すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「薔薇の名前」 上・下巻  ウンベルト・エーコ (イタリア)  <東京創元社 単行本> 【Amazon】〈上〉 〈下〉
中世北イタリアの山の頂にある壮大な僧院で、謎の殺人事件が起こった。調査を依頼された修道士 ウィリアムとその弟子アドソは、長旅の末に僧院に着く。だが、ウィリアムは殺人ではなく、自殺では ないかと推理した。それにしても、僧院のなかは愛憎にまみれ、複雑で奇怪な人間関係が形成されているし、 だれもがなにかを隠している様子だ。入ることを拒まれた文書庫も怪しい謎に包まれている……。 そんな中、第2、第3と殺人は続き、謎の解明に奔走するウィリアムとアドソだが。
にえ 読みたい本はいっぱいあるけど、とにかく前から読みたいと 思っていたこの人の本を読まないと先には進めない、ってことで、今回『薔薇の名前』、次回『フーコー の振り子』と連続してウンベルト・エーコです。
すみ で、『薔薇の名前』ですが、おもしろかったよね〜。
にえ うん、読みやすかったしね。なんか読む前に考えすぎて、すっ ごい難しくて、わかりにくい小説なのかと思いこんじゃってたから、スイスイ読めてびっくりした。
すみ 悩むより読め、の良い例だね(笑)
にえ 文章はね、最初の導入部だけちょっと堅めで、あとは普通の 読みやすい文章でした。翻訳家さんに感謝! あと、会話や行動が多くて、長い説明に読んでてうんざり、 なんてこともなかった。
すみ 舞台は1327年の北イタリアの僧院。下界とは隔絶されたよう な山の上の、巨大な僧院で、複雑な建物は書庫が迷路みたいになってたりして、なにやらオドロオドロしいの。
にえ ゾクゾクしちゃうね。そこに現れるには二人の修道士、イギリス 人のウィリアムとその弟子のアドソ。この二人が、探偵と助手ってことになるのよね。
すみ ウィリアムが良いのよね〜。頭が切れて、知識も豊富。でもユー モアのセンスがあるし、弟子のアドソに「かぼちゃ頭」なんて平気で言っちゃうし、謎を解いたあとでちょ っと自慢したくなるかわいらしさもあるし。
にえ ドジも踏むしね。近寄りがたいような完璧な人ではなくて、 人間くさい人なのよね。暗く重厚なストーリーに、親しみのわく探偵。ちょっと金田一耕助を 連想しちゃったよね。
すみ そうそう、僧院の中で連続殺人が起こるんだけど、ある文章に そった殺され方といい、死体の硬直した脚だけがニョキ〜なんて処理の仕方も、金田一シリーズで読んだよ うな、と思っちゃった。
にえ たっぷり盛り込まれた謎解きもすっごくおもしろかったよね。
すみ 謎はもちろん殺人犯は誰かってことでしょ、それに複雑な建物 の中でもさらに複雑な造りの書庫の迷宮、秘密の扉を開けるために解く文字の暗号、人間関係、隠された過 去、幻の書物・・・キリがないぐらいあったね。
にえ でも、わかりやすく書いてくれてて、つきはなされることはなかったよね。
すみ うん。迷宮の謎にはちゃんと見取り図が掲載されてたし、 文字の暗号解きも丁寧に書いてくれてたし。
にえ 僧院の過去の歴史とか、キリスト教内の異端派や会派の違いの 揉め事も、わからなくなるほどの数ではなかったし、シンプルだからわかりやすかったよね。
すみ うん、同じ薔薇でも『五輪の薔薇』の5つの家系みたいに、 入り組んじゃって、もつれあって、ってかんじではないから、図なんて書かなくても、丁寧に読めば理解 できる範囲だった。
にえ それにしても、神に仕える修道士たちが口汚くののしりあうさ まは迫力だったよね。
すみ なんでそういうのを読むと喜んでしまうんでしょう、私たちっ てホント下世話。
にえ でもさ、異教徒のエピソードなんかもたくさん挿入されてたけ ど、まだ魔女や悪魔が信じられてる時代の話だから、虚々実々まじりあった濃厚な話で、どれもおもしろか ったよね。
すみ エピソードなら他にも、眼鏡や磁石、火薬なんかの科学的な ものが珍しかったりする時代だから、世界ではこういう物が発明されているのだぞ的な話もいっぱいあったし、 薬草のウンチクとかも興味深く読めたし。
にえ うん、ホントいろいろな話がつまってて、雑学、風俗学的な読 み物としても楽しめたよね。
すみ なんか一杯つまっててもメリハリがあるから一気に読めたんだよ ね。ダラダラ続けなくて、重い話の次は軽い話になってたりとか。
にえ 七日間で、その一日一日をまた細かく時間で区切って章にわけてくれ てたから、その辺も良かったんじゃない? 
すみ そうだね、話が章ごとでとりあえずは一段落するし、時間をそ のまま追えるから混乱しないしね。これで時間を前後されちゃったらつらいよね。
にえ 内容はもう文句なしに豊か。たとえばドアの装飾とか、 本の挿し絵とかを、怪奇色たっぷりでめんめん綴ってたかと思うと、淡い恋の話まで織り込んでたりして。
すみ 主軸のストーリーも、グロテスクなまでの愛憎関係や宗教観で ズシッと重くしながらも、ドジを踏んだり悪態ついたりする二人の滑稽さに救われたりで、一回も止まらず に一気に読めるよね。
にえ なんか、横溝正史さんの世界と荒俣宏さんのウンチクを合わせて、 14世紀初頭のイタリアの僧院を舞台にした、そういう印象だったな。
すみ ということで、めいっぱい楽しめました〜。