すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「クジラの島の少女」 ウィティ・イヒマエラ (ニュージーランド)  <角川書店 ブックプラス> 【Amazon】
ニュージ−ランド東海岸の村ファンガラは、かつてパタゴニアのバルテス半島で、クジラたちにかしずかれて暮らしていたカファティア・テ・ランギが クジラに乗ってたどり着き、開いた村だとされていた。カファティアの跡継ぎは代々男と決まっており、今は僕の祖父コロ・アピラナが長をつとめている。 コロ・アピラナは初めて生まれる曾孫が男の子であることを期待していた。その子こそがコロ・アピラナの後継者として、この地をおさめるはずっだった。 ところが、初曾孫は女の子だった。カフと名付けられたその少女は、やがて僕たちを救うことになるが、コロ・アピラナはまだそれを 知らない。
にえ 映画「クジラの島の少女」の原作です。初翻訳だけど、この作品じたいは1987年に 出版されてたみたい。
すみ 作者のウィティ・イヒマエラはニュージーランドの国民的作家で、現代マオリ文学の第一人者なのだそうな。
にえ そしてこの小説も、ニュージーランドのマオリの一部族のことが中心に書かれてるのよね。
すみ 翻訳でも、マオリ語がたくさん散りばめられてたよね。読みはじめはちょっと、とっつきづらかったけど、 中盤からは慣れて、カタカナで書かれたマオリ語が心地よくなってきた。
にえ マオリ語だけじゃなくて、マオリの文化マオリタンガについてもキッチリ書かれてたよね。これもまた説明は最小限だから、最初のうちは、とっつきづらかったよ。 だんだんわかってくると惹かれたけど。
すみ 多少の知識があればよかったんだろうけど、マオリやマオリタンガについては、私たちはまったくの無知だから、どうしても馴染むまでに 時間を要しちゃったね。最後の方に来るまでにはかなり共鳴してしまったけど。
にえ 今じゃあ、マオリって言われただけで、目に涙がにじんできそう。マオリとして生きること、白人文化の中でマオリの誇りを忘れずにいることの 難しさ、大切さがヒシヒシと伝わってきた。
すみ どの民族にしても、今の時代に民族としての誇りを見失わずにいるのって、とても難しいことになってきているけど、 白人たちに圧迫されていく一方のニュージーランドのマオリたちが、マオリの誇りを忘れずに生きるってすごく難しいことだよね。
にえ どうしても若者たちはきらびやかで安易な白人文化に流れていってしまうし、語り手である僕ことラウィリもそうだったけど、 昔どおりのマウリの生活をしているわけではなくて、生きていくためには工場や材木屋で働いたりしなくてはいけないからね。
すみ そんななかで、若者たちを集めてマオリの歴史と習慣を学ばせる講習会をやったりして、コロ・アピラナは一族の長として がんばってるの。
にえ 一族の長としてはがんばってるけど、家ではある意味虐げられちゃってるけどね(笑) 妻のナニー・フラワーズは、 女性でありながら男となって一族を助けたムリワイの子孫だっていうだけあって、とにかく強い女性で、コロ・アピラナもやられっぱなし。
すみ なにかというと、離婚してやる、だもんね。もう曾孫もいるような夫婦なのに。でも、本当は愛し合っているのが透けて見えるから、 夫婦喧嘩もほほえましいのだけれど。
にえ そうやって必死で、マウリの誇りを、一族の伝承を守りつづけようとしているコロ・アピラナだから、自分の跡継ぎとして、 カファティア・テ・ランギの意志を継ぐべき男子の誕生を心待ちにする気持ちは並々ならぬものがあるんだけど、生まれてきた曾孫は女の子。
すみ でも、その女の子カフは、嫌われても、嫌われても、曾祖父のコロ・アピラナを慕い、だれよりもマウリの誇りをよく理解しているのよね。
にえ やがてカフは、みんなを助けることになることが冒頭で予告されているんだけど、これは読んでのお楽しみ。
すみ とにかくホエールライダーであるパイケア、ことカファティア・テ・ランギの子孫だから、コロ・アピラナの一族は、海を、とくにクジラをとても 大切に考え、クジラと一族の運命はつねにつながっているのよ。
にえ 語り手であるラウィリのほうも、いろいろあるんだよね。いったんはニュージーランドを出てオーストラリアに渡り、 それからパプア・ニューギニアまで行っちゃうんだけど。
すみ どちらでも、接することになるのは白人社会。ラウィリが知ることになるのは、マウリが直面するさまざまな問題と、マウリとしての誇りだよね。 ラウィリはいったん外に出て学ぶ必要があったのね。
にえ 生まれながらにして、あふれんばかりのアロハ(愛)とマナ(力)を持ち合わせた少女と、いったんは離れることで自分たちが どんなふうに見られているかを知り、傷つきながらもマウリとしての誇りを再認識する青年と、二人が合わさって、より深い理解へとつながっていくよね。
すみ これからマウリがどうしていけばいいか、なんて、とっても難しい問題なんだけど、とくにおばあちゃんのナニー・フラワーズの軽妙でコミカルな言動や、 カフのまばゆいばかりの純粋さに魅了され、楽しく読めたよね。
にえ カフは切なくもかわいらしかったし、とにかく海がつねにそこにあるって感じの物語だから、独特の激しさや優しさ、美しさがあって、素敵だった。 読みはじめは、う〜ん、と思ったけど、そこを抜ければ愛情を持って読めると思うよ。
すみ ただ、この原作を読んでもらえばわかってくれると思うけど、この小説をどうやって映画にしたんだろうと、とっても不思議よね。とりあえず、 公表されているストーリーを見るかぎりでは、映画は映画でストーリーをちょっと変えてて、そちらはそちらでいい感じ。ラストはどうなってるのよ〜っ。 原作と小説、両方楽しまれるのがベストかと。