すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
「ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日」 キンバリー・ウィリス・ホルト(アメリカ)  <白水社 単行本> 【Amazon】
テキサス州の田舎町アントラーは、なにも起きない町だった。ところがある日の午後、古い青のサンダーバードが一台、派手なトレーラーを引いてやってきた。 トレーラーに乗っていたのはザッカリー・ビーヴァー、世界一太った少年だ。一時間も経たないうちにアントラーの人口の半分が、一ドル札を二枚握りしめて、この見せ物のために集まった。 13才の少年トビーとその親友キャルも、さっそく列に並んだ。1999年全米図書賞ヤングアダルト部門受賞作。
にえ これは13才の少年が主人公ということで、全米図書賞はヤングアダルト部門で受賞した作品ですが、日本ではどちらかというと大人向けの小説の扱いになっているかなって感じです。
すみ 読んでみればわかるけど、むしろ大人に読んでほしい小説だったもんね。
にえ そうそう、私が13才の時なんて、13才の少年が主人公の小説なんてぜったい読みたくなかったもん。大人が悩み苦しむとか〜、犯罪を犯すとか〜、罠にはめられて地獄を見るとか〜、人を騙して巨万の富を築くとか〜、そういう小説が読みたかった。
すみ はいはい(笑) でも、やっぱりこういう少年少女のお話って大人になった今読んだほうがジンジンくるよね。
にえ この本は特にね。後半はもう、ウルウルきっぱなしだった。私も大人になったものだなあ(笑)
すみ 主人公のトビーは、ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日、お母さんは全米カントリーミュージック・アマチュアコンテストに出場するため、ナッシュビルに行っていて留守なの。
にえ お母さんは歌手になるのが若い頃からの夢だったのよね。優勝すれば念願の歌手に! でも、トビーとしては不安だよね。
すみ 歌手になったお母さんと全米ツアーに発つ夢を見つつも、もしかしたらお母さんが帰ってこないかもという不安を抱えつつってところかな。
にえ ということで、今はお父さんと二人で家にいるんだけど、お父さんは郵便局の局長で、副業としてミミズの養殖もやってるの。
すみ お父さんがよいよね〜っ。あまり口数は多くないんだけど、愛情がにじみ出てるタイプで。トビーは一緒にいてもおもしろくない人と思ってるみたいだけど。
にえ トビーの親友のキャルの家には、両親と一人の兄と一人の姉が。お姉さんは運転免許を取得しようと奮闘中。
すみ このお姉さんがまたよいのよ〜。最初のうちは、パッとしないタイプの娘って印象しかなかったんだけど。
にえ 本当はもう一人お兄さんがいるのよね。ウェインっていうトビーの憧れの人。今はベトナム戦争に出兵中。つまり、その時代のお話なのね、これは。
すみ ウェインがまた素敵なの〜。声をあらげて弟を怒るなんてことは絶対しないタイプ。子供っぽい話でもうん、うんってずっと聞いててくれそうな。
にえ でもさあ、トビーはわざわざ友だちのお兄さんに憧れなくても、素敵なお父さんがいるのにね。このへんが大人になるとよくわかる。子供時代ってそういうものだよね。
すみ トビーには憧れの女性もいるじゃない。娘のうちからお色気たっぷりの金髪美人って感じのスカーレット。変な妹がいるんだけど。
にえ その変な妹が妙にかわいくなかった? 次から次から悪気もなくロクなことをしないの。私が姉だったら、しょっちゅう泣かせちゃいそうだけど(笑)
すみ それより、スカーレットもお色気ふりまいてるだけかと思ったら、ホロッとさせてくれたじゃない。この娘もよかった〜。
にえ そして、そんな子たちのいる町にやってきたのが、公称体重292キロのデブ少年ザッカリー・ビーヴァー。トビーやキャルたちとちょっとした交流がはじまるんだけど、 こいつがほんとうに憎たらしい小僧、いや大僧なんだわ。
すみ ザッカリーを連れて旅をしていた男がいなくなり、アントラーの町に一人で残されてしまったザッカリーはどうなるのでしょうって話。ザッカリーがまたよかった。ああ、みんな大好きっ。
にえ そこに様々な人たちのドラマが加わっていくのよね。他にもミス・マーティー・メイの話とか、やさしすぎるリーヴァイ保安官とか、抵抗できずに引き寄せられちゃう登場人物ぞろいだった。
すみ とにかく、お涙頂戴物がだいっ嫌いな私たちがすっかり気に入ってしまったんだから間違いなし。これは本物。もちろん、オススメです。