すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「血族の物語」 上  ピータ−・ディッキンソン (イギリス)  <ポプラ社 単行本> 【Amazon】
二十万年前のアフリカには、<最初のものたち>に由来する8つの血族がそれぞれのやり方で暮らしていた。 そのなかのひとつ<月のタカ族>はひとつの場所には留まらない。他の血族と摩擦が起きないように気遣いながら、 <よきところ>をめざし、つねに旅をしていた。ところがあるとき、血族のなかでも目立たない少女だったノリの夢に <月のタカ>が現れ、危険を告げた。「人殺しのよそ者がやってくる!」 ノリは<月のタカ>族のリーダーである バルにそのことを告げたが、バルに殴られただけだった。そして、よそ者たちに突然襲われ、<月のタカ族>は 殺されなかったごく少数の者だけで逃げ出さなくてはならなくなった。
にえ ピーター・ディッキンソンの新刊です。8月にならないと下巻が出ないんだけど、 待ちきれなくて読んじゃいました。
すみ おもしろかった、おもしろかった、おもしろかった〜。小学校高学年から中学生向きって書いてあったけど、 大人が読んでこれほど夢中になれる本に、年齢制限しちゃいけないんじゃないのっ(笑)
にえ おもしろかったよね〜。私は正直言って、ピーター・ディッキンソンだから読むって感じで、 それほど期待してなかったんだけど、読みはじめたらもう、やめられない、止まらないだった。
すみ そうなのよね、ディッキンソンのこういう感じの児童書っていうことで、読む前に私が思い浮かべたのは「青い鷹」だったんだけど、 これがちょっと苦手だったから、同じような感じかな〜と思ったんだよね。
にえ 「青い鷹」も良書ではあるんだけど、私たちには読むのがちょっと苦痛だったよね。
すみ あとは、「過去にもどされた国」「悪魔の子どもたち」の<大変動>シリーズ、こっちも連想した。内容としては 興味深いんだけど、いかにもな児童書で、やっぱり読むのがちょっとつらかった。
にえ どうも私たちは児童書とは相性が悪いのよね(笑)
すみ でも、この本は読んでいるあいだ、一度も児童書って感じがしなかったな。 子供に向けてっていう作者意識みたいなのがまったくなかったよね。ひたすらおもしろく、刺激的で、興味深い読み物に徹してて。
にえ 私は始祖ものの部類に入るのかなと思って、スー・ハリソンのアリューシャン黙示録や、 ジーン・アウルのエイラのシリーズと、比べながら読んだりもしたんだけど。
すみ うん、一連の癖の強いディッキンソン作品を想像するより、そっちのストレートなほうを連想したほうが近いかもね。
にえ スー・ハリソンもジーン・アウルも女性の作家でしょ。そのためか、スー・ハリソンは 原始の時代のわりにはロマンティックだったし、ジーン・アウルはフェミニズム思想みたいなのが見え隠れしてたよね。
すみ そうだね、どっちも好き嫌いが分かれるかなってところもあり、男性読者より女性読者向けかなってところもあったね。
にえ この本はそれがなかったよね。ディッキンソンはどの本読んでも 性別を感じないというか、そういうところではサッパリ、淡泊ってイメージがあるでしょ。
すみ ややフェミニストだけどね。だから女性読者が読んで心地いいんだと思うけど、でも、 男性だからフェミニストといっても、ヒステリックにはならないよね。
にえ こういう原始のものって、作家が想像を限りなく解き放たれることのできる自由な世界でしょ。 となると、強烈に主義主張を押し出すのもありだし、趣味に走ってお耽美的になることもあり、だと思うけど、ディッキンソンは サッパリ淡泊なお方だから、誰でも抵抗なく読めるんじゃないかな。
すみ とはいえ、ストーリーはめいっぱいファンタジーで、メリハリのあるおもしろいお話なのよね。
にえ 上に書いてあるあらすじは、この本のお話が始まる前に起きたことなの。お話は、 生き残った少人数で旅をしだした<月のタカ>族が夜寝ていたところ、ノリがスーズを起こすところから始まるの。
すみ ノリは少女でありながら、<月のタカ>のお告げがきける不思議少女。スーズはもうちょっとで 成人できる少年。まだ幼さも残るから迷うことも多いけど、勇敢で、思いやり深い少年よね。
にえ 二人は<月のタカ>族が旅の途中で捨てることにした幼い子供たちを助け、 6人の子供だけで旅をすることに。
すみ もうひとつ、平行して別のお話も語られていくのよね。人間たちがまだ生まれる前の<最初のものたち>の物語。 ボスである<黒レイヨウ>や悪知恵の働く<サル>などが織りなす神話的な物語。こっちも難しくはなく、楽しく興味深いの。
にえ ストーリーは下巻が出てからゆっくり語ればいいか(笑) いい感じでお話が切れてるから、上巻だけでいったん止まっても、 ストレスはたまらないと思うよ。
すみ とにかく、おもしろい! これはピーター・ディッキンソンじゃなかったとしても、 絶対オススメだな。