=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「嵐が丘」(新訳) エミリー・ブロンテ (アイルランド)
<新潮社 文庫本> 【Amazon】
1801年、いかにも寂しく、寒々しいムーアの景色に囲まれた<鶫の辻>の屋敷を借りることにしたロックウッドは、 その所有者であり、ムーアのずっと向こう側、<嵐が丘>の屋敷の主人であるヒースクリフ氏に興味を持った。 無愛想で、捻れた暗い性格をしているとしか思えないヒースクリフ氏が、泣きながらある女性の名前を呼んでいるのを見てしまった からかもしれない。「キャサリン」 その名前の女性はヒースクリフ氏にとってどれほど大切な女性だったのか。今、ヒースクリフ氏の 屋敷で暮らしている、美しいが暗い顔をしたキャサリン嬢とはなにか関係があるのか。<鶫の辻>の屋敷でロックウッドの世話を焼く ディーンおばさんに訊ねたところ、彼女はすべてを知っており、あますことなく話してくれた。壮絶な愛と復讐の物語を。 | |
お気に入りの「嵐が丘」に新訳が出たので読んでみました。 | |
名作古典文学の掲示板を作ったとき、私たちがまず最初に挙げたのが この「嵐が丘」なのよね。それぐらいのお気に入り。 | |
でもさあ、この新訳を読んだら、かなりイメージが変わったよね。 | |
そうそう、夢見る少女時代(笑)に読んだときの印象と比べると、好きだったはずのところが、 こっちではそれほどよく感じられなかったし、逆にこんなこと書かれてたっけって部分がすごく興味深く、おもしろく読めた。 | |
イメージをガラッと書きかえられて、違う小説を読んでいるようだったけど、評価は前に読んだのが100 点だったとすると、今回読んだ新訳は、そこからマイナスする点とプラスする点があったから、けっきょくはまた100点、というところだよね。 違ってても、やっぱり素晴らしいっ。 | |
前はとにかくヒースクリフの激しい愛が印象に残ったけど、今回はそうでもなかったよね。これが私のなかでの マイナス要因なんだ。 | |
私はいつのまにか記憶がすり替えられていたのか、ヒースクリフが荒涼としたムーアを 恐い顔でにらみつけているというシーンが何度も出てきたような気がしてたんだけど、今回読んでみたら、そんなシーンは 一度も出てこなくて、自分の記憶のてきとうさにショックを受けた(笑) | |
私はやたらと狭っ苦しい世界での話だなというイメージがあって、 そこは同じだったから、あらためて、狭っ苦しいな〜と思った(笑) | |
そうなんだよね。物語のなかで時は流れ、世代も変わるんだけど、新しい人が加わるということも ほとんどなく、ごく少数の人たちの世界であることに変わりはないんだよね。 | |
そう、その少人数が荒涼としたムーアの広々とした世界のなかにずっといて、 肩寄せあわずに反目し、憎しみあって暮らしているところに独特の凄みがあるのよ。 | |
でもさあ、読みはじめてまず印象が違って驚いたのが最初のほうの話だよね。 オドロオドロしい世界だけのような気がしてたのに、けっこうユーモラスなところもあって。 | |
まず、最初の語り手であるロックウッドが、この物語世界とは関わりのない人で、 けっこう気楽なところがあるから息が抜けるのよね。じつは私、読みはじめでこんな登場人物いたっけ?とスットボケたことを思ってしまったんだけど(笑) | |
それから語り手となるネリー・ディーンの存在だよね。この人が柔らかな口調になっているから、心地よくて、 なんか眉間に皺を寄せずに読めた。 | |
使用人にしてはちょっと出しゃばりすぎるようなところもあるんだけど、 自分の信念があり、思いやりとやさしい視線がありで、しかも意外と大胆な行動をする人で、こんな性格の人だったんだ〜と思いつつ、軽妙な 語り口に引き込まれた。 | |
新しいネリーの視線を通して、<嵐が丘>世界をもう一度見させてもらったって感じかな。 | |
語り手のネリーのやさしい性格が前面に出ているから、前に読んだときには気づかなかった、他の登場人物の美点も クッキリと見えてきたよね。 | |
ヒースクリフが前より人間として意識して読めたかな。前はキャサリンへの激しい愛と、そこから来る悪魔的な性格から、 ものすごく遠い存在に感じられたんだけど、今度はあるていど理解できるところまで近づけたような。 | |
圧倒的な存在感が薄まったんだけど、そのぶん、人としての魅力は増したって感じかなあ。なんか痛々しく、かわいそうな気もしてきたりして。 | |
<鶫の辻>のエドガー・リントンについては、好感度がぐぐっと上がったよね。こんな毅然とした態度もとれる、 立派な人だったんだと思った。 | |
薄気味悪く、うざったいばっかりだった<嵐が丘>の使用人、ジョウゼフじいさんも、 意外とかわいげがある人だったのね、なんてことも思ったよ。 | |
とにかく記憶が抜けちゃってる部分も多々ありすぎで、覚えてるはずの部分も印象がかなり変わり、で、 再読っていうより、ちょっとだけストーリーを知っている小説を初めて読んでいるような読感でした。これは読んでよかった。やっぱり不朽の名作は古びないのねえ。 | |
昔読んだんだけどって人にも、じつはまだ読んだことないんだって人にもオススメ。読みはじめたらもうグイグイ引っぱられちゃいますよっ。 | |