=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ダイアモンド・ドッグス」 アラン・ワット (アメリカ)
<DHC 単行本> 【Amazon】
ニール・ガーヴィンは高校生、ラスベガスの近郊にあるカーメンという町に住んでいる。将来を期待されるフットボール選手で、 気のおけない仲間もいれば、信じあえる親友もいる。体を許してくれないが、素敵な彼女もいて、父親は町で尊敬される保安官だった。 青春を謳歌しているとしか見えないニールだったが、心の底では、自分を捨てた母のこと、家では酒を飲んで別人のようになってしまう父のことが 重い陰となっていた。ある夜のパーティーで、酒を飲んだニールは自制がきかなくなり、通りがかった下級生に過ぎた悪ふざけを働き、 無灯火で走らせた車で人を轢いてしまう。 | |
経歴がよくわからないけど、スタンダップ・コメディアンだったらしいというアラン・ワットの初翻訳本です。 | |
出版社のあらすじ紹介を読んだときは、サスペンス系のミステリなのかなと思ったけど、読んだら、そういう枠に 入れるのはかわいそうかなと思ったよね。 | |
そうだね。ミステリとして評価すると、最大の謎は初っぱなから丸わかりだし、それだけで最後まで引っぱちゃってるしってことで、 良い評価にはならないかも。 | |
この小説の良さは、そういう謎解きとは別のところにあったもんね。 | |
うんうん、まず語り口が良かった。ニールが一人称の語り手になってるんだけど、きっちりティーンエイジャーなりのやさしさ、 やるせなさの伝わってくる、瑞々しい語り口になってるの。 | |
気持ちの優しい子だよね、ニールって。親友のリードの父親が前科者だってわかると、ニールの父親はつきあうなって言うんだけど、 ニールはリードにはなんとか真っ当な道を歩ませようと、フットボールの練習を一緒にはじめるの。 | |
結果としては、大学からスカウトが来たのはニールの方だったんだけどね。それでまた、リードを気遣って隠したりするの。 | |
リードもまた良い子なのよね。ニールのことを本当に大切に思ってて。 | |
打ち込めるものがあって、信じられる親友がいて、と青春を謳歌しているかのように見えたニールだけど、 ある夜のパーティーの帰り、車で人を轢き殺しちゃうのよね。 | |
酒を大量に飲んで、ゲームと称して無灯火で車を突っ走らせていたんだから、ただの事故とも言い切れない。そんなことをやってしまったのは、 父親と母親のことで悩んでいたっていう心理状態があるんだけど。 | |
母親の方はニールが幼いうちに家出しちゃってるんだけど、背景を含めた父親の描き出し方がまた、読ませてくれるのよ〜。 | |
外では愛想がよいハンサムな男、家の中では暴力的な専制君主、でも、なんか投げやりな専制君主だよね。 | |
家では、ガールフレンドを連れ込んで一緒に暮らし、いつもミドリって名前の緑色のメロンリキュールのソーダ割りを飲み、 ニール・ダイアモンドのCDを聴いてる。そんなにあれこれ命令するってことはないけど、自分の思い通りに事を運ばないときがすまないってところかな。 | |
父親はニール・ダイアモンドの大ファンなのよね。本の装丁じたいも、CDかレコードのジャケットみたいな雰囲気にしてあるんだけど。 | |
一人の歌手に惚れ込む中年男の姿が、読んでてなんとも感慨深いよね。とくにニール・ダイアモンドのコンサートのシーンは圧巻かな。 | |
いろんな人生を歩んできた、たぶん多くは失敗だらけの人生だった男たちが、惚けたようにニール・ダイアモンドを見つめるのよね。 | |
コンサートといえば、ラスベガスの描き方も印象的。観光客の行くラスベガスの風景とは違って、地元の人の行くラスベガスの景色がなんとも。 華やかな荒廃とでも言えばいいのか。 | |
ということで、悩み多きティーンエイジャー、なにか心に荒涼としたところのある理解できない父親の姿、 それからラスベガス近郊の独特の風景、このあたりがとっても良かった小説。 | |
あと、罪に悩みながらも日常生活を続けなければならない青年の心理描写ね。これが絶妙に息苦しくて、 一気には読めなかった。休み休み、息つぎしながら読んでしまった(笑) | |
ちなみに、ニール・ダイアモンドについては、よくご存じの方ならきっと彼の歌をBGMにして、なんともいえない感傷に浸りながら読めるだろうし、 私たちのように、なんか名前は聞いたことあるな程度の人たちには、この本を読んでいくうちに姿や歌声が浮かび上がっていくってところじゃないかな。 | |
正直なところ、音楽でインスピレーションを得た小説、なんてのを過去にいくつか読んで、どれも今ひとつピンとこなかったんだけど、 これはうまいな、うまく利用したなとホントに思ったな。 | |
大絶賛とまでは行かないけど、かなり良かったとは言えるってところかな。私たちにとっては、またなにか翻訳されたらぜひ読みたい作家さんになりました。 | |