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 「チャールズ・ブコウスキーの酔いどれ紀行」 チャールズ・ブコウスキー (アメリカ)
                                        <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】

ブコウスキーは愛するリンダ・リー、同行カメラマンのマイケルと旅立った。有名なテレビ番組のトーク・ショウに出演するためにフランスへ行き、 そこから90歳の叔父ハインリッヒに会うために故国ドイツへと渡る旅だった。
チャールズ・ブコウスキー(1920年〜1994年) ドイツ生まれ。幼時にアメリカに移住。
にえ 私たちにとっては初ブコウスキー作品。たまたま文庫本が出たところだったので、彼には珍しいという小説外の紀行文を読むことになりました。
すみ ブコウスキーは現代アメリカ文学のアウトサイダー的な存在みたいね、さすがに名前だけは知ってたけど。詩と小説を書いていて、 小説のほとんどはヘンリー・チナスキーという、ブコウスキーの分身みたいな主人公のノン・フィクションに近いような小説らしいんだけど。
にえ チナスキーと同様に、ブコウスキーもかなり破天荒な方みたいね。この本でも、やたらとお酒を飲んで暴言を吐いてた。
すみ でも、その奥にナイーヴさや優しさ、子供っぽさや臆病さまで見え隠れさせていて、とっても可愛らしく感じさせたよね。
にえ うん、リンダ・リーにメロメロなところも可愛かった(笑)
すみ この本は紀行文だけじゃなくて、マイケル・モンフォートによる旅中の写真がたっぷりついていて、最後には詩までついていて、 ファンならずとも、かなり楽しめるつくりだったよね。
にえ うん、とくに写真が素晴らしくよかった。ブコウスキーの表情のとらえ方が驚くほどグッとくるのよ。時にはとろけるほど優しげに、 時にはハッとさせられるほど鋭く。背景とあいまって、どれも絵になってたな〜。何度も見返しちゃった。
すみ 詩も、この旅で題材を得て書かれているものだから、ぜんぶでひとつって印象だよね。
にえ でも、そのまんま旅の記録っていうわけでもないみたいだけどね。時間を前後させたり、二つの旅をひとつの旅のように書いてあったりして、 きちんとした作品になるよう手が加えられてるみたい。
すみ そりゃそうだよね、単なる旅の記録だったら、こんなに楽しく、感慨深くは読めないよ。そのへんを読んでるあいだは感じさせないのが作者の上手さだけど。
にえ それにしても、よく飲んでいたよね。飲んでいるのはだいたいがワインなんだけど、その量が半端じゃなかった。
すみ 飲んでたね〜。テレビ番組に出るときも、取材を受けるときも、朗読会でも飲んでて、飲んでないときは半ネム状態(笑)
にえ フランスでは、テレビ番組でとんでもないことを。でも、それがよいほうに転がったりするんだけど。
すみ ドイツでは、いろんな人に会ってたよね。翻訳家のカールの登場が一番多かったけど。とっても親切で楽しい人みたい。
にえ ドイツで叔父さんに会い、忘れていた自分の生家を訪ねるんだけど、そこの短い記述が一番印象深かったかな。
すみ 両親が出会い、親しくなったときのエピソードを叔父さんが教えてくれるんだけど、ブコウスキーは優しい気持ち人はなれないたいだったね。
にえ 両親については複雑すぎて書けない、少年時代のことは書きたいけど、これまで他の作家が書いたものにはろくなものがない、みたいなことを言ってたよね。
すみ ということは、自伝的小説「くそったれ! 少年時代」を書いたのは、これよりあとってことなのかな。他の作品を読んでる人だったら、そのへんも楽しめるかも。
にえ 読んでない私たちは逆に読みたくなったよね。ドイツの叔父さんが1作だけ好きになれないって言ってたその作品は私も読みたくないと思ったけど(笑)
すみ ヘミングウェイはあんまり好きじゃないとか言ってたけど、これを読んだかぎりではちょっと似てるような気がしたな。男性独特のナイーヴさみたいなものが。 本人は嘘か本気か、カーソン・マッカラーズの名前なんて挙げてたけど。
にえ 心の内をさらけ出すとまではいかないまでも、弱さもひっくるめたいろんな面を見せてくれて、それはそれでまた作家なのだから創作的な部分もあるのかな、なんて思いつつ、 惹かれるものがあったよね。小説を読んでないから好きか嫌いか決められないけど、とりあえず私はブコウスキー、気に入った。
すみ 城も美術館も好きじゃないってことで、行ってることは行ってるけど描写もほとんどなくて、紀行文とも言い切れない作品だったよね。でも、たしかになんだか魅了されたな。 もちろん、ストーリーのある小説ではないから、興味がある人だけお試しあれってことで。