すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ねじの回転 デイジー・ミラー」 ヘンリー・ジェイムズ (アメリカ→イギリス)  <岩波書店 文庫本> 【Amazon】
<デイジー・ミラー>
長期にわたってヨーロッパに滞在しているアメリカ人青年であるぼくは、スイスの小さな町ヴェヴェーで、 母と弟と旅をしているアメリカ人の若く美しい女性デイジー・ミラーに出会った。デイジー・ミラーはぼくの目にはとても純粋な女性に映ったが、 自由奔放な行動のために、良家の子女としての評判はあまりよくなかった。
<ねじの回転>
由緒ある館のクリスマス・イヴの夜、自分の知っている幽霊物語をそれぞれ語り合う招待客の中に、 ダグラスという紳士がいた。ダグラスは誰よりも怖い話を知っているという。それはダグラスの知人である女性家庭教師が、 まだ二十歳、世間知らずの牧師の娘であった頃、初めて家庭教師の仕事に就いたときの話だった。
にえ ヘンリー・ジェイムズ(1843年〜1916年)の小説が2作収録された新訳本が出たので読んでみました。
すみ 「ねじの回転」と「デイジー・ミラー」は言わずとしれたヘンリー・ジェイムズの代表作。 私たちは「ねじの回転」を読んでなかったから、ちょうどいい機会だったよね。
にえ ヘンリー・ジェイムズは、ジョイスやプルースト、フォークナーあたりの「意識の流れ」文学の先駆者的な存在なのだとか。
すみ 「デイジー・ミラー」も「ねじの回転」も読んでみると、今とは価値観がズレまくっているためか、 ピンと来ないところも多くて、いかにも百年も前に書かれた小説だな〜という感はあるけど、その後の作家に影響を与えたってのはわかるような気がしたね。
にえ うん、「意識の流れ」は置いとくとして(笑)、「ねじの回転」の出来事よりも心理描写で恐怖を味わわせる手法っていうのは、 影響大だったんだろうな、と思った。
すみ 子供を使ったホラーっていうところでもね。
にえ まあ、今読んで物凄くおもしろい小説家どうかっていうのは、どっちも微妙だったんだけど(笑) でも、新訳で 読みやすかったし、とりあえずは楽しめたかな。
すみ 「デイジー・ミラー」に関しては、価値観が180度変わったあとに、もう180度変わって、一回転しちゃったんだな〜なんて、 小説本来の楽しみ方とは別のところでおもしろがったりもしたんだけど。
にえ そうそう、「デイジー・ミラー」は題名どおり、デイジー・ミラーといううら若き女性のことが語られてるんだけど、書かれた時代には、 物議を醸し出すような女性なのよね。
すみ 男性と二人きりで人目につく大通りを歩いたり、他の男性に気のある素振りを見せたり、 その時代の他の女性からすると、慎みに欠ける品のない女性なの。
にえ 書かれた時代のもう少し後の時代から見ると、古い慣習に囚われない、自由な女性なんだよね。べつに ふしだらってわけではなくて、ただ、人目を気にせず堂々と、純粋にしたいことをするという。もうちょっと遅く生まれていたら、賛同者も 多くいて、それはそれで、新しい時代の女性だって認められてたんじゃないのかな。
すみ でも、それからまた後の現代となってみると、もうそういう女性は見慣れるどころか飽き飽きしてしまって、 男性にチヤホヤされることだけ考えてないで、もうちょっと自分を磨くことを考えられないのか、この女は、となってしまうような(笑)
にえ それで360度回転ね(笑) でも、べつに「デイジー・ミラー」に出てくるデイジー・ミラーを批判する旧時代タイプの オバサマたちの時代に戻ったってわけじゃないでしょ。
すみ そりゃそうなんだけど。
にえ 私はそれより、デイジー・ミラーの弟が気になりまくった。10才にもなるのに挨拶もまともにできなくて、口を開けば、 ぼくのお父さんはお金持ちなんだよ、とか、ぼくの家のほうがこの家よりずっと大きいよ、とかバカ丸出しなことばっかり言うの。
すみ そこで二人の母親の放任主義に、親の教育というものを考えさせられちゃうから、 やっぱり360度回転だよ(笑)
にえ 「ねじの回転」のほうは、外界とは隔離されたような、とあるお屋敷で、幼い兄と妹の面倒を見る女性家庭教師の 経験する、恐怖の物語なの。
すみ 幽霊奇譚だよね。ヘンリー・ジェイムズは父親の影響で、神秘主義傾向があったんだそうな。
にえ ただ、幽霊が出た〜、怖いよ〜って話ではないんだけどね(笑)
すみ 二十歳でまだ世間知らずの女性家庭教師が、あまりにも無邪気で、純粋で、美しい兄妹たちを愛しながらも 信じられなくなっていき、精神的に追いつめられていくという話。幼い兄妹の、なにげないセリフがけっこう効いてて、ゾゾッとする恐怖をかもしだしてたよね。
にえ ちょっとまあ、女性教師の遠慮がちの自画自賛ぶりとか、なんだか立場のハッキリしない家政婦とかが、ちょっとまだるっこしくはあったんだけど、 なかなかおもしろかった。ただ、現代物の小説を読みなれてると、どうしても書いてあるもの以上のものを期待しちゃって、期待のほうが小説よりも複雑になってしまうぶん、 物足りない気もしてしまうんだけど。
すみ ま、古典として割り切って読めばおもしろかったということで。どっちもラストに時代を感じました。立派な古典なのに、こんな感想でごめんなさい(笑)