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 「アフター・ザ・ダンス ハイチ、カーニヴァルへの旅」 エドウィージ・ダンティカ (ハイチ)
                                         <現代企画室 単行本> 【Amazon】

2001年、エドウィージ・ダンティカはカーニヴァルを見るために、ハイチの都市ジャクメルを訪れた。ジャクメルではおもに住人が 参加するローカルなカーニヴァルは毎週行われていたが、次の日曜日に行われるのは国外に渡ったハイチ人も引き寄せる全国カーニヴァルだ。 そこではミス・ジャクメルも選ばれることになっている。エドウィージはカーニヴァルを取り仕切るディヴェルスを紹介された。ディヴェルスは カーニヴァルについての本も出している。カーニヴァルのときのジャクメルは、シティではなくカントリーになる、とディヴェルスは熱く語った。 
にえ 1969年生まれ、さまざまな賞をとっているハイチの代表的な女性作家エドウィージ・ダンティカの最新翻訳本です。
すみ 私たちはエドウィージ・ダンティカは初めてなのよね。全米図書賞の最終候補にまでなってる「クリック? クラック!」とか、 読みたいとは思いつつ。
にえ で、これは小説ではなくて、紀行文なんだよね。旅行記というべきか、帰郷記というべきか、悩むところだけど。
すみ 単純に考えれば帰郷記だよね。エドウィージ・ダンティカはハイチで生まれ育ち、12才でニューヨークに渡っているの。
にえ でも、今回の旅ではなにもかもが初見聞なの。子供の頃のエドウィージは、両親が先にニューヨークに渡っていて、 洗礼派教会の牧師だったおじさん夫婦と暮らしていたそうなんだけど、おじさんは家族を引き連れて山にこもって宗教的な隠遁生活を送っていたそうで、 エドウィージはハイチ人で、ハイチで暮らしていながらも、カーニヴァルを見るのは今回が初めて。
すみ ハイチの都市ジャクメルを訪れるのも初めてみたいで、いろんなところを見てまわるところはまったくの旅人よね。 それを考えれば、これは旅行記。
にえ でも、普通の観光客とはまったく違うよね。つねにハイチの政治や歴史について考え、ハイチの芸術家の 多くとつきあい、みずからもハイチの代表的な作家と呼ばれている人だから。
すみ すべてを知りながらも、実際に目で見るのは初めて、そういう人の旅行記ってことよね。
にえ そうそう。だから見るもの聞くものについては新鮮な反応だし、ハイチについての多岐に渡るお話については含蓄深く。
すみ 厚い本ではないけれど、これ一冊でかなりハイチという国を理解した気になれるよね。まず、ギチギチっとではなく、 さりげなく紹介されていくハイチの歴史。
にえ スペイン領、フランス領となった苦しみの時代、それから独立後の混乱。木についても多く語られてた。ハイチでは歴史の過程で木が なくなってきてしまっているんだって。知らなかった。
すみ 森が燃やされ、木々は切られて売りさばかれ、あるはずの自然がなくなるっていうのは、未来にたいしてもとんでもないことだよね。
にえ それからハイチの芸術家たちについても、たくさん語られてた。画家や脚本家、作家、詩人などなど。
すみ とくに印象に残ったのは、ルネ・デペストルの小説「わが夢のすべてにアドリアナが」。これはジャクメルが舞台で、 ハイチでは知らない人がいないってほど有名な小説で、世界的にも知られているそうなんだけど。
にえ 小説の登場人物でありながら、小説を越えてしまった登場人物アドリアナっていうのが気になったよね。でも、 さっそく探してみたら翻訳本が見つからなかった〜。読みたいっ。
すみ ルネ・デペストルもまた、ハイチを代表する作家で、ハイチのことを書きながらも、もう40年以上もハイチに戻っていないっていう 作家なのよね。そこにまた、ハイチという国について考えさせられるものがあるね。
にえ それから、カーニヴァルを通して、いろんな人と出会い、話をするんだけど、これがまたなんとも印象深かったな。とくに 印象に残ったのが、墓場で出会った老婆。墓場に生えた蔦のことを、「これは聖母マリアさまの冠の花だよ」って言うの。
すみ カーニヴァルに参加する人気バンド、ミス・コンに出る、意外にも内気な女性たち、ハイチという土壌について語る若手の芸術家、 それにカーニヴァルの成功をひたすら願う案内役のディヴェルス、などなど、いろんな人との出会いがあったよね。
にえ そして、さまざまな歴史的な場所を訪れるのよね。そこには、ハイチ独立のために惨殺された人々の血が染みこみ、伝説がいまだ根づいているの。
すみ それにしても、エドウィージはこの旅で、もっと多くの人に出会い、いろんな経験をして、さまざまな思いにとらわれたでしょうに、 よくもこれだけスッキリと、私たちのようなハイチについて無知に等しい読者にもすんなりと読めるように書いてくれたよね。
にえ うん、さすがの力量。これはハイチに旅する予定のある方にはぜったい読んでほしいし、行く予定がなくても、 ハイチを知るきっかけとして、オススメしたいな。
すみ 最後に、肝心のカーニヴァルなんだけど、これはやっぱり実際に見て、肌で感じるしかないかな、というところ。その場で熱を感じないとね。 エドウィージもそれほどカーニヴァルの描写に力を込めず、むしろその周囲のことを細かに書いているという印象。それはそうでしょう。だからこそ、エドウィージもわざわざ出掛けていったんだから。