=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「9990個のチーズ」 ヴィレム・エルスホット (ベルギー)
<ウェッジ 単行本> 【Amazon】
ベルギーに住むラールマンスはそろそろ50才になろうかとする、長年勤めていても社長に名前さえ覚えられない、造船会社の地味な事務員。小さな家で、妻と娘と息子の 4人で暮らしている。母の葬式で、12才年上で医師をしている兄からスホーンベーケという弁護士を紹介された。スホーンベーケは家柄もよく、 財産もあり、各方面に有力なコネがある。スホーンベーケの家では、毎夜さまざまな成功者が集まっている。なぜかラールマンスもその集まりに誘われたが、 さすがに居心地は悪かった。そこにスホーンベーケが声をかけてきた。オランダのチーズ販売会社のベルギー総代理店にならないかというのだ。 | |
ヴィレム・エルスホットは1882年生まれ、1960年没のベルギーの作家で、この作品は1933年に発表されたものだそうです。 | |
でも、日本では2003年になってから。なぜなら英訳出版されたのが、2002年だからなのよね。 | |
最初は単なるユーモア小説かと思った。平凡で、ちょっとだけ虚栄心の強い中年男の滑稽な悲劇をクスクス笑う、みたいな。 | |
そろそろ50才で、出世も昇級の可能性もないラールマンスという平凡な事務員が、ひょんなことから チーズの販売代理店をやることになるのよね。 | |
儲かれば一気に金持ちに。とはいえ、自分で会社組織を作ったこともなければ、食品を扱ったこともなく、 それどころか営業すらやったことがないこの男が成功するはずはないって読んでる側としては思っちゃう。 | |
なんかね、どうせ作り話なんだし、おばかなラールマンスの悪戦苦闘ぶりを軽く笑えばいいとは思うんだけど、 身につまされて息苦しかった。 | |
ちょっとテンポものろかったしね。私はこのまま終わったら、ケチョンケチョンにけなしちゃうかも〜と 思いながら読んでたんだけど。 | |
とにかくラールマンスのやることはズレまくってるのよね。オランダから20トンのチーズが届いて、 それを売りさばかなくちゃならないってのに、やることといったら、便せんに名前を入れたり、中古家具店をまわって事務用机を探したり、 中古のタイプライターを借りてきたり。 | |
まあ、形から入りたいタイプってのは、私もけっこうそうだったりするし、わからないでもないんだけど(笑) | |
あんまり焦らないし、のんきな性格だよね。奥さんがしっかり者なのと、12才年上のお兄さんが、 いつも面倒を見てくれるからかしら。 | |
普通ののんきなオジさんだよ。変なのは、スホーンベーケ。この人はとにかく、課長の人を他の人に紹介するときは 部長と紹介し、部長は社長と紹介するような人で、やたらといろんな人をいろんな会の会長だのなんだのに推薦したがって、レベルの高い人とつきあいたいってだけなら わかるけど、それよりも自分の知ってる範囲の人にむりやりでも箔をつけていきたいって思ってるみたいなの。 | |
お節介焼きっていうんでもないのよね。べつに出世してほしいとか、幸せになってほしいっていうんでもなく、 ただ役職とか、肩書きがついて、お友達に紹介しやすくしたい、みたいな。 | |
とにかく表面的なものだけで生きてる人だよね。こういう人もいるのかもな、なんて、やたら気になった。 | |
それはともかく、われらが主人公ラールマンスのほうはといえば、スンゴイ不幸になったらイヤだなあ、と心配しながら読んだら、 それは大丈夫だった。 | |
それどころか、ただの笑い話だと思って読みはじめたのに、いつのまにかジーンとくる、せつなくもいいお話になってたよね。 | |
毎日同じことの繰り返しだと見逃していたものが、いろいろすったもんだがあったからこそ見えてくるものってあるよね。 | |
ラールマンスが、なんだ、人生っていいものじゃないかって最後には思ってるだろうけど、読んでるこっちもそう思えてくるな。 | |
自分一人いなくなってもなんともないと思っていた職場も、それほど仲良し家族ってほどじゃないと思ってた家庭も、 あんがい悪くなかったりするのよね。 | |
これから涼しくなってきて、あったかいコーヒーか紅茶でも飲みながら、ノンビリ読むと最後には、ほんわかいい気持ちになれるかも。 | |
ちょっと落ち込んだときに読むのもいいかもね。トゲトゲしい気持ちが和らぎそう。 | |