=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「侍女 エリザベス・B・ブラウニングに仕えた女性」 マーガレット・フォースター (イギリス)
<彩流社 単行本> 【Amazon】 1844年、23才になったグレアムクラーク家の女中エリザベス・ウィルソンは、ウィンポール家に移り、お嬢様つきの女中、レディズ・メイドとして勤めることになった。 お嬢様はとても病弱で、名前は偶然にも同じエリザベス。エリザベス・ウィンポール、のちにエリザベス・バレット・ブラウニングとなる、 ヴィクトリア朝を代表する女流詩人だった。 | |
ヴィクトリア朝の有名女流詩人エリザベス・B・ブラウニングに仕えた 侍女が主人公の小説です。 | |
かなり史実に忠実に書いているみたいなんだけど、あくまでも伝記ではなく 創作小説で、一人の女性の生涯の物語となっていたよね。 | |
マーガレット・フォースターはこれを書く前に、エリザベス・B・ブラウニングの 伝記を書いているそうで、そこから派生してこの小説ができたみたい。 | |
この小説では、あくまでも侍女ウィルソンに焦点が合わされてて、ぶれることがないよね。 前にブラウニングの伝記を書いていなかったら、もっとブラウニングの作品とか、その周囲の人たちとか、いろんな ことに触れたくなって焦点がぼやけてしまってたかも。 | |
うん、ブラウニングの詩集「オーローラ・リー」についてとか、様々な作家、詩人などとの交友についても、 チラッチラッとは触れられてたけど、そっちは深追いされてなかったよね。ウィルソンに関わることだけを最小限に触れるにとどめてるって感じだった。 | |
これは一人の女性に自分の半生を捧げてしまった女性の物語。とくに女主人に対する複雑な心情が、 きめ細やかに書かれてて、とにかくもうその細やかさは圧巻。 | |
23才のウィルソンは、かなり控えめで真面目が取り柄の女性なのよね。本人はあまり変化を望まないタイプ。 | |
13才から働きはじめ、皿洗い女中、客間女中、それからイギリスの地方の名家ウィンポール家で奥様つきの女中となり、 けっこうそれで満足していたのよね。 | |
女中としてはなかなか順調な出世っぷりみたいだしね。一番下の皿洗い女中の時には エリザベスと名前で呼ばれてたのが、出世してウィルソンと苗字で呼ばれるようになって、自分に自信も出てきはじめてたところ。 | |
ウィンポール家に移らないかと誘われたとき、熱心に勧めたのはお母さんなのよね。 | |
お母さんはせっかく読み書きができるのに、17才で結婚して、25才になったときには4人の娘を抱えた後家となっていて、 洗濯、掃除、縫い物だけで半生を費やし、田舎で貧しく沈んでしまってる女性なの。 | |
ウィルソンは長女で、次女のエレンは真面目さに欠け、三女のメイは極度の引っ込み思案、 四女のファニーはどこか足りないところがあって、と妹たちはエリザベスにとってつねに心配のもと。 | |
お母さんには楽をさせてあげたいし、妹たちは心配だし、ウィルソンはあんまり家から離れたくなかったのよね。 ロンドンなんて都会すぎて、自分には合わないと思ってたし。 | |
で、結局は行くことになったウィンポール家で仕えるのが、すでにこの頃には詩集も発表してた、 独身の頃のエリザベス・B・ブラウニング。お嬢様といっても、四十才手前。 | |
お嬢様つきの女中となったウィルソンは、給金もお嬢様から払われるのよね。 | |
エリザベスお嬢様は病弱で、ほとんどベッドに寝たっきり。折れるほどに細くて、 ちょっと感情を乱しただけで熱を出して寝込むようなデリケートさ。 | |
大きな黒い目で見つめられると、同じ女性でも、守ってあげたいと思ってしまうのよね。 | |
しかも、話しだせば意外と辛辣で、女中に対しても同等に扱って、積極的に意見を訊いてきて、 親友とまで呼ぶから魅力的な人。 | |
でも、ウィルソンの前の女中にも同じような態度で接していたのに、 結婚してやめたとたんに、あの娘は今は不幸なのよ、なんて決めつけて会おうともしなかったり、自分は高い買い物をするのに ウィルソンの給金はまったく上げてくれなかったりもするのよね。 | |
でもでも、ウィルソンが病気になったりすれば、自分の健康も顧みずに世話を焼いたり、 真剣に悩みを聞いてくれたりもするの。 | |
煩わしくなって、聞こうともしないときもあるんだけど。 | |
とにかく複雑で、支配的な女性なの。尊敬に値する女性でもあり、 守ってあげたい女性でもあり、愛情を独り占めにしたい独裁者みたいなところもあり。 | |
ウィルソン自身にも、素敵な男性とのロマンスがあったり、家庭の事情があったりで、 何度も離れようとするんだけど、どうにもこうにも離れられないのよね。これは焦れったいけど、わかるっ。 | |
エリザベス・B・ブラウニングは年下の、同じ詩人のロバート・ブラウニングと駆け落ちをして、 イギリス、フランス、イタリアと3か国を激しく移動して、ウィルソンもまた行動をともにすることに。 | |
ここまで一人の女性に尽くすことが、幸せなのか、不幸なのか。 読み終わったあとにはズ〜ンと来るものがありました。 | |
とにかくウィルソンとエリザベス・B・ブラウニングとの心の駆け引きというか、内面の葛藤ならぬ格闘というか、 そのへんがネッチリ、ミッチリ凄くって、読みだしたら止まりませんでした。好きそうな人限定だけど、オススメ! | |