=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「海を失った男」 シオドア・スタージョン (アメリカ)
<晶文社 単行本> 【Amazon】
シオドア・スタージョン(1918〜1985年)の8編の短編小説を収録。 ミュージック/ビアンカの手/成熟/シジジイじゃない /三の法則/そして私のおそれはつのる/墓読み/海を失った男 | |
名前だけ知っていて、1冊も読んだことがないという状態がかなり長く続いたSF作家、 スタージョンの短編集です。やっと読めた〜。 | |
読まないあいだに想像が、というか、妄想がどんどん膨らんで、変化して、まあ、結論としては、読んだら全然違ってたよね(笑) | |
名前しか知らないころは、「スター」で「ジョン」とくるんだから、きっと派手でアホ犬っぽい作風の方なのかな、なんて考えてた(笑) | |
それから変わった作家だ、他にいないタイプ、なんて評判を目にするようになって、 今度は病的に歪んだ方? なんて思ったんだけど。 | |
まあ、たしかに異常な発想のものは書いてらっしゃるんだけど、グニャッと病的ではなかったよね、この本1冊読んだかぎりでは。 | |
まじめ、とにかくまじめな方という印象。異常なものもまっすぐ見据えて、まっこう勝負で書いていらっしゃる。 | |
ほんと、小説を書くことにたいしてストイックなまでに真面目な姿勢って感じだったよね。その生真面目さに息が詰まりそうになりそうでもあった。 | |
けっこう理屈っぽいしね。精神医学と哲学にかなり造詣と興味のある方だったのかな。 | |
読んでる最中は、読みやすい小説ではないなと思ったってのが正直なところかな。それよりも、読んだあとに けっきょくなにが書かれてたんだろうと考えたとき、なんておもしろい小説だったんだろうと思うことが多かった。 | |
好き嫌い分かれるっていう情報には、やっぱりそうだろうなとすごく納得。読みやすくはなかったけど、 読んだ甲斐はあったな。今度は長編小説が読みたいかも。 | |
<ミュージック>
病院にいるぼくは、敷地内なら外に出ることもできる。ある日、猫が鼠を襲う姿に魅せられたぼくは・・・。 | |
これはホントにもう短い、短い作品で、不穏な余韻が残ります。 | |
ゾワゾワッときたよね。 | |
<ビアンカの手>
ランの働く食料品店に、ビアンカが母親に連れられてやって来た。ビアンカは白痴で、醜い少女だった。 しかしランは、ビアンカの美しい手に魅せられた。ビアンカの手を忘れられないランは、ビアンカの家に下宿することにした。 | |
頭がいいとか、性格がいいとか、容姿が綺麗とか、そういう褒め言葉がいっさい通用しないような 少女の手だけをひたすら愛した男、というと単純に言えば、手フェチってことになるんだろうけど。 | |
この小説は、フェチどころでは収まらなかったよね。手が愛されることで意思を持ちはじめ、 手みずからが男を翻弄しはじめる。それは男の妄想なのか、現実なのか。境界線はありません。 | |
<成熟>
胸腺機能亢進症のために幼稚症である青年ロビン・イングリッシュは、さまざまな芸術と創造の才能を持つ 天才でもあった。美貌の医師マーガレッタ・ウェンツェル博士は、ロビンをメレット・ウォーフィールド医師の もとに連れていき、ホルモン投与の治療を受けさせることにする。これで子供のようなロビンは、年齢なりに成熟するはずだった。 | |
これがストーリー的には一番おもしろかったかな。子供みたいに純粋で、才能はあるのにそれを金儲けに利用することすらしない 青年が、ホルモン投与の治療後、何段階にも変化していきます。 | |
読みはじめは、欠けたところが多くてもみんなに愛されていた青年が、 完璧な人間になりすぎて、愛せない人になっちゃうって話かと思ったけど、そんな単純なものじゃなかった。 | |
とくにロビンのマーガレッタとメレットに対する考え方が、変化していく心理描写は絶妙だったよね。 | |
そう来たか〜と唸りながら読んだよね。なんというか、一筋縄ではいかない大人のSF。 | |
<シジジイじゃない>
レオは行きつけのレストランで運命の女性に出会った。女性の名はグロリア、訊く前からわかっていた。 グロリアもまた、レオの名前がすぐにわかった。つきあうようになっても、すべての趣味が合い、これ以上の理想の相手は考えられないはずだったが、 グロリアの態度はおかしくなった。そしてレオの部屋の中ではいような物音が聞えだし・・・。 | |
運命の男女がたちまちにして惹かれあい、完璧な愛を紡ぎはじめたらと思ったら、 話は意外な方向に。そういうことだったのか〜! | |
この話の持っていきようは好きだな、これはホラーだよね。 | |
<三の法則>
地球にやってきたエネルギー生命体たちは、地球人たちのように2人一組のカップルではなく、 3つでひとつのカップルとなることが正常だった。エネルギー生命体たちは、それぞれ地球人のなかに侵入し、 3つが1つになるよう誘導していった。 | |
いきなりSFらしい話の始まり方で驚いた。地球にやってきた謎の生命体たちが、 地球人を滅ぼすべきか、残すべきか相談しています。 | |
そこから急に、普通っぽい、男女の関係を描いたお話のオムニバスのように。 結果としては、そうか〜、そういうことか〜とまたしてやられた(笑) | |
<そして私のおそれはつのる>
不良少年のドンは、食料品の配達に訪れた老嬢フィービーに、身につけていた時計が盗品であることを 見破られる。返しにいくように言われて抵抗するドンだが、フィービーは恐るべき力を持っていた。その力を 自分もほしくないかと訊かれたドンは・・・。 | |
これはある意味まっとうな(?)お話。愛を否定する師と、愛を知った弟子。 はるかに上まわっていたはずの師は、弟子の愛の力でねじ伏せられたか。 | |
哲学的なお話に行くかと思いきや、意外にも愛の賛歌、だったよね。 | |
<墓読み>
喧嘩をして家を飛びだし、見知らぬ男のスポーツカーで事故にあって死んでしまった妻の墓に刻む言葉はなかった。 ところが、なにも刻まれていない妻の墓を読ませてくれと声をかけてくる男がいた。男は、墓に刻まれた文字ではなく、 墓そのものを読むことができるのだという。 | |
これまたまっとうな(?)お話。驚くようなところから、常人も納得のいく結論に。 | |
<海を失った男>
もうそれほどは幼くないはずの少年が、ヘリコプターの模型を持って、男のそばに来た。男はそれを追い払う。 腕以外はすべて砂に埋もれてしまっているその男は、海のことを考えていた。 | |
これは話について行くのが大変で、2度読みの必要があった。 | |
すべてを昇華するような、芸術的な作品だったよね。 | |