すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「緑色遺伝子」 ピータ−・ディキンスン (イギリス)  <サンリオSF文庫> 【Amazon】
生まれつきの数学の天才ヒューマヤンは、インドからはるばるイギリスに渡ることになった。 ヒューマヤンは医学統計家で、癌の遺伝について調べていたのだが、偶然にも、イギリスのケルト人種のあいだに 次々と生まれてくる緑色の人々の緑色遺伝子についての新発見をしてしまったのだ。ヒューマヤンはイギリスの RRB(人種関係局)で働くことになっていた。ところが、イギリスに着いたとたんに、下宿をする予定だったグリスター家にあまり歓迎されていないことがわかった。
にえ ようやく読みました、絶版サンリオSF文庫のなかの1冊、「緑色遺伝子」です。
すみ これでピーター・ディキンスンの翻訳本は、同じサンリオSF文庫の「生ける屍」を残すのみだね。
にえ 「生ける屍」は復刊されない限りは読む機会もないだろうから、たぶん、これで一応は読める範囲で全部読めたってことになるのかな。
すみ 「生ける屍」の復刊投票お願いしま〜す。なんて、宣伝してみたりして(笑)
にえ さてさて、この「緑色遺伝子」なんですけど、思わせぶりな題名といい、カバー絵の緑色の顔をした赤ちゃんの絵といい、 これはバリバリのSFものだなと思ってたんだけど。
すみ ピーター・ディキンスンは作品ジャンルの幅が広いから、読んでみないとわからないのよね。でも、これは私も、もっとバリバリのSFだと思ったよ。
にえ 意外とそうでもないんだよね。もちろん、最初の設定はモロSFなんだけど、そこからの展開は、ちょっとミステリというか、サスペンスというか、 冒険活劇的というか。
すみ うん、読みはじめは、わ、バリバリのSFだよって構えたんだけど、それから先はSF読んでる〜って感覚はあまりしなかったね。
にえ そのSFらしい設定っていうのは、SFのなかでもIFものなんだよね。時代は特定されていないけど、イギリス人のうち、サクソン人種からは これまでどおり普通の白人の子供しか生まれないのに、多くのケルト人種からは、緑色をした子供が生まれるようになるの。
すみ 遺伝子レベルの問題だから、かならず生まれるとも限らないし、ちょっとでもケルト人種が入っていると生まれない保証はないのよね。
にえ イギリスの人口のかなりの比率を占めるようになった緑色の肌を持つ人々は、やがて差別的な扱いを受けるようになるの。
すみ 白人のサクソン人種とは一緒に暮らせなくなるのよね。<ゾーン>法というのができて、決められた地域にしか住めなくなるの。 夜間外出禁止令まであるし。
にえ まともに学校にも行けず、最低限の暮らしをしながら、白人たちからは安い賃金でこき使われることになってるのよね。
すみ 差別をなくそうなんて運動も、機関もあるけど、どれもこれも諸外国への体裁を整えるための形ばかりのもの。
にえ しかも、緑色人種の解放を求めて、爆破によるテロが繰り返され、毎日のように死者が出てる。 天才インド人青年のヒューマヤンが行くイギリスはそんなところ。
すみ 黒い肌を持つヒューマヤンは、白人にも緑色人にも敬遠されて、居心地の悪い思いをすることになるのよね。
にえ ヒューマヤンが居候するのは、雑誌編集長グリスター博士のお宅。ここには ケイトとグレンだっていう二人姉妹がいるの。
すみ ケイトは美人で人当たりもよく、ヒューマヤンも一目惚れなんだけど、 彼女にはつきあっている人がいるみたいなのよね。
にえ 隣の家に住むジャーナリストのフランク・リア。こいつはどうも怪しい奴なの。
すみ 背中に謎の文字が書かれてたりするのよね。
にえ 妹のグレンは醜女で、魔女のような女の子なのよね。ヒューマヤンに対する行動がかなり怖い。
すみ 家政婦として働いてる緑色人種のモイラグもかなり不気味だよ。なぜだかわからないけど、 ヒューマヤンにものすごい憎悪を燃やすの。
にえ そのうちにヒューマヤンはおかしなことにいろいろ気づきはじめ、緑色人種解放運動に巻き込まれ、 と、そういう展開。おもしろかった。ラストがいかにもピーター・ディキンスンなのはご愛敬(笑)
すみ それにしても、ピーター・ディキンスンのイギリス人に対する皮肉っぷり、嫌味っぷりは相変わらず凄かったね(笑) これで イギリスで人気があるんだから、おもしろいものよねえ。ということで、いろいろ考えさせられ、おもしろい小説でした。