すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「西瓜糖の日々」 リチャード・ブローティガン (アメリカ)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
わたしには名前がない。かつてはマーガレットと恋人どうしだったが、今はポーリーンを愛している。 わたしはアイデス(iDEATH)の近くの小屋に住んでいる。窓の外にアイデスが見える、とても美しい。 ここにある物のほとんどは西瓜糖でできている。それから、松の木と石。西瓜糖工場では、実にさまざまな物が作られている。
にえ あの「西瓜糖の日々」が復刊されたということで、読んでみました。私たちにとっては、初ブローティガンです。
すみ とっても不思議な小説だったよね。わからないことだらけで、わからないまますまされているような。
にえ 結論から言うと、かなり気に入ったな。
すみ うん。あくまでも雰囲気だけだけど、どことなくポール・オースターにつながるものがあるように思ったんだけど。 簡単な言葉で片づければ、喪失感ってことになるのかな。
にえ もっともっと、地に足が着いてないというか、浮遊感があるというか、残酷さまでも色柔らかな現実味に欠けすぎるような 感じだけどね。でも、それが良かったりもして。
すみ まず、主人公には名前がないのよね。読者には知らせないとかじゃなくて、 ホントに名前がないの。
にえ 仲間うちでも、名前がない男としてちゃんと認知されてるのよね。べつに不思議がられもせず。
すみ で、どこともわからないようなところに住んでるの。アイデス(iDEATH)って名前から、 死後の世界ともとれるけど、アイデスじたいが山なんだか湖なんだか、よくわからないし。
にえ とにかくなんの説明もないのよね。私は未来の地球かなと思ったんだけど。核戦争かなにかが起きて、 文明社会が滅び、わずかに生きのこった人々だけで、わずかに残った自然のある場所で暮らしているの。
すみ たしかに、アイデスのそばにあるという、<忘れられた世界>ってのが、過去の文明社会の遺物が残っている地というような感じには受け取れたよね。
にえ そうそう。それに、人間は300人ていどしかいないのに家はたくさんあるみたいで、一人がいくつも家を持っていたりするの。そういうところからも。
すみ でも、そう解釈すると、他の部分で無理がくるよね。虎がしゃべったりしてるところとか。
にえ そうなのよね。主人公は両親を虎にころされて、その虎に算数の宿題を手伝ってもらってるのよね。 そういう非現実的な設定からすると、やっぱり現実とはまったく違うところにある世界ってことになるのかな。
すみ 主人公たちは小さなコミューンみたいな感じの共同生活をしているんだけど、 ちゃんと働いている人と、主人公のように働かなくても咎められもせず、食事を与えてもらえる人もいて、そういうのもよくわからない設定だよね。
にえ あとさあ、子供に勉強を教える学校の先生も出てきたよね。でも、子供が一人も出てこなかったの。 これも不思議な感じがした。
すみ まるで主人公たちが人類最後の世代みたいだったよね。でも、そのわりには みんな、悲壮感もなく、ノンビリと暮らしてたけど。
にえ たぶん、書かれているものをそのまま受けとって、解釈なんかしないほうが良いんだろうね。 まあ、小説のなかではこういう世界もあるんだろうな、と。
すみ で、主人公は元恋人のマーガレットと過去になにかあったみたいで、マーガレットと仲が良かったはずの 現恋人ポーリーンは、マーガレットが仲間はずれみたいになってることを悩んでいるの。
にえ その過去には、おかしな行動をする奴らのことがからんでて、それはもう、ホントに不可解なことが起きてるのよね。
すみ じゃあ、読んでてなにがおもしろかったのかというと、う〜ん、う〜ん、なんでしょ、妙な浮き感の心地よさかなあ。
にえ スイカってジュースにすると、ボワンと甘いだけで特徴がないじゃない? あれがそのまま小説になったみたいだよね。 スイカの味はマヌケだけど、不思議と記憶にはしっかり残るのよ。
すみ わかったような、わからないような(笑) とにかく、なんだかわからないけど、けっこう気に入ったってことで。