=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「風の裏側 ヘーローとレアンドロスの物語」 ミロラド・パヴィチ (ユーゴスラヴィア)
<東京創元社 単行本> 【Amazon】 ヘレニズム時代(5〜6世紀)の文法家ムサイオスが作ったといわれる恋愛叙情詩「ヘーローとレアンドロス」では、アジア側に住む 男レアンドロスが、ヘレスポントス海峡を隔てたセストスという町のアプロディテ祭祀の巫女ヘーローと許されぬ恋に落ちる。ヘーローの 掲げる炬火の明かりを頼りに、レアンドロスは夜ごと海峡を泳ぎ渡り、忍び逢いは続く。ところがある冬の嵐の夜、 炬火の明かりが風に吹き消されてしまった。方向を見失ったレアンドロスは溺れ死ぬ。翌朝、浜に打ち上げられたレアンドロスの亡骸を 目にしたヘーローは、悲しみのあまり塔から身を投げ、自殺する。この話をもとにした、20世紀の化学専攻の女子大生ヘーローと、17世紀の 青年レアンドロスの物語。 | |
私たちにとっては、「ハザール事典」に続いて、2作めのミロラド・パヴィチ本です。 今のところパヴィチの翻訳本はこの2作しかないみたいだけど。 | |
「ハザール事典」はたった17行しか内容の違わない「男性版」と「女性版」の2冊があるという 風変わりさだったけど、この本も変わってるのよね。 | |
表紙が2つで、裏表紙なし。上下が逆になった表紙が両方についてるの。で、 なかのページも半々で上下逆になってて、真ん中に青い紙。どちらから読んでも普通に読めるってわけ。 | |
私はこの本を手にとって、まず思ったのは「やっぱり紐しおりはついてないのね」だった(笑) | |
で、それぞれ関連性はあっても順序はなく、それぞれ独立したお話で、どっちから読んでもいいっていう仕組み。 | |
片方は、20世紀を生きる女子学生ヘーローのお話。もうひとつは、17世紀を生きる青年レアンドロスのお話。 | |
1.5回読みがオススメみたいね。ヘーローから読んだら、次にレアンドロスを読んで、もう一度ヘーローを読む。 レアンドロスから読んだら、ヘーローを読んで、それからもう一度レアンドロスを読む。そうすると、二つの話の関連性がクッキリ見えてくるの。 | |
どっちもちょっと変わった話だったよね。ヘーローのほうは、まず、ヘーローの性格が変わってて、おやって感じだった。 | |
家庭教師先の子供に、お父さんやお母さんみたいになりたくなかったら勉強しなさい、なんて平気で言うのよね。 | |
家庭教師先がまた変わってるんだけどね。二人の子供にフランス語を教えてほしいって話だったんだけど、 行ってみると男の子が一人いるだけ。でも、母親はもう一人女の子がいると言い張って、その子の分まで月謝を払ってくれるの。 | |
音楽家であるヘーローのお兄さんもまた、変わった人だよね。なんだか天賦の才に恵まれすぎたような人なんだけど、 友だちに「ねえ、偶数って怖くない?」なんていきなり言ってみたりするところがあって。 | |
ヘーローが家庭教師先で「ヘーローとレアンドロス」を教材に使ったり、 お兄さんとヘーローが見に行こうとしたお芝居が「ヘーローとレアンドロス」だったりしたよね。 | |
もちろん、あとでつながりがわかってくる暗示的な記述もたくさんあった。 | |
で、レアンドロスのほうのお話は、17世紀で、場所はどっちも同じベオグラードから始まるのよね。 | |
レアンドロスの家は、先祖代々、家造りの石工だったみたいなんだけど、なぜかレアンドロスのお父さんは 石工じゃなくて、なんの仕事をやっているのか家族も知らないみたいなの。 | |
レアンドロスの生き方は、生き急いじゃってるって感じ。自分の体内リズムが他の人より早いと気づいた レアンドロスは、その後の人生も駆け足に突き進んでいくの。 | |
最初は石工としての技術を学び、それから字を学ぼうとするけど、サントゥールという 楽器の奏者として旅をすることになり、そのたびの最中に商人に転身し、それからまた・・・と激動の生涯よね。 | |
幾度となく変わる人生で、大人になってから先生についてラテン語の勉強をするとき、 「ヘーローとレアンドロス」が出てきます。 | |
20世紀のヘーローも、17世紀のレアンドロスも、前世から決まっていた運命に導かれたかのような 生き様、というか、死に様をすることに。 | |
でも、いくら生きた時代が違っても、恋愛叙情詩がインスピレーションのもとになってるんだから、 もうちょっとロマンティックな恋愛感情が書かれてると思ったんだけど、それは違ってたね。 | |
なぜここまで宿命に支配されなければならないのか、なんてことも思いつつ読みおえて、 う〜ん、この小説は好きなのか嫌いなのか、良かったのかピンと来なかったのか、自分でもよくわからない。 | |
わからないけど、あと引くでしょ? とにかく変わってるんだけど、かすれたような、乾いたような感触もあって、 不思議な余韻がいつまでも続く小説でした。 | |
「風の裏側」ミロラド・パヴィチ/青木純子訳 本文より抜粋
風には表と裏があってな、雨の中を吹きぬけても風には乾いたままの部分がある。 それを風の裏側という。 | |