=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「医者の息子」 ジョン・オハラ (アメリカ)
<南雲堂 単行本> 【絶版】
やや長めの短編、表題作の「医者の息子」と、かなり短めの作品が3つ入った短編集です。とても古い本 なので、本の紹介というより、作家紹介と考えていただけたらと思います。 <医者の息子>1918年のある日、田舎町の医者が病気で床に伏せた。代わりにやってきたマイヤーズ 先生は、医者の息子ジェイムズと町を往診して歩くことになった。 <時間厳守>待ち合わせ時間より早めに着いていないと気がすまないローラは、一度だけ、待ちぼうけを くわされたことがある。その男と、十年ぶりに汽車で偶然会ってしまったローラは。 <春だったに違いない>前から注文していた乗馬服が届いた。医者の息子であるぼくは、さっそく乗馬服を着て、父親に会いに行った。 <さよなら、ハーマン>ポール夫妻のもとにポールの亡き父の通っていた床屋の主人が、わざわざ訪ねてきてくれた。 | |
この人も、アメリカでは人気があっても、日本で人気が出なかった作家の一人みたいね。 | |
本もほとんど和訳出版されてないよね。1905年生まれで、 ヘミングウェイやフィッツジェラルドなんかと一緒に作家活動をはじめたらしいんだけど。 | |
アメリカでは、人気があるけど、文学の主流からは外れている って言われているのよね。 | |
そのあたりのことは、読めば納得すると思う。まず、華やかさ がないのよね。 | |
うん、ごく普通の田舎町の、ごく普通の人たちの、ごく普通の 生活を書いていたりして、これじゃあ日本で売るときに、キャッチコピーも難しいでしょう。 | |
あんまり主義主張も表立ってないのよね。出来事を淡々と綴っ てるって感じ。 | |
おまけに文章は、少年少女向けかなと思っちゃうほど、柔らか く読みやすい。 | |
深い心理描写も、美しい情景描写も、なんにもないのよね。 ごくごく簡素に、平易な言葉で書かれてる。これじゃたしかに、文学の主流にはなれないな〜。 | |
で、力が抜けた状態で、だら〜っと読んでると、なんだか話は おもしろいし、あ、わかる、わかる、なんて感じたり。なんかジワジワ心にしみてくるような、そういう作 風だったよね。 | |
『医者の息子』なんて、友達とお酒飲んでて、「そういえば昔、 僕の田舎でこんな事があったんだよ〜」「へえ」ってそういう感触のする話。ちょっと驚くけど、どこにで もありそうな、誰でも一つは持っていそうなエピソード。 | |
そういう話って、けっこう聞いてておもしろいよね。世の中、 普通に暮らしてても、けっこういろんなことがあるんだな〜って気がするよね。 | |
『時間厳守』も決め言葉が最後に出てくるけど、それほど ビシッと決まったってセリフじゃない。誰でも言えそうなセリフ。 | |
『春だったに違いない』は、単に乗馬服を父親に見せに行く 男の子の行動を折ってるだけの話なんだけど、ふだんから厳格な父親に、認められたいような、近寄るのが 恐いようなって少年の気持ちが、ヒシヒシと伝わってくる。 | |
『さよなら、ハーマン』なんて、都会に住む若夫婦の家に、 田舎の床屋のオヤジが訪ねてくるって、ただそれだけの話だよ。 | |
でも、なんかこう、うまく気持ちを伝えあえないもどかし さとか、気まずさとか、なんか伝わってくるよね。 | |
別れた男と会ったとか、昔の知り合いが訪ねてきたとか、そう いうだれの身にも起こりそうな話なのよ。でも、なんか教訓みたいなものというか、我が身を振り返る機会 を与えられるっていうのかな、そういうものがあるよね。 | |
なんか肩の力を抜いて、だら〜っと読めるよね。でも、おもし ろい。ありきたりな話なのに、なんかこの人独特の味がある。 | |
こういう作家ってたしかに大々的に売り出すっていうのは無理 かもしれないけど、もっと読まれてほしいな。 | |
英語の教材なんかにいいんじゃない? 文章はわかりやすく、 シンプルで、翻訳本も出回ってないから。 | |
そうだね、そういう機会でも得て、人気が出てきたら理想的 かもね。とにかく、心地よく読める作家さんです。どこかで見かけたら、読みやすいのでぜひどうぞ。 | |
あ、ややこしい文章書いて、してやったりって顔してる作家に 送ってやればいいのよ、ほれほれ、こんなに普通に読みやすい文章でも、味が出せる人がいるんだぞってね。 | |
はいはい、もうわかりました(笑) | |
私たちももっと読みたいよね、この作家さん。 | |