すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「農家の娘」 ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ (アメリカ)  <太陽社 単行本> 【Amazon】
詩人であり、短編作家でもあるウィリアム・カーロス・ウィリアムズの8編の短編集。
心と体/顔に吹き出物ができた少女/明日の夜明け/六月のある夜/コメディー・インツームト/時のナイフ/表情のない顔/農家の娘
すみ ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは、私たちは知らなかったけど、超有名な詩人です。で、短編小説もたくさん書いているということで、 この本はその中から抜粋した8作品を収録。
にえ 詩人の短編小説というと、どうしても透明感のある詩的な文章で、ちょっとわかりづらく現実離れしたようなものってのを 想像しちゃうんだけど、ぜんぜん違ったね。
すみ そうだね、詩人というところから想像せず、「農家の娘」という題名と、牧歌的な表紙の絵から想像したほうが近いかも。
にえ とても地に足が着いたというか、本当にあったのだろうなと思わせる、日常的な何気ない出来事をつづっていて、 ストーリーらしきものも落ちらしきものもなかったりするの。
すみ 詩のほうもきっとそういう、地に足が着いた感じなんだろうね。
にえ ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは1883年生まれ、父親がイギリス人、母親がプエルトリコ人で、 パターソン近郊の故郷ラザフォードで四十年以上開業医をつとめていた人で、文学と医業の両方を平行して続けていたのだそうな。
すみ この本に収録されている作品も、医者である私が語り手になってるものがほとんどだったよね。
にえ というか、医者である私が語っているものはだいたい本当にあったんだろうなって話で、 そうじゃないものにはもっとちゃんとした小説として仕上がってて、創作の匂いがあった。
すみ 会話部分が「かぎかっこ」なしで、ストーリーもあってなきようなものがほとんどで、人には勧めづらいかな、 私は好きなんだけど。
にえ ああそうなの、で終わるような話なのに、不思議と余韻深いんだよね。
すみ 医者である私の話はほとんどが、他国からアメリカに難民的な移住をして、赤貧にあえぎながらも、 なんとかここで暮らしていこうとしている人たちの話。
にえ 思いのほかシタタカだったり、意外なところで辛い過去を知って胸うたれたり、まあ、結果としては治療費がもらえないことが多いみたいだけど、 そういう出来事が、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズにとっては、心の糧となり、詩に小説にとつながっていくのね。
<心と体>
医師であるぼくのもとを訪れたイングリッドは原因不明の病気に苦しんでいた。子供の頃は癲癇患者でもあり、重症の躁鬱病で あったが、医者には自分でそう思いこんでいるだけだと言われた。大人になってからも、まともに相手にしてくれる医者がいないと訴える。
すみ とにかく自分が病気だと認めてもらわないと気が済まない女性患者のお話。
にえ 学歴もあり、立派な経歴もあり、でも、心のなかには鬱積しているものがあるのよね。それをなんのコメントもまじえず、書き連ねてあるのが、 妙に突き放された感じで、逆に余韻深い。
<顔に吹き出物ができた少女>
ぼくが地元の薬局で、薬剤師に往診してほしいと頼まれたのは、外国人の一家だった。アパートを訪ねてみると、病気らしい赤ん坊はいたが、 両親はともに不在で、吹き出物が顔中にできた15才の少女が応対した。
すみ ちゃんとしているようなことを言い連ねる両親と、なんとなく第一印象から感じの良かった少女、でもねってお話。
にえ この家族はロシアから来たみたい。だれになんと言われようと、したたかに生きるしかないよね。
<明日の夜明け>
エドは金持ちの家の息子だったが、父親が事業に失敗して破産し、今はフレッドという怪しげな中年男と暮らしている。 ポーリンには夫がいるが、フレッドさえ追い出せば、エドとつきあってもいいと言う。
すみ これは医者も出てこなくて、内容も創作した小説だなっていう印象。なぜかフレッドにこだわるエド、一緒にいてもけなされまくりなのに。
<六月のある夜>
私がまだ若かった頃に診た妊婦アンジェリーナは、夫婦ともにイタリアからアメリカに渡ってきたばかりなので、英語は ほとんど話せなかった。
にえ 流産も出産も、軽い微笑みで受け入れる女性のお話。
<コメディー・インツームト>
2か所も往診があるというのに、ポリフィリオとかプリンシプとかいうその男は電話で、どうしても先生に診てもらいたいのだと言い張った。 訪ねていくと、妊娠五ヶ月の妻は、陣痛があり、もう産まれそうだと言う。
すみ どう考えても流産するだろうし、本人にもわかっているはずなのに、なぜか子供が女の子であることだけにこだわる女性のお話。
<時のナイフ>
エセルとモーラは子供の頃からの親友だった。すでに二人とも結婚生活を送っていて、エセルはハリスバーグに、モーラはニューヨーク市に 移り住んでいた。二人は文通をずっと続けていたが、エセルからの手紙の内容は、やがて愛の告白めいてきた。
にえ これはまた、医者が出てこない創作した小説という印象のもの。相手が男であろうと女であろうと、何歳になろうと女には愛されることが 何よりも大切、かな。
<表情のない顔>
貧乏で、金に目がなさそうなユダヤ人らしき夫と、表情のないイタリア人らしき妻を初めて見たときから、私は嫌悪を感じていた。 夫はこちらの事情も考えずに見てくれの一点張りだし、妻は赤ん坊を抱きしめて放さない。私の苛立ちはつのるばかりだった。
すみ とにかく見た目も、言動も、なにもかもがイヤでイヤでしょうがないって患者のお話。しかも、金なんかまともに払ってくれそうにないし。
にえ いかにもリアルな医師もののお話は、貧しい移民が患者だから、かならず支払いも含めたお金の交渉が書かれてるよね。
すみ ちゃんと金払ってくれるのか〜って感じで、なんの仕事をして、一週間にいくらもらってるんだとか、そんな話までしてるよね。 健康保険のある日本とはお国事情が違うよね〜。
にえ 医者が金、金、金って患者に露骨に言うのって、私たちからすると違和感があるよね。まあ、プリプリ言ってるわりには、お金は払ってもらえそうにないんだけど。
<農家の娘>
マーガレットとヘレンは同じ医師に診てもらっていた。そのうちに二人は親しくなり、終生の友となった。 ヘレンはアルコール依存症で、マーガレットは男に金を貢いでばかりいた。
すみ これは医者が出てくるけど、創作したって感じのお話。何回ひどい目に遭わされても、男に金を与えてしまう女性と、 先まで見えていても故郷で連絡を待つしかない親友の女性。これはもう、「わかる」の一言につきるな。脇役的な医師の存在もよかった。