すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「宇宙のかたすみ」 アン・M・マーティン (アメリカ)  <アンドリュース・クリエイティヴ 単行本> 【Amazon】
夏休みになると、ハッティはいつも独りぼっちだった。親友のベッツィは別荘に行ってしまうし、ベッツィ以外に友だちはいないから。 ベッツィの両親は一緒に別荘へ行こうと誘ってくれるけど、ハッティはいつも断っている。住み慣れたミラートンの町が大好きで、下宿屋を やっている自分の家が大好きで、どこにも出ていきたくないから。11才から12才になるの夏休みも、ハッティにとってはいつもどおりの 夏休みになるはずだった。ところが、存在すら知らなかったアダム叔父さんが現れ、ハッティの生活は一変した。 2003年度ニューベリー賞オナー受賞作品。
にえ これは優れた児童書に与えられるニューベリー賞オナーを受賞しているところからしても、 もとは児童書なのよね。
すみ うん、主人公のハッティと同じ10才から12才ぐらいの子に読んでほしい小説ってところだったのかな。つまりはYA本ってところ。
にえ でも、翻訳本については、かなり大人向けな感じの表紙で、あんまり子供限定じゃなく、むしろ大人に読んでほしいって 意向がうかがえたよね。
すみ たぶんね。読んだら、こういう少女の瑞々しい感性を書いた小説は、大人になってからのほうが新鮮な気持ちで楽しめるんじゃないかという気がしたし。
にえ ホントに瑞々しかったよね。それに、登場人物の造形やら、少女の心の動きの描写やらが、ほんとに 上手な作家さんで、これはたしかに大人も読むべき、と思った。
すみ そうだよね。最初っから大人読者も狙って書いたって感じではないから、あくまでもヤングアダルト層に語りかけるように 書かれてはいるんだけど、大人が読んで違和感はないよね。
にえ まあ、一部分だけ、う〜ん、いかにもYA的展開、と思うところはあったんだけど、 その違和感は他の瑞々しさで払拭されたかな。
すみ それを言ったら私は、一番肝心なアダムに読んでいるあいだじゅう微妙な違和感というか、 リアリティの足りなさのようなものを感じちゃったけど、でもハッティが良いから良い(笑)
にえ そんなこと言うんだったら、ストーリーをきっちり持っていきたいところに持っていくために、 ちょっと無理しすぎたんじゃないかなって違和感はなきにしもあらずだったけどね。
すみ このへんでやめときましょ。褒めるつもりが、けなしてるみたいになってきた(笑)
にえ やっぱり私たちにYA本は鬼門かしら。けっこうよかったんだけどな。
すみ とにかくね、アダムはともかくとして登場人物がよいのよ。大人にはしっかり大人の事情があって。
にえ ハッティは普通の11、2才の少女より、大人に関わってる女の子って印象だよね。
すみ 家は下宿屋をやっていて、画家の父と母、それに、下宿人の老嬢ハガティさん、もと時計屋のペニーさん、 銀行に勤める美人のエンジェルさん、それに家事を手伝いに来るクッキーさんと大人に囲まれてるからね。
にえ そのうえ、母親の両親はお金持ちでうるさ型なんだけど、行き来が多いみたいだし。
すみ そんな環境のなかで育ったハッティは、本を読むのが大好きで、自分の町から出たくないと思っている、 わりと内気で、引っ込み思案の少女なの。
にえ とはいえ、言いたいことも言えないような子じゃないけどね。意外と気は強い。
すみ ハッティの前に突如として現れるのが、叔父のアダム。アダムは母親の歳の離れた弟で、 まだ21才なの。
にえ 実年齢は21才だけど、精神年齢はもっとずっとしたに感じられるよね。アダムには生まれつきの精神障害があるから。
すみ とにかくアダムは純粋で、陽気で、でも気持ちにムラが激しく、興奮すると手がつけられ なかったりもして、ハッティはアダムが大好きになるけど、うまく踏み込めなかったりもするの。
にえ ハッティはアダムを腫れ物に触るように、恥として隠そうとするように扱う大人たちに反感を持ちながらも、 いろいろと経験し、わかってくるんだけど、このへんの心の動きの描写は秀逸。
すみ 町に移動遊園地がやってきて、ハッティには新しい出会いが待っていたりするんだけど、 このへんも良かったな〜。
にえ とにかく、まったく違和感がなかったとは言わないけど、丁寧に書かれてて、少女の目を通した世界が時にキラキラと眩く、 時に胸痛むほど残酷で、良いご本でした。
すみ 精神障害うんぬんはメインではあるけど、逆にあまりこだわらない方が読んだほうがいいかも。瑞々しさのほうを期待する方にオススメ。