すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「耳ラッパ 幻の聖杯物語」  レオノーラ・キャリントン (イギリス)  <工作舎 単行本> 【Amazon】
92才の私、マリアン・レザビーはこの15年間ほど、息子夫婦と暮らしているが、どうやら息子夫婦は 私を施設に入れてしまおうとしているらしい。親友のカルメラがプレゼントしてくれた、大きく曲がったバッファローの角の ような形をしている耳ラッパのおかげで、私は事前にそれを知ることができた。息子夫婦が私を入れようとしているのは、 <同胞愛の光の泉>という、70歳以上100歳以下の豊かな婦人ばかりの入居者が9人いる施設だった。 工作舎HPの「耳ラッパ」
にえ 新訳で復刊されたレオノーラ・キャリントン「耳ラッパ」です。
すみ レオノーラ・キャリントンは、シュルレアリストで、活動は絵画、彫刻、版画、タピストリー、小説と 幅広く、見た目は物凄く上品な美人。この本を読む前に、これぐらいの情報はあったほうがいいかもしれない。
にえ そうそう、いつもは予備知識なしで、まず小説を読むってのが好きな私だけど、これは途中で 作者の経歴を何度もたしかめなおした。だってだって〜(笑)
すみ なんというか、ぶっ飛び方が半端じゃないよね。この小説じたいをあえて説明するなら、 「不思議の国のアリス」のアリスが老婆になって、40度以上の高熱を出しているときに見た悪夢、みたいな(笑)
にえ 読んでて、やれるだけやったなってニンマリする小説はあるけど、この小説は、どこまで 連れていかれちゃうの? 助けて〜!! って感じだったよね。
すみ 最初のほうはユーモラスで、ウフフって微笑みながら読んでるんだけど、最後のほうは顔を 引き攣らせて、ヒステリックな笑い声をあげながら読みたくなるような。
にえ そう、最初はね、のんびり笑える範囲におさまってるよね。92才の老嬢マリアン・レザビーが、 親友のカルメラに耳ラッパをプレゼントされるところから話ははじまるの。
すみ マリアンは耳があまりよく聞えないんだよね。歯がないから、しゃべるほうも不明瞭みたいだけど。
にえ でも、それ以外は元気。顎に髭が生えてるのが自慢なの。
すみ 一緒には暮らしてないけど、マリアンの母親もまだ元気なのよね。なんと御歳110才。
にえ で、マリアンはカルメラにもらった耳ラッパを耳にあてれば、音はものすごくよく聞えるようになるの。
すみ その耳ラッパのおかげで、自分が施設に入れられそうになってることを知るのよね。
にえ それに対するカルメラの反応がおかしかった。ラップランドに逃げようなんて言いだすんだけど、 話がどんどん発展して、最後には十一階の窓からロープで逃げたり、機関銃をぶっぱなして、警察犬を追い払ったりする冒険物語になっちゃって。
すみ でもけっきょく、マリアンは施設に行くことになっちゃうんだけどね。ここからが凄いことになっていくんだけど。
にえ 施設がサンタ・ブリヒダにあるってところで、世界中の地理に明るくない私は、調べてようやく舞台がスペインであることを知った。 イギリスじゃないって言ってたし、もうちょっと南に位置する国だとはわかってたんだけど。
すみ ここがスンゴイ変わったところなのよね。敷地のなかに小さな家がいくつも建ってて、そこで それぞれの入居者が暮らしてるんだけど、その建物っていうのが、鳩時計の形をしていたり、毒キノコの形をしていたり、バースディケーキの形をしていたり。
にえ なんでだか入れない謎の塔まであるのよね。そしてウインクする修道女なんていう変な絵もあったりして。
すみ 入居者は9人で、みんな70才以上100才未満とかなりの高齢。みんな妙に若々しく元気で、 画家だったり、フランス人侯爵だったりするんだけど。
にえ そこから、殺人事件があってミステリのようにもなり、副題どおり、幻の聖杯を探すファンタジーの ようにもなり、宇宙レベルのSFにもなっていくのよね。
すみ 箱船は出てくるわ、神話も総動員されるわ、魔女まで出てくるわ、狼の王様も出てくるわ、ナゾナゾまで出てくるわ、 で、まあとにかく凄いのよ(笑)
にえ と、ここで話は戻って、巻末についている写真を見ながら、こんな上品な美人がこんな小説を書くなんて信じられな〜い となるのでした。
すみ たまには変わった本を、と望ならぜひどうぞ。大満足するか、ヒ〜ッ、ここまで変わってなくてもよかったのにと言うか、まあ、おためしあれ。