すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「キットの法」 ドナ・モリッシー (カナダ)  <青山出版社 単行本> 【Amazon】
1950年代のカナダ、ニューファンドランド島の小さな漁村で、12才の少女キットは、もうじき13才になる。 キットの母ジョージーには知的障害があり、男の人に声をかけられるとだれにでもついていってしまうので、キットは 売女の娘と呼ばれていたが、そんなキットを祖母のリジーはしっかりと守り、育てていた。それに医師のホッジンズ先生や ドルーシーおばさん、それにジョーおじさんもキットの味方だった。
にえ これは、けっこう厚めのYA本。一気に読めること間違いなしだけどね。
すみ これを書いた作家のドナ・モリッシュさんは作家になる前、魚の養殖業をやっていたんだとか。 変わった経歴。
にえ そのためか、文章がとってもストレートと巻末の解説にも書いてあったけど、ホントにその通り。 クドクドしい技巧なしで、心情がズバッとこっちに届いてくるようだった。
すみ カナダでベストセラーっていうのもわかるよね。こういう小説は抵抗なく夢中になれる。
にえ まず舞台がいいよね。カナダのニューファンドランド島の小さな漁村。そのはずれにある 小さな家で、祖母と、知的障害のある母親と3人で暮らす少女が主人公。
すみ いいよね〜、ニューファンドランド島。前に読んだ、この島が舞台の小説「シッピング・ニュース」は、 じつは今でも時々思い出して浸っちゃうときがあるの。
にえ 少女の名はキット。キットは母親のために、わりと裕福な雑貨屋の娘マーガレットとかに 「売女の娘」なんて虐められたりするけど、負けずに踏んばっている、ちょっと無口な少女。
すみ もちろん、言いたいことがあればはっきり言う強さはあるのよね。
にえ 大人のなかにもあれこれいう人がいるけど、医者のホッジンズ先生とか、 ジョーじいさんとか、味方もたくさんいる。そしてもちろん、祖母のリジーはしっかりキットを守ってるの。
すみ リジーおばあちゃんはいいよね。相手が牧師であろうと、だれであろうと、 言いたいことはきっちり言うし、行動力はあるし、とにかく強い人。
にえ キットと母親のジョージーは、母子というよりは、二人ともリジーの娘って感じで育ってるのよね。 しかも、ジョージーよりもキットのほうがお姉さんみたいに。
すみ 村には、殺人の容疑まである酒の密売人シャインなんて、怖ろしげな奴もいるんだけど、 まあ、とにかくキットは元気に暮らしているの。
にえ となると、当然私たちは、不幸な境遇のなかで時に傷つきながらも、明るく、逞しく生きる少女の物語なのね 〜と単純に思っちゃうんだけど、違ったよね。
すみ 話は途中から急展開。まさか、まさかの出来事と結末が次々にあって、 こ、これはジェットコースーター小説だったのね、と驚きまくり。
にえ 私は読んでて、カナダ版V.C.アンドリュースだ〜! と思ったんだけど(笑)
すみ うん、近いものはあるよね。生まれながらに不幸を背負いながらも強く生きる少女が、 次々と襲いかかる過酷な運命に立ち向かうという話の展開が。
にえ ただ、V.C.アンドリュースものだと、主人公はアメリカ国内を広範囲で動きまわるけど、 キットはずっとニューファンドランド島にいるんだけどね。かなりの執着心を持って。
すみ V.C.アンドリュースみたいな小説は好きだけど、ああいうふうに長いシリーズを 読み続けるのはちょっと苦痛かなって人なら、これはもうオススメだよね。スンゴイ展開がたっぷりあるけど、これは1冊で完結してます。
にえ V.C.アンドリュースものでもバイユーの自然をたっぷり盛り込んで、 独特の色合いを出しているものがあったけど、この小説でもその点は遜色なしだよね。というか、上かな。
すみ うん、ニューファンドランド島の美しさ、自然の過酷さがたっぷり味わえた。 読んでるあいだ、ベリーの味が口の中に広がったり、冬の冷たい荒波に身を震わせたりと体感できた。
にえ とにかく濃厚で、ぜったいに飽きないYA本が読みたかったらオススメ。
すみ 時には社会の法を、時には神の決めた法を曲げてまでも、過酷な運命に立ち向かうため、 迷いながらも最後には自分の、つまりキットの法をきっちり押し通していく少女の鮮烈な物語。読みはじめたら止まらないよ〜。