=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「われらが英雄スクラッフィ」 ポール・ギャリコ (アメリカ)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
第二次世界大戦中の英国領ジブラルタルには、奇妙な言い伝えがあった。「この地からサルがいなくなった とき、英国人もいなくなる」。その言い伝えのためなのか、ジブラルタルに駐在する英国軍には、サルの世話を担当する 専属のサル担当士官が任命されている。1939年にサル担当士官に任命されていたのはティモシー・ベイリー大尉。 もとから動物好きだったベイリーはいつしかサルを愛し、同じくサル好きの部下のラブジョイとともに、なんとかサルの待遇を 向上させようと画策していた。だが、サルの群のなかでもとびきりの悪、スクラッフィが次々に起こす騒動のため、 立場は悪くなっていくばかりだった。 | |
私たちにとって初のポール・ギャリコです。初なのに、なぜかネコではなく、 サルの話なんだけど(笑) | |
でも、実力のほどは充分にわかりましたって感じだよね。登場人物の個性や ストーリーの膨らませ方のうまいこと、うまいこと。 | |
そうだね、第二次世界大戦中のジブラルタルのサルの話がなんでこんなにおもしろいのよってぐらい、 いつのまにか話に惹きつけられてしまった。 | |
といっても、サルが主人公ってわけではないのよね。サルを取り巻く人々のお話。 | |
ポール・ギャリコといえば、ファンタジー物もあれば、ぐぐっとロマンティックな物もあり、 アクション物なんかもあるそうなんだけど、これは気軽に楽しく読めるユーモア小説ってことになるのかな。とにかく読めばハッピーな気持ちになれる、楽しいお話。 | |
大爆笑ってことはないけど、ニマニマと読めて、ホンワリやさしい気持ちになれるって感じだよね。 | |
まず、主人公的な存在が、サル担当士官のティモシー・ベイリー大尉。この人はサルの世話にいつのまにか 多大な情熱を注ぎこみ、上層部にはちょっと疎まれる存在。 | |
自分の指を噛んだサルを叱るどころか、ご褒美のごとく好物のピーナッツをあげちゃうような人なのよね。 躾しようなんて気はサラサラないの。 | |
それから後半にはちょっと主役っぽくなる、ベイリーの部下のラブジョイ。 この人はかなりの変わり者みたいよね。見るからにサルっぽくて、サルがものすごくよくなつくんだけど、人からは変な目で見られがち。 | |
この二人のために、サルの母子を守る檻を作れだの、防音壁を作れだの、 餌をもっと増やせだのと毎日のように大量の陳情書を受けとりつつ、悪サルのスクラッフィのための苦情の電話も処理しなくてはならない、 上官のガスケル准将は怒り心頭。 | |
で、とうとう記念式典のときにスクラッフィがとんでもない大騒ぎを引き起こし、 ベイリーはサル担当士官をクビになり、冷遇されることとなるのよね。 | |
じつはその事件の裏にはイギリス海軍工厰の技術者でありながら、ナチス・ドイツの スパイでもあるラミレスの存在が。 | |
ラミレスは自分のお気に入りのカツラをスクラッフィに奪われた恨みから、 復讐を企てていたのよね。 | |
ベイリーが担当を外され、今度はサルたちに危機が訪れるの。ジブラルタルでは 「この地からサルがいなくなったとき、英国人もいなくなる」という言い伝えがあり、迷信とはいえどっちの側につこうか迷っているスペイン人たちを 反イギリスに決意させるきっかけにもなりかねない。さあ、大変、というお話。 | |
そのお話のなかに、ベイリーと海軍の提督の令嬢フェリシティ、それからもうひとつのラブ・ロマンスがあったり、 謎の実力派、イギリス諜報部員クライド少佐なんて人も現れたりで、楽しくお話は進んでいくのよね。 | |
あら、スクラッフィにもラブ・ロマンスがあるでしょ。それを忘れちゃいけないわ。 | |
そうそう。あと、宴会好きのスペイン人の大富豪ブラスコ・イルンって 人も登場するんだけど、この人もまたなかなか楽しい人だった。 | |
ニヤッとしたり、ドキドキ、ハラハラしてるうちに、どんどん読んでいって、 いつのまにか読みおえちゃってたって感じだよね。 | |
なにが気に入ったって、サルはあくまでもサルってところが良かったな。 サルと人間がいつのまにか心を通じ合わせていく、なんてベタな良いお話ではないの。 | |
戦争という悲しい背景はあるけど、やさしい気持ちになれるお話だった。 肩が凝らない楽しいお話をってときには最適でしょ。 | |