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 「灰と土」 アティーク・ラヒーミー (アフガニスタン→フランス)  <インスクリプト 単行本> 【Amazon】
老人が孫を連れ、検問所で炭坑に向かうトラックを待っている。老人の名はダスタギール、孫の名はヤースィーン。ダスタギールはソビエト軍によって村が壊滅させられたことを、炭坑で働く息子のモラードに伝えるため、 はるばるやってきて、もう何時間もトラックを待ち続けているのだ。ヤースィーンは耳が聴こえない。ソ連軍の攻撃を受けたときに聴こえなくなってしまったのだ。
にえ これは、アフガン作家アティーク・ラヒーミーの処女小説であり、初翻訳本です。
すみ アティーク・ラヒーミーは今ではアフガニスタンを出てフランスに住んでいるけど、この小説はダリー語で書かれたものだそうです。あとでフランス語で翻訳出版され、高い評価を受けたそうですが。
にえ 本人が監督をして映画化もされてるみたいね。2004年夏に配給予定だって。詩情豊かな、本当に味わい深い小説だから、映像で観られるのだったら観たいな。
すみ ページ数も百ページをちょっと超えるぐらいで、字も行間も大きめだから、短編小説か、せいぜい短めの中編小説っていうところだけど、含まれているものの大きさは無限だったよね。ズシンときた。
にえ 時代はアフガニスタンにソビエト軍が侵攻したときだから、1979年の頃かな。一昔前っていうことになるけど、平和な時代に不幸な時代を振りかえるのとは違うからね。
すみ 老人ダスタギールに「きみ」と話しかける二人称小説なのよね。それがまた読んでいるとなんというか、他人事で片づけられなくなる感触で読むことになるの。
にえ ダスタギールは炭坑へ向かうトラックを待ちながら、息子のモラードに村が全滅したこと、母親が亡くなったこと、奥さんがおかしくなってしまったことをどう告げればいいのかと悩んでいるの。
すみ 孫のヤースィーンを連れているけど、話し相手にはならないのよね。ヤースィーンの耳が聴こえなくなっているから。
にえ ヤースィーンは自分の耳が聴こえなくなっているとは思ってないのよね。ソビエト軍が攻めてきたせいで、世界に音がなくなってしまった、おじいちゃんも他の人も、声を失ってしまったと思っているの。
すみ ダスタギールはトラックを待ちながら、息子に思いをはせ、過去を振り返り、未来に悩み、そんなふうにして話は進んでいくの。
にえ ストーリーじたいも停止しているわけじゃないのよね。近くにあった雑貨店の店主と話したり、検問所の番人とのやりとりがあり、トラックの運転手との会話があり、と時は確実に進んでいく。
すみ 全部でどれくらいだろう、半日ぐらいのお話。しかも読みやすくて、本当にもうススッと読めちゃう。
にえ でも、読後は余韻がすごいよね。言葉をなくしちゃう。
すみ うん、言葉をなくすね。ダスタギールに完璧に感情移入してしまうから、どう言えばいいのかわからなくなる。
にえ 惨劇の描写じゃないから、激しく動揺するところはないんだけど、少しずつ少しずつ胸に迫ってきて、最後には大きく胸をふさいでしまうの、その感情を言葉で表現できないんだけど。
すみ あまりの余韻に、私は巻末の訳者のあとがきは小説を読んだ翌々日になってようやく読んだんだけど、今日に至るまでにラヒーミー自身の経験したことや小説のなかに何度か出てくる「王書」やリンゴの花模様のスカーフについてなど、 私たちが知らなかったアフガニスタンについて教えてくれてあったりして、こちらも印象深かったな。
にえ ラヒーミーは、過去を扱った小説を書くだけじゃなく、現在に至るまでのアフガニスタンについても世界に訴えかけていこうとしているんだよね。
すみ この小説はぜひ読んでそれぞれに感じとってほしい。だれにでも読みやすい、でもとても深い。ただ辛くなる小説でもありません。もちろん、オススメ。