=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「冷たい心の谷」 上・下 クライヴ・バーカー (イギリス→アメリカ)
<ソニー・マガジンズ 文庫本> 【Amazon】 〈上〉 〈下〉 ハリウッドの創生期、美貌の女優カーチャ・ルピとともに彼女の故郷ルーマニアを訪れたマネージャーのゼファーは、ゴーガ砦の修道院で驚くべきタイル絵を見つけ、 カーチャのスペイン風の城のような屋敷に飾ろうとアメリカに持ち帰った。その屋敷はハリウッドのはずれの峡谷にあり、冷たい心のカーチャが住んでいることから、 コールド・ハート・キャニオンと呼ばれていた。そして現代、ハリウッド・スターのなかでもとびきりのハンサム・ガイと賞されるトッド・ピケットが、三十歳を過ぎて少しずつ見えてきた老いに恐怖をおぼえ、 美容整形に踏み切った。ところがケミカル・ピーリングに失敗してトッドの顔は見るも無惨に。トッドのエージェントであるマクシーンは、トッドがしばらく身を隠すために屋敷を用意した。 その屋敷こそが、かつてカーチャ・ルピがハリウッド中のスターを集め、妖しげなパーティーを開いていた屋敷だった。 | |
クライヴ・バーカーは「アバラット」しか読んでいなかったので、普通の小説も読んでみることにしました。 | |
まあ、だいたいどういう作家さんかはわかった気がしたよね。 | |
エロエロでグログロとは聞いていたから覚悟はできていたけど、本当にエロエロでグログロだった(笑) | |
うん、マルキ・ド・サドばりの描写が続くところがあったね。でも、ずっとこの調子だとさすがにしんどいかなと思ったけど、ほどよいところで終わってくれたけど。 | |
なんかでも、エロエロしてても淡々と読めなかった? なんというか、女が好きで、よだれを垂らしながら書いている男性とはちょっと違うから、なんかこっちも冷めて読める描写だった。 | |
そうそう、エロエロのところは、わおっ、マルキ・ド・サドだって感じで読めた。でも、他のところで男性シンボルに対する異常なまでの固執が見られて、そちらはなんというか、笑ってしまった(笑) | |
うん、すごかったね。とくに○ンポコが「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪アンテナのような役割を果たしているところがあったでしょ、そこは私もブハハッと笑ってしまった。 | |
グログロのところはバケモノみたいのが出てくるでしょ、あれはどうしても「アバラット」で見たクライヴ・バーカーの絵を思い出したな。 | |
そうねえ、あの絵がクライヴ・バーカーの頭の中にあるものをそのまま描いているとすれば、あの絵を想像しとけば間違いないのかもね。私はもうちょっとドぎついのを想像してしまっていたから、 ホッとしたかな、グログロに関しては。 | |
エロエログログロのホラー以外で、この小説のもうひとつのお楽しみは、カーチャという謎の女性が無声映画時代の女優ってことで、セダ・バラとか、クララ・ボウとか、ルドルフ・ヴァレンチノとか、 往年の名女優、名俳優の名前がどんどん出てきて、それからトッドが現代のハリウッド・スターってことで、今現在活躍している俳優さんの名前もどんどん出てきて、いろんなエピソードが紹介されてるところかな。 | |
往年の名俳優については超有名どころはともかくとして、このへんはクライヴ・バーカーを読むような最近の映画好きの人では知らないんじゃないのって名前が次々に挙げられて、そのなかに架空の俳優さんが混ぜられているみたいだから、 どの人が実在して、どの人は創作なのか、読者がわからなくなるってところがおもしろいところかもね。完全に惑わされちゃう。 | |
ハリウッド・スター、広大な敷地の中に立つ妖しげな謎を秘めた屋敷、ルーマニアに伝わる悪魔の妻と悲劇の王の伝説、と、きっちりお膳立てがそろったところで話がはじまってたよね。 | |
ルーマニアっていうのが、けっこうベタな気はしたけどね。なんかホラーといえばルーマニアというのが単純でわかりやすくて。 | |
カーチャはルーマニアの貧しい村で生まれ育ち、残酷な母親によって壮絶な少女時代を過ごし、逃げてブカレストに行ったところを、マネージャーのゼファーに見出されたのよね。 そういう生い立ちがあるから、冷たい心の持ち主になってしまったの。 | |
全体的にいえば、いろんな映画や小説からうまいこと題材を拾ってきて、合成して、目新しく感じるような小説に仕上げたって感じかな。 | |
今は忘れられた無声映画時代の女優が住む壮大な屋敷、愛のためにその女優に盲従する男って設定は、映画「サンセット大通り」のもろパクリだったよね。あらま、これはと思ってるところで、 クライヴ・バーカー自身が、「サンセット大通り」の名前をさりげなく出しているんだけど。 | |
その手法は最近の流行なのかな。思いきりパクっておいて、そろそろ読者が気づいたかなってところで、もとネタをばらして、ちゃんとわかってるんだよ〜と示すという。そうすると読者は、なんだ、 こっそりやってることじゃなくて知的パロディーだったのねと感心しちゃう。でも、もう何度めかなので私は騙されない、ごまかしたってパクリはパクリじゃないか(笑) | |
まあ、アメリカの作家さんって、だれか一人がうまいことやってると、こぞってみんなで真似する傾向があるからねえ。 | |
あとも、どこかで読んだぞ、聞いたぞってのが多かったな。私じゃ知識が足りないからきっちり全部のもとネタは挙げられないけど、なんか持ってきたな〜って匂いはプンプンした。 | |
私が一番気になったのは、最初のほうのところで、トッドがバローズって美容整形の医師に入れていたんだけど予約を取り消すのね、あることが起きたからって。で、そのあることが終わってから、バローズを紹介してくれた人に電話をして、 やっと決心がついたからバローズの連絡先を教えてくれって言うの。何回読み返してもこれがわからない。連絡先を教えてくれっていっても前に予約してたんじゃなかったのかなって思うんだけど。すでに時軸の歪みが起きてるの? | |
なんかまあ、そういう小説なんでしょ。いろいろ考えないで、読んでるときだけ楽しければいいという。 | |
でも、読んでいるあいだは夢中になって読めたよね。とくにトッドのファンクラブ会長の、かなりのおデブで顔もイマイチの三十代女性が出てきてからは、グググッと楽しくなったし。まあ、このキャラも目新しいとはいえないんだけど。 | |
ま、最後の付け足しのような2章は、なんか無理くり作品を高い位置に持っていきたいというところが見えなくもなかったりして、ちょっと退屈ではあったけど、全体としてはいい感じの描写もたくさんあったし、それなりにおもしろく仕上がってたと思うよ。 | |
私たちはごちそうさまだけど、楽しめるところは多いから、読みたい方はどうぞってところでしょうか。 | |