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 「木々は八月に何をするのか」 レーナ・クルーン (フィンランド)  <新評論 単行本> 【Amazon】
現代フィンランド文学を代表する作家の一人、レーナ・クルーンの「大人になっていない人たちへの七つの物語」
いっぷう変わった人びと/「人類の最善」あるいは「壮絶な娯楽」/毎日が博物館/木々は八月に何をするのか/秘密のコーヒー葦の物語/グリーンチャイルド伝説/未確認生物学者とその生物たち
にえ フィンランド文学を代表する作家の一人の短編集ということで、読んでみました。
すみ 登場人物の名前がしっかりフィンランドで、それだけでも嬉しかったよね。知らなかったフィンランドの風習についてもちょっとだけ知ることができて得した気分。
にえ 副題の「大人になっていない人たちへの」っていうのが、なに?と思ったんだけど、読んで納得。どれもなんとなく少年少女のための小説、みたいな雰囲気があって、 でも、子供向けの小説じゃなくて、な〜んか懐かしいような気持ちになるの。
すみ ジャンルはといえば、幻想小説だね。ファンタジーというより幻想小説と言ったほうがピタッとくるな。
にえ やや奇譚もの寄りだよね。とっても不思議で、ちょっとひやっとする怖さがあって。でも優しいというか、私たちがいだいてるフィンランドって雰囲気があると思ったんだけど。作者もムーミン谷にいそうな人だし。
すみ げ、あなた今、どさくさに紛れてものすごく失礼なことを言ったよ(笑)
にえ そう? じゃあ、どさくさでもうひとつ言っちゃう。挿し絵がついてて、レーナ・クルーンのお姉さまが描いたものだそうだけど、これは小説の雰囲気と合ってなくて、ない方がよかったかな。絵についてる一言も含めて。
すみ 絵は人それぞれ好みがあるからね。でも、小説のほうはよかったでしょ。YA本なみに読みやすくて、しかもちょっと不思議な気持ちになる小説をお求めなら、オススメです。
<いっぷう変わった人びと>
インカは嬉しいことがあると、宙に浮いてしまう。家族はそれをとても恥ずかしがっていたけれど、インカはわざとやっているわけではないし、おばあちゃん譲りだからしょうがない。インカが五年生の秋に教区の聖歌隊に入隊させられた。 そこには、ハンノという影のない少年がいた。二人はすぐに友だちになった。
にえ これが最初だったんで、あれ、この本は大人向けじゃなかったのかな、と思ってしまった。宙に浮く少女と、影のない少年、それに鏡に映らない少年が加わって、クラブを作るお話。
すみ 最後がなんとも切なかったね。大人になるってことは、なにかを得て、なにかを失うのよね。どちらにしても、あと戻りはできない。
<「人類の最善」あるいは「壮絶な娯楽」>
町に新しくテーマパークができた。ロッレはおじさんとおばさんと甥っ子のクラスと一緒に、そのできたばかりのテーマパークに行けることになった。 だが、収益金を『人類の最善財団』にすべて寄付するというそのテーマパークは、どこかおかしかった。
にえ これは少年少女向けホラー小説って感じ。テーマパークのなかは、本物の野獣がいるジャングルや、氷水の水上コースターなどなど、とんでもない乗り物だらけなの。だんだん本格的に怖くなってくるし。
すみ あとで出てくる支配人の無気味な説明が妙に説得力があって、納得しそうになってしまった(笑)
<毎日が博物館>
私は母と、母の故郷であるニュフヤラという小さな町を訪れた。そこには今では人が住んでいない。衣料品で財をなしたライネル・リューサという男が、町すべてを自分の博物館にしてしまったからだ。 各家の扉にはそれぞれ年月日が書かれている。家のなかではその日に、ライネル・リューサが何をしたかが思い出の品と一緒に展示されているのだ。
にえ 巨万の富を得ながらも孤独で、他のだれも興味がない自分史の博物館をつくっちゃった男の話。
すみ 不思議な読後感。喪失感というのか、なんとも寂寥とした、でもこれでいいんじゃないの、みたいな。
<木々は八月に何をするのか>
薬剤師は定年退職したあと、自宅の庭園に情熱のすべてを傾けた。大きな温室には、世界中の珍しい植物が植えられ、信じられないほど大きな花が咲いている。 しかし、聖歌隊の隊長の長男であるアーペリといういたずらな少年が、温室のガラスを割ってしまった。薬剤師の歳月と忍耐は一晩で崩壊してしまった。薬剤師はその恨みを忘れることはなかった。
にえ 青年となったアーペリが、恋人に特別な花をあげたくて、薬剤師のもとを訪れるの。もちろん、復讐のチャンスよね。
すみ 薬剤師はアーペリに3つの質問をするんだけど、そのひとつが「木々は八月に何をするのか」。正解は読めばわかるんだけど、ちょっと哲学的なお話だった。
<秘密のコーヒー葦の物語>
夏の間だけ祖母の家で過ごすヴェーラには、一人でコーヒーを飲むためのお気に入りの場所があった。葦の原が見渡せる、朽ちかけた古い桟橋だった。 ここにはヴェーラ以外、誰も来ることがない。ところがある日、犬を抱えた不思議な少年が現われた。
にえ 自転車に乗って走っていく不思議なおじさん、いつのまにか現われて、いつのまにか消えてしまう少年と犬、その正体とは、って話。
すみ 少女時代の夏がキラキラと描かれていて、涼しい風が吹いてくるような心地よさがあったね。
<グリーンチャイルド伝説>
オルガは、髪の毛が白くて細い、皮膚はロウのように蒼白、瞳は丸くて黄味がかっている、耳は先端に向かってすぼんでいて、顔の形は三角形、そんな風変わりな容姿の少女だった。 オルガのおばあちゃんもオルガという名前だったが、やはり同じような見てくれをしていたらしい。
にえ 不思議な容姿をしたオルガのおばあちゃんは、一体どこから来たのか。おばあちゃんの拾われた子供時代の話から、意外なほうへ話が展開していくの。
すみ このお話は特に好きだな。お話が二重になってるところがあったりして、興味深かったし、想像が膨らんだ。
<未確認生物学者とその生物たち>
未確認生物学者のカルコ・ウトラは、実際には存在しないはずの、非公式な生物の存在を認めるため、世界中を旅していた。この世のものとは思えないほど珍しい動物を見かけたら、 すぐにウトラに知らせればいい。ウトラはすぐに駆けつける。ところが忽然としてウトラが消えてしまった。自分にもしものことがあったときのためにと、友人に日記を残して。
にえ 未確認生物を追うウトラが出会う、いくつかの未確認生物がらみの不思議な話と、ウトラがどこに行ったのかって話。こ、これはっ。
すみ そうなのよね、ベルナール・ウエルベルとまんま重なるところがあったのは、偶然なのか、故意なのか。