すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ひかりの巫女」 アレックス・シェイカー (アメリカ)  <アーティストハウス 単行本> 【Amazon】
火山からは悪臭を放つガスが吹き上がり、その下方にはガラスの高層ビルがそそりたつ大都会ミドルシティーで、 アースラは妹アイヴィーのかつての恋人チャスのもと、トレンドスポッターの職に就いた。アイヴィーは離れた目と、 独特の雰囲気を持つ駆け出しのモデルだったが、統合失調症で今は精神病院にいる。トレンドを生み出すインスピレーションを 得るために街を物色していたアースラは、公園で野生児のように暮らすモヒカン刈りの女性を見つけた。サヴェッジガールと名づけたその女性は、やがて トゥモロー社が一大キャンペーンを巻き起こすもととなった。
にえ 新進気鋭のアメリカ作家、アレックス・シェイカーの初翻訳本です。 ジョージ・オーウェル、トマス・ウルフに匹敵する才能と激賞された傑作、というので読んでみました。
すみ そういう宣伝文句に弱いのよねえ(笑)
にえ でも、どっちかというとバブリーな時代に多発した、ポップでダークな、ネオカルチャーやりますって 気負いのあった若手作家たちの発展版って作風。それ以前の作家と並べて評するのはちょっと違うかなって感じ。
すみ オーウェルやウルフなら、いまだ評価が高く読み継がれてるけど、ポップでネオな作家さんは みんなすでに消えちゃってるから、名前を挙げて並べるわけにもいかなかったんじゃないかな。
にえ なんというか、これは全編の大部分が序章って感もある、起伏があるようでないような ストーリーよね。それなのに、なんだろう、ものすごくスピード感があるの。
すみ うん、シェイカーの作り出した仮想世界の雰囲気に酔いしれて、グングン引っぱられて一気に読むか、半ば退屈して、なかなか進まないな〜と ダラダラ読むか、はっきり分かれそうな気がした。
にえ こういうハマル人となんだかな〜と思う人にくっきり分かれそうな本は、 勧めづらいねえ。個人的には、かなり気に入ってしまったんだけど。
すみ なんというか、ストーリーや人物造りにアメコミちっくな浅さみたいなのはあるんだけど、 それでもやっぱりこういう独自の世界をきっちり作り上げていただいちゃうと、褒めずにはいられないよね。
にえ ガラスの高層ビルが建ちならぶサイバーシティー、窓からは活火山が見えるっていう背景なんだけど、 このウヒャって感じの仮想世界が、物語全体とピタッと合ってるの。
すみ ミドルシティーはもちろん空想上の都市だけど、未来都市とも別世界ともいえないのよね。 明らかにアメリカのなかにあるし、ネスレとか、カルヴァン・クラインとか、ギャップとか、企業名は実在のまま使われてて、 生活風景とか、インターネットの話とか書かれたものを読むかぎり、そのまま現代社会なの。
にえ その不思議都市ミドルシティーで、トレンドスポッターという仕事に就くのが 30才の美女アースラ。自分では美女だと思ってないみたいだけど。
すみ トレンドスポッターってのは広告代理店のような仕事内容で、商品を消費者に売りつけたい 企業を相手にやってるんだけど、トレンド仕掛け人のような色合いがあるのよね。
にえ ひとつ先の流行を読み、かつ、みずから流行を生み出して、商品をヒットさせる起爆剤を 提供する、みたいな感じよね。大規模な販売キャンペーンを請け負ってるというか。
すみ アースラはかつて画家を目指してたんだけど芽が出ず、妹のアイヴィーの統合失調症発病をきっかけに、 トレンドスポッターへの道を歩みはじめるの。
にえ 統合失調症といってもこういうお話ですから深刻な感じじゃなくて、妄想世界は極彩色のきらびやかさで、 発症の仕方も派手派手なんだけど。
すみ アイヴィーは自分を、有史以前の時代から現代に誘拐された原始人巫女だって信じてるのよね。
にえ ちなみに、アースラとアイヴィーの母グウェナンは形成外科医だったけど、自分を完璧にベティーちゃんに変えてくれっていう 患者に、本気で取り組んで、漫画のとおりのベティーちゃんに仕上げて人間離れさせてしまったのが原因で職を失った人。きてるなあ(笑)
すみ でまあ、活字の大部分を覆うのが、アースラのボス、チャスが展開する、ゆがんだマーケティング理論みたいなお話で、 これが登場人物たちを狂気に走らせていくの。
にえ チャスはポストアイロニーを駆使して、次世代をライトエージに導こうとしてるのよね。なんて、 これを読むとどうしてもカタカナ語を多用したくなってしまう(笑)
すみ チャス率いるトゥモロー社はどうなっていくのか、サヴェッジガールのキャンペーンから発展して、 アイヴィーはどうなっていくのか、モデルとなった都会の野生児少女の行く末は? というようなお話。意外と最後のほうまで話の起伏はさほどないんだけど。
にえ それに純愛が加わるのよね。互いを求め合っていたにもかかわらず、こんがらがってしまった男女には どんな未来が待っているのか。
すみ バブル時代が一昔前になってしまったから、よけい新鮮に感じるのかもしれないけど、 こういう映像美には惹かれたなあ。こういう話なのに不思議とクレバーな落ち着きが感じられたのも好印象。
にえ なにも起こらないうちから疾走感があって、湿りっけなしのカラッカラに乾いたダークさ、シリアスさ。 良いんじゃないの。ということで、好きそうだったらどうぞ。上出来です。