すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「王子シッダールタ」 1 パトリチア・ケンディ (イタリア)  <集英社 単行本> 【Amazon】
カムサ国のシヴィ王子は若くして、命を終えた。生も死も輪廻の一部、自分もまたかならず戻ってくると誓いながら。 誓いどおりにシヴィ王子はこの世に戻ってきた。シャカ国の王子シッダールタとして。シッダールタは足の裏に たくさんの車輪の印が刻印されている。それは、彼の出生が奇跡であったことをしめすあかしだった。
にえ 「ローマ法王のお膝元で、20代のイタリア人女性が若き釈迦の波乱の日々を描いたファンタジー」と 聞いて、読んでみました。
すみ なかなかおもしろい経歴の女性だよね。1970年ミラノ生まれで、父親はユダヤ人、母親はエジプト人。ミラノ大学で中世史を 学んだのち、宗教学に打ち込むためにイスラエルに在住、だって。で、これが24才の時に書いた処女作。
にえ ファンタジーと一言でいっても、詩的なものもあれば、深みや重みのあるものもあるし、いろいろなんだけど、 これはけっこうマンガちっくというか、ロマンティックで、ちょっとだけエロティックで、きらびやかな感じだったよね。
すみ そうだね。エピソードがたくさん盛り込まれてるけど、ちょっとおとぎばなし的だし、まじめに釈迦の生涯を学んでる人とか、 きっちり仏教を学んでる方が読むと、ウヒャヒャ、なんじゃこりゃと腰くだけるかもしれない。
にえ でも、そんな深いことはいいから、物語を楽しませてくれればいいと思っているんだったら、 ご期待どおりでしょ。胸躍り、ドキドキ、ハラハラと楽しませてくれるお話だった。
すみ あと2巻出て、全3巻になるみたいなんだけど、今から先を読むのが楽しみだよね。
にえ 後半になってぐっとおもしろくなったもんね。単純明快な善と悪の戦いがあり、交差しまくる宿命があり、さまざまな愛憎劇があるの。
すみ まずね、主人公のシッダールタは超美形の王子様で、自分のこれからの生き方に悩み、苦しんでいるの。
にえ そんなシッダールタと愛し、愛されるのがラマガーマ国の王女ヤショーダラーなのよね。
すみ いくら愛しあっていても、シッダールタには使命があり、いつかは旅立たなくてはならないのよ〜。
にえ シャカ国じたいも愛の国。賢く、慈愛に満ちたシッダールタの父シュッドーダナ王に治められる、美しい国。まあ、 父といっても、シッダールタにはじつは出生の秘密があるんだけどね。
すみ そのシャカ国に敵対するのが、憎悪のシンボルである魔神マーラを信仰するドゥロノダーナ王が治める ナーガドゥヴィーパ国。ナーガドゥヴィーパっていうのは蛇の都って意味みたい。悪キャラの国としてはわかりやすい名前(笑)
にえ ドゥロノダーナは、シッダールタの父シュッドーダナの兄なのよね。こいつはほんとにオドロオドロシイ奴なの。 やることなすこと醜く残酷で、ゾワゾワ来ちゃう。
すみ で、ドゥロノダーナにも一人息子がいて、こいつはデーヴァダッタっていうんだけど、 子供の頃はシャカ国でシッダールタとともに学んでいて、ちょっとまだ善とも悪ともいいがたいところ。
にえ なんと言っても魅力的なのが、ナーガドゥヴィーパ国の宮廷付きの遊女ナーラーヤニ。 蠱惑的な絶世の美女で、これから先はどうなるんだかわからないんだけど、この1巻では、ほとんどシッダールタと並ぶダブル主人公みたいな存在だった。
すみ シッダールタは旅立つ前だから、ナーラーヤニの波瀾万丈の人生のほうがおもしろくって、 夢中になれたよね。
にえ 出生からして激しいナーラーヤニは、その後の人生も激しいものなの。賢くて、強さも弱さも兼ね備えてて、 人としても魅力があった。
すみ だいたい主要な登場人物はこんな感じで、多すぎもせず、登場人物一覧表にもまったく頼らず、サクサク読めたよね。
にえ こういう人たちが運命を交差させ、愛憎劇が繰り広げられつつ、シッダールタは運命に導かれ、悟りの道へと進んでいくのよね。
すみ あとは、お決まりのように謎の預言者が現れ、シッダールタに運命を告げたりするの。
にえ とまあ、いかにもって感じの物語に仕上がってるんだけど、読んでみると意外と安っぽさはなくて、 きちっと書いてくれてるわって印象。期待しすぎさえしなければ、満足できるんじゃないかな。
すみ これだけサクサク読めるお話なら、一度に全3巻出してほしかったけど、まあ、しょうがない。 あとの2冊を楽しみに待ちましょう。