すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「湖の記憶」 クリスティーナ・シュワルツ (アメリカ)  <講談社 文庫本> 【Amazon】
1919年3月、看護婦をしていたアマンダは精神を病み、妹マチルダのもとに帰ることにした。マチルダは故郷で二人のものである、 両親が残したウィスコンシンの農場に娘ルースと一緒に暮らしている。マチルダの夫のカールは出征中で、フランスで負傷して、帰ってこれずにいるらしい。 そして、1919年12月、マチルダは湖で溺死した。湖に張った氷を踏み外し、水の中に落ちてしまったらしい。ルースはアマンダに育てられることとなった。 だれもがおぼえていないはずだと言うけれど、ルースはおぼえている。母と一緒に溺れたことを。どうして自分だけが助かったのかわからないけれど、 アマンダは知っているはずだった。
にえ アメリカの女性ミステリ作家、クリスティーナ・シュワルツの初翻訳本です。
すみ これがデビュー作ということだけれど、ジックリ腰を据えた大作のイメージだったね。すばらしい。
にえ というか、私はこれ、ミステリじゃないって気がしたんだけど。とりあえずは謎含みのサスペンスものって ことになるんだろうけど。
すみ そうだね、ダークな大河ドラマだし、複雑な一人の女性のねじれた愛情を描き出してもいるし、 戦時中のどさくさで起きた出来事とその後という20世紀の前半のアメリカの片田舎の情景とそこに住む人々の裏の物語って感もあるし。
にえ ミステリって決めつけられると、どうしても謎解きがしたくなるんだけど、なんかそっちに重点を置きたくない感じだったよね。 別に途中でわかっちゃってつまんないとか、そういうのはいっさいなかったんだけど。
すみ とにかくね、物語は1919年3月からはじまるの。精神的におかしくなっちゃって、おかしなミスを繰り返すようになって 病院から休暇を与えられたアマンダ。
にえ アマンダには美人自慢の妹がいるのよね。妹のマチルダは美人で、自由奔放。アマンダからすると 冴えないとしか言いようのない男性と結婚しちゃってるんだけど。
すみ その辺の顛末も回想として挿入されているのよね。とにかく最初のうちは、いろんな時代に話が飛び交って、 ついていくのが大変だった。
にえ マチルダはもちろん、モテモテだったんだけど、アマンダのほうもいろいろあったみたい。それについても徐々に語られていくんだけど。
すみ マチルダはいくら綺麗でも片田舎に引っ込んだままで、アマンダは容姿はそれほどでもないにしても、 人と出合う機会の多い仕事についていたんだしね。
にえ そして、アマンダはマチルダとルースのいる農場に一緒に暮らすようになり、それから、一家の所有地である小さな島にある家に住むようになり・・・。
すみ で、唐突にマチルダの死があるのよね。どうしてマチルダは夜中に家を出て、薄い氷を踏み割って溺死したのか。
にえ 謎は残されたままなのよね。アマンダの腕に残る、強く噛まれた歯のあとについても謎は残ったまま。
すみ それからマチルダ死後のルースの子供時代のお話があるけど、これは強烈だったよね。
にえ そうそう、カールの帰還はまだいいにしても、性格的にかなり問題のありそうなカールのいとこヒルダなんかが 関わってきて、ルースの子供時代はかなり壮絶。
すみ ルース自身もかなり強烈な子供だよね。そこにアマンダの子供時代の思い出なんかもチラチラ語られていくんだけど、 この人の愛情に対する執着心もまた強烈。
にえ それからそれから、1920年代、1930年代とルースの青春時代のお話があるけど、ここには 親友イモジェンとの楽しいお話もあり、お金持ちの青年との出会いもあり。
すみ それにまた、過去の因縁が深くからんでくるんだよね。ということで、かなりな大河もの。
にえ 壮絶、かつ詳細な人間ドラマが繰り広げられたよね。そういった意味では、過去の名作文学に劣らないって感じだし、ホントにすごい デビュー作。
すみ 長い物語を語っていく上で、熱のこもりすぎない冷静さもあり、読者を引っ張っていく自信の揺らぎのなさもあり、で、デビュー作って感じはしなかった。 ラストも落ち着きすぎってぐらいだったし。
にえ つねに湖がそばにある暮らしが綿密に描かれてて、これはどうやら作者自身がウィスコンシン出身で、そこでの記憶がいかされているようなんだけど、 季節によってまったく顔を変えてしまう湖の描写のうまさ、その存在感はさすが、さすが、だったな。
すみ ミステリとかサスペンスとかじゃなく、ダークな大河ドラマだと思って読みはじめたほうがいいかも。これでデビュー作なんだから、もうほめまくるしかないでしょ、って出来でした。 重めが好きな女性向き、かな。