=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ストーリーを続けよう」 ジョン・バース (アメリカ)
<みすず書房 単行本> 【Amazon】
おわり―一つのイントロ/無限に―ショート・ストーリー/それから、ある日…/嵐に備える/ ストーリーを続けよう/愛を説明する/アミアン・リシャール作「波」/僕たちの人生のストーリー/ 逗留を終わる/地の実りにさようなら/いつまでもずっと/カウントダウン―むかしむかし | |
私たちにとって初ジョン・バースの短編集です。 | |
ジョン・バースって、なんとなくそういう名前の作家がいるなあっていう程度で、 どんな小説を書いてるのか知ろうとしたこともなかったのよね。 | |
そうそう、全米図書賞のリストに「キマイラ」が入ってるけど、ちょっと昔の73年度だから、 そんなにすぐ読むつもりもなかったしねえ。 | |
それなのに、この本に飛びついたのは、宣伝文句に、トマス・ピンチョン、ドン・デリーロらと並ぶ、 現代アメリカ文学の巨匠だと書いてあったから。単純だ〜(笑) | |
えっ、そうなの? みんな知ってたの?!って感じよね。こういうこと書かれると焦るわねえ(笑) | |
読んでみて納得だよね。たしかにこの人は、ピンチョン、デリーロの仲間だわ。 知的で読みづらい独特のくどい文章とか、すきまなくキッチリつめこんだ蘊蓄とか、読者を驚かせることを目的にしたような凝った構成とか、 同じ系統に属するなって感じるところが多かった。 | |
ピンチョンに比べると、褒めればぐっと上品、貶せばスノッブな印象、デリーロよりは柔らかめで、 まだとっつきやすいってところかな。 | |
蘊蓄がこの本に関しては、理系の知識と文学に限られてたでしょ。大風呂敷ひろげてない分、 まだ油断すると振り落とされそうってな恐怖感を持たずに読めるかな。 | |
で、この短編集なんだけど、バラバラのお話のようで、じつはって構成。短編と短編のあいだには、 2、3ページの短い話、というか男女の会話が挿入されていて、この男女が誰なんだよ、なに話してるんだよって感じなんだけど、 最後のほうにはそういうことかと納得します。 | |
読んだ感想を流れにそって単純にいえば、最初のほうはおもしろくて、ぐいぐい惹き寄せられたんだけど、 中間の作品群でちょっとウンザリしはじめて、途中放棄を考えはじめ、最後の方になってきたら、おお、そういうことだったのかとまたおもしろくなったってところかな。 | |
う〜ん、やっぱり短編集では、好みの作家なのかそうじゃないのか、判断つきづらいものがあるよね。次は長編を読んでみましょ。 | |
日本に来たことがあるらしくて、チョコチョコ日本のことに触れてあったよね。北斎の絵とか、日本で食べた春雨らしき食べ物とか、 あれこれちょっとずつ出てきた。 | |
全体のことをいえば一組の男女の敬愛が大きな位置を占めているようで、 そういったところではまだ女性の読者がとっつきやすいかなとは思った。ただ、この男女ってのが会話のなかで自分たちのことを、彼女が ああした、彼がこうした、と三人称で話すから、読んでるうちに頭がこんがらがりそうになるんだけど(笑) | |
あとね、巻末に翻訳者さんの立派な解説がついてるんだけど、これは 小説よりも数段難しい内容になってて、私は最後まで読めなかった。ごめんなさい(笑) | |
<おわり―一つのイントロ>
さあ、皆さんお待ちかね、本日この新しい講演シリーズの発会式にお招きした「覆面ゲスト」はもうじき やってまいります。そう、あの有名な女流詩人です。例の詩集発表のため、政治的な危機に陥り、厳重な警備体制が敷かれているため、 少々到着が遅れております。その前に、この大学を去る、作家でもある私がしばしお話をいたしましょう。 | |
大学の後援会に招かれた女流詩人は、なんだかヤバイ内容のものを発表して、命を狙われているご様子。 もしかして、と思ったら、やっぱり訳者さんもサルマン・ラシュディがモデルじゃないかと書いてあった。 | |
この短編は最初から最後までが、大学を去ろうとしている作家でもある講師が、ゲストの来ないあいだの間を埋めるため、 聴衆に向かって熱弁を振るっているその語りです。 | |
<無限に―ショート・ストーリー>
彼はデイリリーの花壇で働いている。それは彼の仕事であり、息抜きの娯楽でもあった。澄んだ空気と太陽の光のなかで、 土をいじるのは彼の歓びだ。家で電話が鳴った。彼は出ようかどうしようかと迷ったが、2回鳴ったところで 止まった。家のアトリエにいる彼の妻が受話器をとったのだろう。 | |
電話はどうやら夫婦にとって、最悪に近い報せを告げたみたい。内容を知った妻が、夫に向かってゆっくりと 歩いていく、それだけを描写したストーリーなの。 | |
<おわり―一つのイントロ>も、<無限に―ショート・ストーリー>も、何かがはじまる前の、そのイントロだけを 取りあげた内容なのよね。この2つはおもしろかったな。 | |
<それから、ある日…>
エリザベスは作家だった。自分の職業的才覚でもあり趣味でもあるストーリー・テリングは、 父から受け継いだものだと思っている。父は話し上手で、生まれながらのストーリー・テラーだった。 | |
エリザベスは第一の指導者、それにつぐ第二の指導者のもとで、 才能を花開かせたみたい。この短編は、なんだかよくわからなかった。 | |
<嵐に備える>
ハリケーン「ダシカ」がやって来ている。私の上流側では、バウマン老は、いつも誰よりも先に繋船綱を二重にし、 窓を板で防ぎ、準備に怠りない。下流側のミズ・タイラーは、いつも最後に準備をする。私の小型船はいつも、 彼らの様子を窺いつつ準備が始められる。 | |
嵐が来る前のイントロダクションを描写したって感じの内容。私には、あんまりおもしろくなかったかな。 | |
<ストーリーを続けよう>
アリスはボストンからオレゴン州ポートランドに向かう年代物のDC−10に乗っている。機内雑誌をめくるうちに、 「静止画像」という題名の短編小説が載っていることに気づいた。なにげなく読みはじめたアリスは、隣の席の初老の男性も 同じ小説を読んでいることに気づいた。 | |
機内雑誌に載っていた短編小説を読んでいたアリスは、その小説の主人公が自分によく似ていることに気づき、 似た体験をしていることに気づくの。 | |
普通にお勤めをしているだけで、両親は4人も子供を育て、別荘まで持つほど豊かだったのに、 自分はなぜこんなに経済的に苦しいんだろうとか、自分が乗っている電車と平行して走っている電車を見ていると、止まっているような感覚にとらわれ、 一緒に止まった電車が先に走りだしたと思ったら、じつは自分の乗っているほうの電車が走りだしていたという錯覚にとらわれたことがあるとか、 読んでいるこっちも共感しきりだった。これはおもしろかった。 | |
<愛を説明する>
彼女は言う。「あたしに愛を説明して」。さて、どこから始めよう。ビッグ・バンからから話しはじめるか、 それともあの日、二人がブルーミングデール・デパートの家庭雑貨売り場で、偶然再会したところから始めようか。 | |
これはとても短い小説。偶然の再会で結婚に至った男女の会話。 | |
<アミアン・リシャール作「波」>
私たち、エイミーとリチャードは、アミアン・リシャールという筆名で小説を発表し、まずまず成功している。 目下のプロジェクトは、中古の二檣帆船で航海をしながら、「アミアン・リシャール」会社を再整理し、再容認することだった。 | |
共作をつくり、夫婦であるとともに仲間でもあった二人は、なんとなく危機にあるみたい。 あとでさっと流して読んだら、意外と単純で難しいストーリーではなかったんだけど、最初に読んでいる最中は、なんだかやたらと 頭が混乱してしまった。私は、彼女は、エイミーはって感じで同一人物をさす言葉がコロコロ変わり、そのつど人称まで変わっちゃうためかな。 | |
<僕たちの人生のストーリー>
ミズ・ミミ・アドラーは大学のストーリー作り過程では、なかなか優れた フィクション作家としての才能を見せる、まずまず優秀な学生だった。悪いところはなにもない。それは彼女についていえば、 特別に優れた、目を引くところもないということと等しかった。 | |
これは主人公がドンドン移り変わっていくの。「ダロウェイ夫人」を思い出した。「意識の流れ」を 狙った小説なのかな。 | |
<逗留を終わる>
私たちは逗留を終えようとしている。借りた部屋のバルコニーからの眺めは旅行ポスターにしたいぐらいだった。 朝食後のひと泳ぎ、美味しい昼食、小さなビーチ、そのすべてにアデュー。 | |
これは短め。リゾート地での逗留が終わったことを物悲しく語っているんだけど、 このあたりから、あれ、やっぱりそれぞれの短編は完全に独立してるわけじゃなくて、つながっているのね、と 意識しだした。 | |
<地の実りにさようなら>
死ぬにあたり、彼は別れの挨拶を許してもらいたい、と申しました。まず第一にリンゴ、オレンジ、 黒スモモ、ライム、パパイヤ・・・。 | |
死ぬことになって、おもにフルーツ、それからその他のものにお別れを言い続ける人。この人の モデルらしき作家のことは、あとでチラッと書かれています。 | |
<いつまでもずっと>
作家であるフランク、画家であるジョーンの夫妻は、二人で過ごした幸福な30年について考えた。 | |
ここからははっきりと、作家であるフランクと画家であるジョーンの夫妻のことがわかってきて、 この二人が全編を通しての主人公だったんだなとわかります。 | |
<カウントダウン―むかしむかし>
ホテルでシャワーを浴び、そろそろパーティにでかけるという頃になって、フランクは苦しみはじめた。 フランクはジョーンに、一人でパーティに行ってほしいと言う。 | |
上に同じ。なにやら物悲しい愛の雰囲気が漂ってた理由も、はっきりしてきます。それにしても、 自分のことを自分じゃないみたいに話したりして、不思議な夫婦だなあ。 | |