すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない」  ジャン・ヴォートラン (フランス)   <草思社 単行本> 【Amazon】
パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺された。犯人はビリー・ズ・キック。 それは、シャポー刑事が娘ジュリー=ベルトのために作った話の主人公と同じ名前だった。次々に殺される女たち。 疑われたのは、精神分裂病の男イッポ。だが、イッポとジュリー=ベルトはひそかに婚約していた?!
にえ これは、前に読んだ『鏡の中のブラッディ・マリー』の前作にあたるんですが・・・。
すみ 私たちの下手なあらすじ読んでもらっても、なんだかわからな いんじゃないでしょうか〜。
にえ なんかねえ、この人の本はオムニバスっぽかったりもして、 ストーリーを説明しづらいのよね。
すみ じゃあ、登場人物を羅列しときましょう。
にえ シャポー刑事は、ハンサムさんだけど、背が低い。それが コンプレックスになってて、精神的に荒れてます。
すみ その上司ベランジェは休暇中で、なんだか笑うトカゲを殺す ことに夢中になってるのよね。
にえ で、シャポー刑事の妻ジュリエットはものすごく綺麗な人で、 森でトラックの運ちゃん相手に売春をしているの。
すみ 娘のジュリー=ベルトは人を殺すことを夢みていて、見た目は 作り物のお人形みたい。で、なぜかみんなを狂気に引きずりこむ魅力があるのね。
にえ で、ジュリー=ベルトよりずっと年上の婚約者イッポは精神 分裂病でオペラ歌手を殺しかけたことがあるんだけど、子供たちの中ではカリスマ的存在。
すみ イッポの母親は、イッポのことで悩むと腕をねじる癖がある。
にえ シャポー一家の向かいの部屋に住む謎の女ペギーは、マリーネ ・デートリッヒの物まねをする芸人で、しかも・・・とまだまだ変わった人のオンパレード。
すみ だからって、ユーモア小説ではないのよね。血なまぐさい上に 妙な緊張感が漂ってて、しかも乾いてる。
にえ で、細かく章に分かれてて、語り手がどんどん入れ替わる。歯切れ のいい文体でテンポよく、ストーリーの展開も早いしね。
すみ なんか一応ストーリーはあるんだけど、ディティールをつなぎ合わせていって、 全体でひとつの前衛芸術的な絵を作る、みたいな感じがあるよね。
にえ フランスでは、「ネオ・ポラール(ロマン・ノワール)」という 新しいミステリーの運動があって、ヴォートランはその旗手的存在らしいです。
すみ もともとは、映画監督だったりしてた人なのよね。だから、 描写はすごく映画的。
にえ もともと、そのネオ・ポラールっていうのが、謎解きではなく、 荒廃した現代を描き出すことに主点を置いた新しいミステリーなんだそうです。
すみ だから、この人の作品も、暴力や無秩序が横行する、近未来的 廃墟の世界なのね。
にえ 読んでるとなんとなく、『ブリキの太鼓』とか『時計仕掛け のオレンジ』とかを連想するよね。
すみ そうそう、読んでて胸に空気が入っちゃったみたいにスカスカ してくる、あの感じね。
にえ でも、こっちのほうがより映像的で過激、ハデハデしいの。
すみ 勢いにのせられて、あっという間に読めちゃうしね。 前衛的だけど、読みやすい。
にえ けっこういろんな小説読んできたって人には、おもしろいと 思うんだけど。もちろん、たまに読むぶんには、だけどね(笑)