=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「500年のトンネル」 上・下 スーザン・プライス (イギリス)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】 (上) (下)
21世紀、ある企業が莫大な費用をかけ、極秘裡にタイムトンネルを開発していた。それは<チューブ>と呼ばれていた。 <チューブ>はトンネル様になっていて、抜ければたちまち、16世紀のイングランド・スコットランド辺境地帯に降り立つことができる。 観光目的のタイムトラベルツアー、豊かな天然資源の採取、等々、さまざまな利益が期待できるはずだった。 しかし、ひとつだけ支障があった。<チューブ>の先の地には、略奪と戦いに明け暮れる荒くれ者たち、スターカーム一族が待っていたのだ。 ガーディアン賞受賞作品。 | |
私たちにとっての初スーザン・プライスは、SFファンタジーでした。 | |
タイムトラベルものなのよね。21世紀というから、まるっきりの現代。トンネルの向こう、500年前の地に 行ったのは女性人類学者アンドリア。 | |
最初のうちは、ちょっとコニー・ウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」に似てるかな〜と思った。 | |
うん、タイムマシーンを扱いながら、それの科学的な説明はいっさい省いてるところとか、タイムマシーンが 開発されるほど科学が進んでいるはずなのに、「現代」のほうは、私たちが暮らす今現在とまったく変わらないところとか、同じだったよね。こういうタイムマシン・ファンタジーって、 そういうものなのかな。 | |
でも、過去の世界になにか手を加えると歴史が狂うから、タイムトラベラーはいっさい手を加えてはならないという、いつのまにやら私たちのお脳にまで 刷り込まれてた鉄則は、この本だと無視されてたよね。 | |
解説によると、いくつものパラレル・ワールドが存在し、現在と過去といってもかならずしも 同じ時間軸上に存在するわけではないから良いのだとか。そ、そうだったのか(笑) | |
それはともかく、16世紀の世界へ行って暮らし出すのが、若い女性ってところも 同じだったよね。そこからはまったく話が違うんだけど。 | |
一番おもしろいと思ったのは、21世紀の人々がそのままの文明を持って16世紀に行っちゃうんだけど、 16世紀では、未来人は<エルフ>ということになってて、なんでもエルフだからってことで片づけられちゃってるところ。 | |
そうそう、16世紀の人にはできないことをやれば、エルフだから、<エルフの技>を使ったんだと言われ、 自動車に乗っていけば、<エルフの馬車>と呼ばれ、となんでもそれで通っちゃう。これはナイスな発想だったね。 | |
<チューブ>も<人間>の世界と<エルフ>の世界を繋ぐトンネルとして、あっさり認知されてるの。 | |
で、<チューブ>の出入り口は16世紀のほうでは、まさか町中に置くわけにもいかないから、荒れ果てたイングランド・スコットランド辺境地帯に ひっそりと開かれるんだけど、そこにはスターカーム一族という、とんでもない荒くれ者の一族が住んでるのよね。 | |
スターカームには私たちの常識なんてまるで通用しないの。他人のものを略奪するのはぜんぜん悪くないことだと思ってるし、 必要であれば人を殺すのも良いことだと思っているし。一番重んじられるのが復讐っていうんだから、こわい、こわい。 | |
で、<チューブ>のプロジェクトのリーダーであり、オーナー企業の重役であるウィンザーって男は、 21世紀からアスピリンを持っていき、痛みを抑えるエルフの秘薬だと渡し、その効能に驚いたスターカームたちは、アスピリン欲しさに言うことを 聞くと約束した、とそこから話が始まってるの。 | |
でも、とにかく常識がまったく通用しないスターカーム一族のことだから、約束なんてぜんぜん守られてないのよね〜。 | |
そこに送りこまれたのが、女性人類学者のアンドリア。アンドリアは21世紀では、見た目の冴えない大女なんだけど、 16世紀のスターカーム一族から見ると、絶世の美女。この時代のこの辺では、大きい女のほうが好まれてたみたい。 | |
スターカーム一族はトーキルドって人が長なんだけど、トーキルドには一人息子がいるの。美人の母親に似たのか、 女性かと見間違えるほど綺麗な顔をした美青年ピーア。ピーアはアンドリアを好きになるの。 | |
アンドリアもピーアを愛しはじめるのよね。でも、ピーアは根っからのスターカーム。アンドリアには愛の言葉を囁いても、 略奪や殺しは当たり前のようにやっちゃう。 | |
それにまだ、子供っぽいところも多分に残ってるのよね。それがまたアンドリアの母性本能をくすぐっちゃうんだけど。残酷さと子供っぽさ、その 両方を持ちあわせながら、アンドリアを賞賛しまくるピーアにアンドリアの心は揺れまくるの。 | |
でまあ、16世紀のスターカーム一族と、21世紀の営利目的の企業は、手に手を取り合って仲良く、といくはずもなく、どっちが正しいともいえない感じで、 どんどんややこしいことに。 | |
全編がクライマックスかってぐらい、めまぐるしく、いろんなことがあったよね。読みはじめたら止まらない、じゃなくて、 止められなくて、一気に読んでしまった。 | |
16世紀に思いをはせ、ノンビリと雰囲気にひたるひまなんて、まったくなかったよね。この慌ただしさが好きか嫌いかは別としても、 物語は駆け抜けるように進んでいき、急展開につぐ急展開に、どうなっちゃうのとハラハラドキドキさせられまくることは間違いなし。 | |
かなりギエエッとなる残酷シーンもあります。スピード感のあるエンタメ系で単純に読書を楽しみたいっていうなら、間違いないでしょ。 | |