舎町ならではで、どの苗字にしても、同じ苗字の、たどっていけば同じ先祖に行き当たるような人たちがたくさん住んでいて、 それで区別するために禿のジーターとか、デブのジーターとか呼ぶ習わしみたい。 | |
とりあえず30ページまでは我慢しようと覚悟しているから、そこまでは読むんだけど、その先もそれほど楽になるわけじゃないのよね。 | |
うん、少しは句点、句読点も入るようになるし、会話部分に鍵かっこも付きはじめるんだけど、やっぱりクドクドしい文章で、それほど楽ではない。 | |
それから、もう読むのやめちゃおうかな〜とも思うんだけど、ここまで読んだしもうちょっと、とも思うし、もしかしたら面白くなるかもしれないから、と、とりあえずもうちょっと読んじゃう。 | |
はっと気づくと100ページ前後、いつのまにやらちょっと面白い会話があったり、地の文にひねりを利かせたユーモアがあったりして、いつのまにやらところどころで、クスクスと笑っている自分に気づくのよね。 | |
ちょっと文章にも慣れてきて、読みはじめよりはスムーズに読めてきたりもしたかな。 | |
それが飼い慣らされてるみたいで、なんだか悔しかったりもするんだけどね(笑) あと、登場人物がフルネームでどんどん出てくるから、メモでもしておいたほうがいいのかなあとも思うんだけど、意外とメモしなくても、読み返すこともなく前に進めた。 | |
そうそう、その点は大丈夫だったね。さすがにクドクドと説明してもらっただけあって、この人、誰だっけっていうのは、まったくなかった。 | |
そのクドクドも、リズムがわかってきて、そのクドクドさじたいの面白さもわかってくると、楽しめるようになったよね。 | |
でもさあ、乗り乗りでズンズン読めるところと停滞しちゃうところとが交互にあったよね。町の誰かの話になって、この人はどういう人なのかってのが掴めるまでは、かならずノロノロと、ちょっとつらいかも、なんて思いながら読んじゃって、 それでもなんとか進んで話が見えてくると、面白くなってズンズン読んじゃった。 | |
1から5までの章に分かれてて、1は禿のジーターの死の顛末、2は二度ほど家出をして帰ってきたらしきベントン・リンチって頭の鈍そうな、無口な青年の一回目の家での顛末、3は女性がらみでもないのに家族を捨ててしまったバッファロー氏の出奔の顛末って感じで、最初のうちは同じ町が舞台で、 登場人物に共通性はあるけど、別々の話かなと思った。 | |
そうそう、田舎町で起きた、事件ってほどではないけど、ちょっと奇怪なエピソードを詳しく説明してくれてて、不思議なんだけど納得もする、みたいな。 | |
それと平行して、まあ、たいしたことはなかったんだけど、驚くべき強盗事件の話が進んでいくのよね。 | |
驚いたのが、250ページめあたりだよね。ちょっとグロテスクで変な人たちばかりの、楽しい田舎町の可笑しな話を堪能していたら、じつはしっかり大きな話へと進まされていたことがわかって。 | |
そうそう、宣伝文句の「戦慄の」って部分をすっかり忘れて楽しんでたら、じつはちゃんと向かってる先があったのね。 | |
たいしたストーリーもなく、エピソードを積み重ねたようなお話だろうと思ったら、大間違いだったよね。きっちり導かれてた〜。ここからはもう一気だったな。 | |
結論としては、あまりの滑稽さに笑わずにはいられないんだけど、滑稽だからこそ、よりリアルに切なく悲しくもあったりして。うーん、読み終わったらもう、良かった、魅了された、感動した、オススメですと言うしかないのかな、 けっして読みやすい本ではないんだけど。 | |
読む側に負担のかかる小説ではあるよね。こんな作家、二人といらない(笑) でも、読む喜びはきっちり味わわせてもらいました。三部作のあと2作がこれから翻訳出版されるかと思うと、今から胃が痛くなりそうだけど、でも、読まずにはいられないよね。それだけの魅力があるんだもの。覚悟を決めた方にはオススメです。 | |