=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「コレクター蒐集」 ティボール・フィッシャー (イギリス)
<東京創元社 単行本> 【Amazon】
大金持ちの蒐集家マリウスは、6500年以上前のメソポタミアで流行った、サソリの模様を これ見よがしにまとったサマッラ文化の薄い陶器の碗を手に入れた。マリウスは競売人ヘレンを通し、 骨董品鑑定人ローザに鑑定を依頼した。ローザはまだ26才の女性で、鑑定人として認められるには年齢も 性別も不利だったが、心で骨董品の歴史が読める、本物の力を持っていた。鑑定結果を求められ、 「あの碗は嘘をついているような気がするんです」とローザは言った。 | |
イギリスの若手作家として期待の高い、ティボール・フィッシャーの 初翻訳本です。 | |
きつめのユーモア小説を書く作家さんみたいね。3作目にあたる、 この作品もそうだったけど。 | |
タイトルからしてジョークがきいてるよね。コレクターでも、蒐集家でもなく、 コレクターを蒐集するからコレクター蒐集。原題をカタカナ読みすれば、ザ・コレクター・コレクター。 | |
語り手は人間ではなく、碗なのよね。この碗が、コレクターのコレクターってわけ。 はっきりどういう存在なのかは書かれてないんだけど、長い長い歳月を、形を変えて過ごしてきたみたい。 | |
牛の形の瓶だった頃の話とか、ゴルゴンの頭が描かれた華麗な両取っ手つきのアンフォラだったときの話とか、 青い犀の焼物だったときの話とか、思い出がいっぱい語られてたよね。 | |
自分で自分の姿を変え、割れれば再生することもできるみたい。 | |
で、今はサソリの描かれた碗で、骨董鑑定人ローザの手元にあるの。 | |
おもな話は、ローザとニキと、後半になって加わるレタスっていう3人の女性の恋愛談義、 それに語り手であるこの不思議な碗の思い出話なのよね。 | |
ローザは26才で、知性もあり、美しく、性格も悪くないはずなのに、 なぜか男性とぜんぜんつきあえないことを悩んでいる女性。ニキは、嘘つきで、麻薬中毒で、こそ泥の売春婦。手当たり次第に男とやっちゃう女。 で、レタスは最低の男ばかり、わざと選んでつきあっているような女性。 | |
話の大半はセックス経験、というかかなり毒々しくも淡々としたシモのお話だったよね。 | |
ケツに何とかを入れたとか、尿道に金属線とか、笑おうにも顔がひきつりそうなお話満載だった。 | |
3人の関係は、ローザの部屋に、ニキが嘘をついて転がりこんできて、 部屋の中のものを盗みながら売春もやって、それでもとりあえずルームメイトとして居座っちゃう。で、レタスは ローザの昔からの友人で、とにかくローザのところに来て愚痴を言いまくり、なおかつローザの部屋にある食べ物を片っ端から食べまくるのを 日課のようにしている、とそういう関係みたい。 | |
ローザだけはまともかというと、じつは自分専属で恋の行方を占わせようとして、占い師を井戸に閉じこめてたりして、 けっきょく、みんなかなりおかしな人たちなのよね。 | |
で、碗はローザが気に入って、ローザの過去を引っぱりだしてコレクションに加えつつ、自分の思い出話で ローザを慰め、励ますの。 | |
狂った詩人を集めるのが趣味だった女性の話とか、自分の絵を貶す奴らを殺していく画家の話とか、 まあ、こっちの話もかなり異常だったよね。 | |
おまけにこの碗は、数をかぞえるのがとにかく好きみたいで、こいつは自分が知っている俗物大王114162人中のランキング 105番だとか、この溜息は16番めのタイプだとか、そんなことばっかり言ってるのよね。 | |
あと、イヤリングが暗示するものに大変な興味と蘊蓄があるみたい。彼女がつけているのは誰も知り合いのいないパーティに一人で行くこを示すイヤリングだとか、 難破船の水夫がくじを細工することを暗示するイヤリングだとか、やたらとのたまうの。 | |
繰り返しジョークは随所にあったよね。かちかちになったイグアナとか、 開かないビートの根のピクルスの瓶とか、全編を通して何度も何度も出てきた。 | |
ストーリーらしいストーリーもなくて、ローザは会う男、会う男、うまくいかないことの繰り返しだし、 ニキは昔の腐れ縁の男や女が現れたり、殺されそうになったりと大忙しだけど、べつにそれらがつながって最後にはひとつの結論に、なんてこともなくて、 やっぱり繰り返し。 | |
碗の思い出話はけっこうおもしろかったよね。変わり者たちの壮大な歴史になってた。 よくまあ、こんなにいろいろ思いつくものだと感心したよ。出来の良し悪しにはかなりバラつきがあったけど。 | |
正直なところ、これほどシモネタ、というよりアナネタのオンパレードだとは思ってなかったから、驚いたよ。 おもしろいと思う部分も多々あったけど、全体を通すと、まあ、読み疲れのする小説だったかな。柔らかみのないギスギスとした流れのなかで、 どぎついエピソードばかりが息つくまもなくドンドン襲いかかってきて。 | |
う〜ん、そうだねえ。ほっとするラストで騙されそうになったけど(笑)、私もそれほどおもしろいとは思わなかったかな。こういう内容の小説は好みが分かれるよね。 私たちは、ちょっとウンザリってことで。 | |