すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「黄金の魚(きんのさかな)」 ル・クレジオ (フランス)  <北冬舎 単行本> 【Amazon】
モロッコで、きびしくもやさしい老婆ラッラ・アスーマと暮らす少女ライラは、さらわれた子供だった。ライラがまだ6才か7才の頃、 大きな袋に投げこまれ、連れ去られて売られたのだ。買ってくれたのがラッラ・アスーマ。ライラにさらわれる前の記憶はない。ただ、三日月の形をした金のイヤリングだけが、 過去の形見だった。ラッラ・アスーマはライラの将来を考えて、フランス語やスペイン語の読み書き、それにさまざまな知識を教えてくれたが、ラッラ・アスーマは 亡くなってしまった。ここから、ライラの15年にわたる放浪の旅がはじまった。
にえ 私たちのとって、初めてのル・クレジオの小説です。ホントはもっと長い名前で、 ジャン・マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオというのだそうな。
すみ とにかく透明感のある翻訳文が美しくて、素敵な小説だったよね。
にえ 「少女の成長物語」なんて紹介文があって、なんだか読む前にためらってしまったけど、 読んだら、そういう話でもないかなって思った。
すみ 本編に入る前に、ナホワ族の言葉「おお、魚よ、ちっちゃな黄金(きん)の魚よ、気をつけな! この世には、おまえをねらって、投げ縄や編みが仕掛けられているから。」 が書かれているんだけど、まさにそういうお話よね。
にえ 独りの少女の流転、放浪の物語なんだけど、ほんとに様々な流れの渦巻く透明な世界を、一匹の小さな魚が、 時に流され、時に流れに逆らい、するりするりと擦り抜けてつかまらず、押し流されず、泳ぎ続けるようなお話だった。
すみ なんかもう、出会えたって感じの本だったな。こういう美しさって説明して伝わるものじゃないから、 困っちゃうんだけど。
にえ 話はモロッコから。ライラはさらわれて、買われた子供で、事故にあって片方の耳が聞えないの。
すみ でも、ラッラ・アスーマおばあちゃんのおかげで、穏やかな暮らしができ、フランス語やスペイン語の 読み書き、それに暗算やら幾何やらを教えてもらえてるのよね。
にえ そのぶん、ライラは家事をいろいろとやらなければならないけど、それもまた 強制というより、おばあちゃんのために進んでやってるって感じなの。
すみ でも、ライラが十代の半ばぐらいでおばあちゃんは亡くなってしまい、ライラは広い世界に放り出されることに。
にえ とはいっても孤独なさすらいではなくて、ライラには人を引き寄せて放さない、不思議な魅力があるみたいで、 次々にいろんな人の世話を受けることになるの。
すみ でも、その魅力は災いのもとでもあるのよね。ライラを好きになった人はみんな、 ライラを独占し、縛りつけたくなるみたい。
にえ ライラの放浪の旅は、最初は堕胎婦と娼婦たちの館で暮らし、それからアフリカのなか、出てからはヨーロッパ、アメリカと世界は広がっていくの。
すみ ライラには様々な才能のきらめきがあるのよね。いくつもの言語を使い分けられるし、本をたくさん読んで知識もあるし、 音楽の才能もあるし。
にえ でも、いろいろと障害があって、なかなか開花しづらい才能ばかりだったりもするんだけど。
すみ ライラが行く先々で詩集や小説などなど、いろんな本を読むんだけど、それもまた楽しかった。 自分の好きな小説の話題が出ると、嬉しくなっちゃうよね。
にえ 音楽のほうでも、いろんな歌手や歌の題名が出てきたでしょ。映画俳優の名前もいろいろ出てきたし。 そういうのも知ってると嬉しいよね。
すみ ライラは時に愛しあい、時に保護され、時に教育され、時に危険な目に遭い、短いながら幾つもの生活を積み重ねていくの。
にえ ライラはすぐに仲間に入れてもらえるけれど、自分を見失って相手に完全に会わせてしまうってことは絶対しないよね。
すみ うん、盗みをやったりとか、悪いこともするけど、気高さのようなものが常にあった。
にえ 貧しい暮らしのなかの、怠惰ともいえる生活もあったし、知的な会話のできる 清潔な暮らしもあった。でも、どんな暮らしのなかでもライラにはここから先には落ちていかないっていう線引きがあったし、傷のつかない強さと透明感のある 感性があって、それが読んでて心地よかった。
すみ 自分探しの放浪というより、最初からある自分を研ぎ澄ますための放浪のような気がしたな。それにしても、 この独特の美しさは説明できなくて悔しいっ。とにかく、とってもオススメです。