すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「半身」 サラ・ウォーターズ (イギリス)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
マーガレット・プライアは眠れぬ日々を過ごしていた。唯一の理解者だった歴史学者の父を2年前に亡くし、弁護士の弟は結婚して すでに子供があり、妹も結婚を間近に控えているというのに、マーガレットはこれからも母と二人だけで屋敷に住みつづけなければならない。 賢く、知識も豊富だが、女性の身のマーガレットにはなんの役にも立たない。かんじんの美貌がなくてはなおさらのこと。 1874年秋、マーガレットは知人のシリトー氏に誘われ、ミルバンク監獄の女囚たちを慰問することにした。貴婦人であるマーガレットが 範を見せれば、女囚たちの更正も早まるだろうということだった。 サマセット・モーム賞受賞作品。
にえ サラ・ウォーターズの初翻訳本です。名前を見たとき、ミネット・ウォルターズの妹?と一瞬思ってしまったけど、ウォルターズと ウォーターズでしたね(笑)
すみ ミステリ作家ともいえないみたいね。これはサスペンス系推理小説だったけど、 書くたびに作風がぜんぜん違うのだとか。
にえ とにかくこれは、ジットリとした暗さのある英国女流作家のミステリ小説を読みたいと思う方には超オススメ。 この作家がどういう傾向の作家さんなのか、まったくわからない状態で手探りで読める今がとくにオススメ。
すみ そうね、なに話してもネタバレにつながって、これから読む方の弊害になるから、 肝心の部分についてはいっさい語れないけど、とにかく迷宮小説って感じだから、暗がりを手探りで進むように読むのが一番だよね。
にえ 詳しい感想も言えないよね。とにかくうまい作家さんだと思った、良かったとだけしか言えない。 これから翻訳されたらかならず読む作家さんのリストに入れたよ。翻訳本1作めから読めてよかった。
すみ こういう、ジックリ、ジットリとしたイギリスの女性作家独特のミステリは 好みが分かれるところだけど、レンデルとか、ミネット・ウォルターズとか、そっち系が好きだって人には絶対ススメたいね。
にえ 核心部分につながることはぜんぶ避けて話すと、まず、主人公は、嫁ぐ先もなく、それほどの年齢でもないのに、 すでに老嬢と呼ばれてしまうような女性、マーガレット。
すみ 2年前に父親を亡くしてから、ずっと不眠症なんだよね。だいぶよくなったけど、 精神的にはかなりやばいところまで行ってたみたい。
にえ そのマーガレットが、慰問するのがミルバンク監獄。このミルバンク監獄の描写が とにかく詳細で、すごいの。
すみ テムズ河畔にあってジメジメとしている石造りの陰気な監獄で、五角形の 獄舎を六つ連結した、まさに迷宮なのよね。
にえ 建物内部の造りも詳細をきわめているし、そこで起きたこと、女囚たちの 暮らしぶりも、ホントにその場にいたように丁寧に書かれてた。
すみ 百年以上前の監獄は、更正させることより、罰を与えることを目的にしているのよね。 それにしても、ひどいものなんだけど。囚人たちは湿気と寒さで生きるのもやっとだし、食事も粗末、着るものも酷く、それこそ精神的におかしくなっちゃう人も大勢いるの。
にえ マーガレットはそこで、売春宿のおかみや、偽金作り、赤子殺しなど、 さまざまな罪を犯した女性に会うんだけど、これがまた一人一人、言うこと為すことリアル。
すみ それぞれの個性も、言い訳も、真実の吐露も、ぜんぶ本当にいた人がモデルなのかなって感じだったよね。
にえ 女囚だけじゃなくて、女看守たちの個性もリアルだった。看守たちもまた、ここに勤めちゃったら、もう辞めても他に 行けない、囚われの身なのよ。
すみ で、運命の女性に出会うのよね。19才の美少女シライナ。シライナは霊媒師なの。
にえ 話は1874年現在のマーガレットが書いた日記と、1872〜1873年に書かれたシライナの日記で 交互に語られていき、ストーリーが進みつつ、真実が見えてくるってつくりなのよね。
すみ シライナは、15才の少女に治療を施すための降霊中、その少女に騒がれちゃって、その騒ぎのために 世話を焼いてくれていた老貴婦人が亡くなってしまい、すべての罪を負って服役中なの。
にえ シライナにはピーター・クイックという男性の支配霊がいるんだけど、 その支配霊が乱暴者なのよね。
すみ 降霊術なんてものは信じられないマーガレットだけど、品よく美しいシライナに 惹かれ、会話を重ねるうちにどんどん変わっていくの。
にえ おっとっと、あとは言えないよね〜(笑) とにかく、読みはじめたら途中でやめずに最後まで読むべしっ。
すみ 次の和訳出版予定ももう決まっていて、そっちはかなりの長編でブッカー賞の最終候補にまでなった作品なんだとか。 これとはまた毛色のかなり違うものらしいので、先にこっちを読んで楽しみに待つべしっ(笑)