すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「穴」  ルイス・サッカー  (アメリカ)     <講談社 文庫本> 【Amazon】
前から読んでも後ろから読んでも同じ名前のスタンリー・イェルナッツ(Stanley Yelnats)は、太っちょのいじめられっ子で、 なにをやってもついていない。「あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさん」がジプシーの老婆に呪われたため、イェルナッツ一家は 代々ついていないのだ。スタンリーはとうとう、盗んでもいない靴のために逮捕されてしまった。有罪判決を受けたスタンリーは、 刑務所に行くか、グリーン・レイク・キャンプ少年院に行くかと訊かれ、キャンプを選んだ。そこはグリーン・レイクといっても水のない枯れた湖で、 少年たちは毎日ひとつずつ、大きな穴を掘らされていた。なんのために?
1998年度全米図書賞(児童文学部門)、1999年度ニューベリー賞ほか多数受賞。
にえ これは私たちが前にロイス・ローリーの「ザ・ギバー」を読んだことがある、 中学生からの翻訳シリーズの1冊です。
すみ アメリカでは今年の春に映画化されてます。調べてみたら、興行成績もなかなかいいみたい。 女所長役のシガニー・ウィーバーがなかなかいいらしいんだけど、日本では観られないのかな?
にえ 大人が読んでも充分おもしろいお話だったよね。まあ、ちょっと子供だましなところもあるけど、 それもご愛敬ってことで(笑)
すみ 現在の話と、過去のだんだんとつながっていく幾つかの話がからみあい、予想外の展開に持っていくのよね。 ホントに良くできてて、おもしろかった。
にえ うん、複雑だけどわかりやすくて、うまくつながっていく話の展開はホントに上質。 大人向けの小説の中に混ぜても上中下のなかでは、上の上に入るでしょ。
すみ まず、現在の話なんだけど、スタンリーは、運は悪いけど、やさしいお父さんとお母さんに育てられ、 わりとノンビリした、気のいい子なのよね。
にえ やってもいない罪を着せられ、少年院に行かされることになるんだけど、 ひいひいおじいちゃんのせいで一家は運が悪いから、これもそのためだ、なんて、しょうがないかって感じで軽くあきらめちゃってるの。
にえ お父さんは発明家で、スニーカーの再利用を研究してるんだけど、やっぱり失敗ばっかりで、まあいいやと へこたれない人なのよね。
すみ お母さんもノンビリしてるしねえ。子供が無実の罪で少年院にいかされるっていうのに、 なんとなく、キャンプに送り出すような呑気さがあって。
すみ グリーン・レイク・キャンプ少年院は、百年以上前に枯れちゃった湖にあって、 なぜか収容された少年たちは、1.5メートル四方の穴を掘ることを日課としているのよね。
にえ 朝4時半に起きて、ひたすら穴を掘る。ただし、なにか珍しい物を掘りあてたら、その日は もう掘らなくていいらしいんだけど。
すみ スタンリーは最初のうち、ひと癖もふた癖もある少年たちとすぐに仲良くなって、作業はきついけど、 まあ、そんなに悪くないかと思いはじめるのよね。
にえ でも、だんだんとおかしいなと思いはじめるの。やっぱり収容されてる少年たちには、ちょっとずつネジれた ところがあるし、担当のカウンセラーは少年たちを更正させようとしている口ぶりだけど、そのわりには意味もなく嫌いな少年に辛く当たってたりして。
すみ 会わずにすませたかった所長と会ってみると、偏執狂の独裁者って感じで、 かなり言動がおかしいしね。
にえ だいたい、なんで毎日、枯れた湖の地を掘り続けるのかってことよ。
すみ で、過去のほうの話なんだけど、まずはイェルナッツ一家の歴史。 アメリカに渡ってきたイエルナッツ一族の一代目、エリャはどうしてジプシー老婆に呪われてるのか、 どうしてアメリカに渡ってきたのか。
にえ それから、大金持ちになったのに、カリフォルニアに行く途中で盗賊に襲われ、 一文無しになった二代目は、どうやって生き延びることができたのか、などなど。
すみ 一家には不思議な歌が伝えられているのよね。それもまた、お話にからんでくるんだけど。
にえ で、110年前、グリーン・レイクがまだ水をタップリたたえた湖だった頃のお話。
すみ やさしくて、教育熱心な美人教師と、タマネギ売りの黒人の、悲しい恋の物語なのよね。 これまた意外な展開が待ってます。
にえ そういうお話がいろいろとからまって、いつのまにかドンドンつながっていって、最後には予期せぬ結果が待ち受けているの。 とくにラストは、「え?」となってから、「ああ、そういうことか!」って驚いた。変に種明かししてないところがまたうまいのよ〜。
すみ ここまでうまくまとめるとは、一流のストーリーテラーだよね。大人が読んでも気を抜けないっ。