すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「あのころ、私たちはおとなだった」 アン・タイラー (アメリカ)  <文藝春秋 文庫本> 【Amazon】
19才のレベッカは少し内気で太めだけれど、大学ではリー将軍についての新しい説をとなえて教授に期待され、幼なじみの青年と仲むつまじく、 結婚まで行くかと思われていた。ところが友だちのパーティで三十代の男性と出会い、わずかな交際期間で結婚し、大学を辞めてしまった。 その男性には前妻が置いていった3人の娘がいるというのに。そして時は流れ、レベッカは今、53才。夫は結婚して6年で亡くなってしまい、そのあとは3人の義理の娘と 自分が産んだ娘の4人を育てたが、手が放れた今は孫までいる。これで人生の終盤に向かうのかと思ったその時、レベッカは夢を見た。いないはずの息子と 汽車で旅をする不思議な夢。それは、レベッカが手に入れるはずだったもうひとつの人生なのか。
にえ 久しぶりにアン・タイラーの翻訳新刊が出ました、うれしいですねえ。
すみ 単行本の文庫化はのぞいて、純粋に新刊となると、4年ぶりになるのかな。
にえ 期待通りのアン・タイラー節、炸裂だったよね。それにしても、なにか起こりそうでなにも起こらないってのは いつもどおりなんだけど、今回はまあ、いちだんと(笑)
すみ 地味といえば、地味な作品になるんだろうね、アン・タイラー作品の中でも。
にえ あと、アン・タイラーも年齢的に落ち着いたんだな〜とシミジミ思った。若い頃の作品のハッチャケぶりが すっかり息を潜めてて。
すみ 1941年生まれだもんね。なんとなく、アン・タイラーって三十代ぐらいの女性って イメージがず〜っとあるんだけど、そんなわけはないのよね。年齢を計算して、あらためて驚いてしまった。
にえ 年齢の重みかな。この人の小説を読んでいると、エピソードやら、なにげない会話やらにドキッとすることが多いんだけど、 この小説はけっこうズシッと来るものが多かった。
すみ 「もし愛がなかったら、どんなにすっきりした人生を送っていただろう」なんて、ごく普通っぽい女性の口から いきなり言われちゃった日にはもう、ズシッと来ちゃうよね(笑)
にえ レベッカ自身が、かなり地味めの主人公なんだよね。ちょっと太めで、髪があまりきれいに整ってはいない、53才なりの女性。
すみ 特別に世話焼きってわけでもないし、かといって暗くもなし、目立つような変わり者ってわけでもないし、 アメリカに行けば、どこででも見かけそうなオバサンだよね。
にえ 昔は優等生、将来は幼なじみの恋人ともに学者かなってところだったのに、 今は生活にまみれ、他人から見れば昔の面影なしの、平凡な中年女性に成り下がった人ってことになるのかな。
すみ でも、ここまでの人生は忙しくて、そんなこと振り返ってみることもなかったのよね。 扱いにくい義理の娘を3人も抱えたうえに、自分も娘を産み、夫の叔父まで引き取って、大変なところに夫の交通事故死。
にえ 娘たちの面倒、そのうえ、血もつながっていない義理の叔父の面倒まで見て、 しかもさらに、夫がやっていたパーティーハウスの切り盛りまでやらなくちゃならなくて。
すみ 夫が遺したレベッカの家は、パッと見はちょっと歴史のありそうな、素敵なテラスハウスなのよね。 じつは修復につぐ修復で、なんとか保たれてるボロ家だったりもするんだけど。そこでパーティーをやる仕事をしているの。
にえ 誕生日パーティーやら、結婚パーティーやら、同窓会やらを、家のパーティー会場でやってもらって お金を稼いでるのよね。
すみ そんな仕事をやっている家なら、一家もきっと社交的な人たちだと思ったら大間違いだよね。 無愛想で、非協力的で、レベッカが全部切り盛りしなきゃならないの。
にえ そんな中で長く暮らしてきて、内気な性格だったはずのレベッカは、いつのまにか 社交的で、明るい女性ってことになってしまって。こういう感覚は社会に出て、仕事をすれば、誰でも感じることじゃないの。あれ、 私ってこういう性格だっけ? 無理しているうちに板に付いてしまったの?って。
すみ さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、そんなこんなで53才になり、 娘はみんな出ていって、血のつながらない叔父と二人で暮らすようになったレベッカが、おや、こんなはずでは、と思ったところから はじまるお話。
にえ 血のつながらない叔父のポピーは、100才のお誕生日を迎えるところなのよね。 このポピーっておじいちゃんが、ちょっとボケてるんだけど、なかなか良い存在なの。さりげなくレベッカに見せる情のあらわれなんて、ジワンと来ちゃった。
すみ レベッカは19才の時に別れた元恋人に電話をしてみようとするんだけど、さてさて、どうなりますやら。 この設定はギョッとさせられたけど、読んで納得ってところはやっぱりアン・タイラー。
にえ なんといっても、レベッカが血のつながりのない人がほとんどの大家族のなかで暮らしてるってところがアン・タイラーらしいと思ったな。 前に(仮)ってつきそうな家族のなかで、いつのまにやら出来ていた自分の居場所。ここでいいのか? と立ち止まって考えはじめる女性主人公。ああ、アン・タイラーらしい世界だ。
すみ 登場人物がけっこう多くて、登場人物一覧表を見ながら読むって感じでした。わざわざメモらなくても大丈夫なんだけど。アン・タイラーがお好きな人には安心してオススメ。ジンジンしながら読んでください。 初アン・タイラー本には、どうかな、地味さを覚悟の上でなら。