すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「消えた少年たち」 オースン・スコット・カード (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
32才の敬虔なモルモン教徒ステップ・フレッチャーは、フリーのゲームデザイナーだった。<ハッカー・スナック>というゲームソフトを大ヒットさせ、多額の金を得て、ローンを組んで家を建て、 大学に行って歴史で博士号をとって教鞭に立ったりもしたが、やがて<ハッカー・スナック>の印税が入ってこなくなると、 たちまちのうちに経済的な窮地に陥った。妊娠中の妻ディアンヌと3人の子供を連れ、インディアナ州のヴィゴアから、再就職先の会社のあるノースカロライナ州のストゥベンへ引っ越した。 しかし、会社は入ってみると随分とおかしな雰囲気で、家庭では、長男のスティーヴィの様子が日増しにおかしくなっていく。しかも、この町では次々と少年たちが姿を消していた。
にえ これは短編小説で発表されてローカス賞を受賞した作品を、あとから長編にしたものだそうです。 私たちにとっては、初オースン・スコット・カード作品。
すみ で、いきなりですが、これからこの小説を読む予定の方、それから前に読んでとても気に入って、この小説を大切に思われている方は、 ここでこのページは閉じちゃって、ここから先は読まないでください。私たちには合いませんでした〜。
にえ どうもアメリカの小説の独特のどぎつさというか、むき出しの残酷さが私たちには合わないみたいねえ。残念。
すみ まあ、ネット上にはこの作品の良さを理解して、魅力をたっぷりご紹介しているサイトがたくさんあるのだから、 なにも私たちの意見をむりして見なくてもねってことで。
にえ お話はね、フレッチャー一家が南部の小さな町に引っ越してくるところから始まるんだけど、 ここには家のまわりにも、学校にも、会社にも、精神を病んだ人、そこまでいかなくとも、かなり性格の歪んだ人たちがたくさんいるの。
すみ 自分の南部なまりの言葉を聞き返されたがために、一人の生徒を執拗なまでに虐めるヒステリックな女教師とか、 幼女に性的な興味を持つ青年とか、自分を神だと信じ切ってる青年とかね。
にえ あとは、そこまでいかないけど、金の亡者となって他人からは美味い汁を吸うことしか考えてない奴とか、 自分に反発してきた人の息子に近づいて、言葉巧みに洗脳しようとするババアとか、陰湿に部下を虐める上司とか。
すみ 気色の悪い人たちと、閉塞的な雰囲気が漂いまくってたよね。
にえ そんな中に飛び込んで、なんとか一家を護ろうとするのが、一家の大黒柱ステップ・フレッチャー。
すみ ステップはステップで、迫り来る借金地獄や会社勤め嫌いとか、自分の問題をたくさん抱えているんだけどね。
にえ ステップは良き父であろうとするし、実際に良いお父さんなんだろうけど、ステップが何度も何度も口にする、 殺される前に殺せ、というような、病んだアメリカの代表みたいなセリフには、どうしても共感できなかった。
すみ ステップは敬虔なモルモン教徒ってことで、信仰を持っているんだけど、やっぱり愛とか赦しとかの前に、殺される前に殺してやる! なのよね。 アメリカのような国で暮らしてると、しかたがないのかなあ。
にえ そんななかで、8才になる長男スティーヴィの様子がどんどんおかしくなっていくの。
すみ どんどんおかしくなっていくというか、読んでる私たちは前の状態を知らないから、前はこんな子じゃなかったといくら言われても、 陰気で、うち解けることがなく、いつも少しだけ苛立ってて、内に内にこもっていくスティーヴィしか知らないことになるんだけどね。
にえ そうなんだよね。もうちょっとスティーヴィの良さがわかるような記述があって、私にもスティーヴィが好きになれたら、 この小説じたいの印象もかなり変ったと思うんだけど。
すみ 弟のロビーは可愛かったけどね。ジョークってものを上手に使えるようになりたくてしょうがない、 好奇心たっぷりの明るい男の子で、お兄ちゃんにも妹にもなにかとやさしい思いやりと示すの。
にえ で、なにが書かれているかというと、最後の最後にある急展開に達するまでは、ひたすら家族の日常の出来事。 これはまあ、興味深くはあるんだけど、長かった〜。
すみ 陰湿なお話の連続で、息が詰まってきたよね。とにかく一家には借金が重くのしかかってくるし、 会社の人間関係は歪んでるし、そのほかでも病んだ人、歪んだ人たちとの対決につぐ対決で。おまけに、あいつぐ虫の異常発生でしょ。
にえ 事件の犯人については、長い長い前置きを読んでいるあいだに予測は立っちゃうんだけど、これはまあ、 マイナス点ではないよね。他の部分に力をおいた小説だから。でも、さすがにここまでたどり着くまでの道のりが長々としていると、ここはいらかなったんじゃないかとか、 あそこは削ったほうが良かったんじゃないかとか、よけいなことを考えちゃう。
すみ 私はとにかくもう、うっすらと気色の悪い人たちが次々と出てくるものだから、最後のほうは善人が出てきても、 この人もなにか裏の薄暗いところがあるんじゃないの、と疑って、疑心暗鬼になってしまった。
にえ 夫婦愛もたっぷり語られてて、そこで感動しなくちゃってところも要所、要所にあったんだけど、ちょっと理解しきれなかったね。なんか話しあって、 納得しあってからなんでも決めていきたいって言ってるわりには、どのシーンでも、お互いの主張をぶつけあったあとで、どっちかが我慢して言いたいことも言わずに、これ以上もめたくないから折れるって感じだったし。
すみ 正直なところ、ラストも唐突すぎて、感動できなかった。そういうものなの?っていう疑問も残っちゃったし。とにかく、スティーヴィは親に心を開かない子供だったな、なんて変な印象が残ってしまったし。 ということで、私たちはごめんなさいでした。