すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「リューベツァールの物語」 J・K・A・ムゼーウス (ドイツ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
ドイツ18世紀の文人であり、文芸評論家であったヨーハン・カール・アウグスト・ムゼーウス(1735年〜1787年)の「ドイツ人の民話」全14話から、6話を訳出した短編集。
三姉妹物語/リヒルデ/ローラントの従士たち/リューベツァールの物語/泉の水の精/奪われた面紗
にえ これは原書1842年版の挿し絵がついた、ちょっと豪華な大人のためのメルヒェン集。
すみ ムゼーウスっていうのは、グリム兄弟とちょうど入れ替わりって感じの前の時代の人なんだよね。ムゼーウスが亡くなったのが1787年で、グリム兄弟が生まれたのが1785年と1786年。ついでに言えば、 デンマークの作家アンデルセンは1805年生まれ。
にえ 原書が「ドイツ人の民話」ってことで紛らわしいから先に言っておくと、これは民話集ではないの。民話をもとにしてムゼーウスが創作した小説集。
すみ まあ、本当に楽しいメルヒェンでございました。って、ついつい18世紀ドイツの貴婦人になった気で、ちょっと言葉遣いも上品になってしまった(笑)
にえ ちょっと古めかしくもリズミカルで、ユーモアたっぷりの文章につられ、引き込まれてしまったね〜。
すみ 前に読んだ「金枝篇」で知った民間伝承話もちょこちょこ散りばめられていて、そっちでも楽しめたかな。ちなみに「金枝篇」のフレイザーは1854年イギリス生まれ。って、しつこい?(笑)
にえ 巻末の解説によると、14編のうちのこの6編を選んだ理由は、「ローラントの従士たち」と「リューベツァールの物語」以外は日本でもよく知られているメルヒェンを素材にしているから、とのこと。 その4編はグリム童話などでよく知られている話と比べる楽しみがあるけど、単に物語を楽しみたいだけの私は、知らない話のほうが興味深く、楽しかったかな。
すみ でも、知ってる話とはいえ、だいぶストーリーが違ってるから、なんか驚きのようなものがあって、それはそれで楽しかったよね。ということで、本格的にメルヒェンを楽しみたい方にはオススメの極上本です。
<三姉妹物語>
3人の美しい娘を持つ富裕な伯爵がいたが、王様のような暮らしぶりのため、財産をすっからかんに遣い果してしまった。ある晴れた日曜日、茹でたジャガイモばかりの食事にすっかり飽きた伯爵は、たまには肉のご馳走を食べようと森へ狩りに出かけた。 ところが森で大熊に出くわし、命を奪われそうになってしまった。必死で赦しを乞う伯爵に、大熊は長女を嫁にくれと言いだした。
にえ これは3人の娘が父親のために、それぞれ大熊、大鷲、大魚の嫁になってしまったが、大熊、大鷲、大魚は実は悪い魔法使いに呪いをかけられた王子様だったというお話。
すみ おもしろいのは3人の娘がいなくなったあとに生まれた弟が、3人の救出に向かうところからだよね。
にえ この話の中で一番気に入ったセリフは、「それとも姉上は夫の目をごまかすことができない唯一例外のドイツの奥さまなのですか」。クスリとさせられるじゃない。
すみ 地の文もおもしろいよ。単なる昔話じゃなくて、ベルガー博士とか、パッサウの秘法とか、蔓草ヴィンカとか、18世紀当時の有名人やら流行ものやらがたくさん出てきて、 当時の読者ならすぐにわかって、うんうん、クスクスッってところだろうけど、現代の読者にはなになにって興味津々。
<リヒルデ>
ブラバントの伯爵グンデリヒは子宝に恵まれなかった。不妊に悩む伯爵夫人ヒルデは高徳のドミニコ会士に救いを求めた。会士はすぐに子はできると告げ、本当にそのとおりになった。しかし、美しい娘リヒルデの成長を充分に見届けられないまま、 ヒルデは神に召されてしまった。
にえ リヒルデが15才の時に亡くなった母親は、リヒルデにある品物を遺していたの。その品物というのはドミニコ会士から頂いたもので、なにかといえば鏡なのよ。
すみ メルヒェンで鏡といえば「白雪姫」だよね。この鏡も使い方は同じなんだけど、お話はかなり違ってた。
にえ 違うかと思うと、同じなところも多くて、そのへんが興味深かったかな。
すみ 私たちの知っている「白雪姫」はある意味、子供だましなところもあるけど、こっちは妙に説得力があったよね。毒の話とか、人間関係とか。
<ローラントの従士たち>
皇帝カールの甥ローラントはピレネー山脈山麓のロンスヴァルでサラセン人との戦いのおり、命を落とした。下っ端従士のアンディオル、アマリン、ザルロンの3人は運良く逃げ延びることができたが、いまさら国に帰っても、ろくなことにはなりそうになかった。 3人は逃亡を決め込んで旅をはじめたが、喉はからから、腹はぺこぺこ、そこに明かりの漏れる洞窟の入り口を見つけた。
にえ 3人が見つけた洞窟の住人は魔法使いの老婆。3人は無事に老婆の住処から出られることになったんだけど、その時に、それぞれがもらったのが魔法の品物。
すみ どんどん金貨が出てきたり、どんどん食べ物が出てきたり、姿が消せたりと、それぞれに重宝な魔法の品なのよね。
にえ 3人がたどり着いた国にいたのが、なんとも蠱惑的な王妃ウルラカ。3人ともにウルラカに惚れ、そこからいろんな出来事が展開していくのよ。
すみ ウルラカの悪女っぷりがなんとも楽しいよね。ウルラカというのはお色気たっぷりの悪女につきものの名前なんだって。
<リューベツァールの物語>
ズデーデンの山にはリューベツァールと呼ばれる山の精が住んでいた。リューベツァールはあらゆるものに姿を変え、時には人をからかい、時には人を助ける気まぐれな精だったが、怒らすと怖い。 周囲の人々はなるべくなら山に行かないように、山に行ったら決してリューベツァールという綽名で呼んで怒らせたりしないように注意していた。
にえ これは一番長くて、一番おもしろかったお話。5つの話に分かれていて、もちろんどれもリューベツァールにまつわるお話なんだけど、それぞれが独立したお話なの。
すみ 最初のお話は、リューベツァールがエンマという姫に惚れ、さらってくるというお話なのよね。リューベツァールが姫にあたえるカブの話がおもしろかった。
にえ 2つめのお話は、山でリューベツァールの悪口を言った青年に、リューベツァールが手痛い仕返しをする話。3つめは、貧乏すぎて、にっちもさっちもいかなくなった男にリューベツァールがお金を貸す話。 どっちもリューベツァールが意外と情にもろいというか、やさしい精なのねとわかって、心温まるお話よね。
すみ 4つめは、4人の子供を連れて山に来た威勢のいいおかみさんに出会ったリューベツァールのお話、5つめは道に迷った貴婦人と令嬢たちがリューベツァールのおかげで遭遇した、なんとも不思議な夜会のお話。 この5つめのお話は幻想的、奇譚的で、他の4つとはちょっと違ってまた別の味わいがあったかな。
<泉の水の精>
強盗貴族ヴァッカーマン・ウールフィンガーには、心優しく慈愛に満ちた、マティルデという妻がいた。城山の麓の茂みにある泉に住むニクセという水の精は、マティルデの清らかさに好意を抱き、これから生まれるマティルデの娘の代母になると約束した。 ニクセは娘の生誕を祝福し、三つの願い事の叶う木製の香盒を与えた。
にえ やがて母を亡くし、父も城もなくし、女中に身をやつしたマティルデの娘が、三つの願い事の叶う木製の香盒をうまく使って、幸せを得ることができるのかってお話。
すみ じつは「シンデレラ」と似てたりもするのよね。でも、お話はだいぶ違っていて、こっちのほうがこれまた妙に説得力があったりするんだけど。
<奪われた面紗(ヴェール)>
シュヴァーネンタイヒ(白鳥ヶ池)のほとりには、当時たいそう珍味だったメロンを栽培し、人望も厚い一人の隠者がひっそりと暮らしていた。隠者は一人の弟子を得た。 弟子は師父を尊敬し、ともに暮らしたが、みずからの死期が近いことを感じた隠者は、なぜ自分がこのシュヴァーネンタイヒのほとりに住むことにしたかを話しはじめた。
にえ これは日本では「天女の羽衣」にあたるお話。でも、こっちのほうが長いぶん、お話も複雑になってておもしろかった。
すみ 同じような話は、世界各地にあるのね。「千一夜物語」にもあるお話なんだって。不思議ねえ。この「奪われた面紗」は話の展開がちょっとユーモラスだったりするんだけどね。