すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「カーソン・マッカラーズ短編集 〜少年少女たちの心の世界〜」 (アメリカ)  <近代文藝社 単行本> 【Amazon】
ティーンエイジャーの少年少女を主人公とした9つの短編です。
『お人好し』僕のことを信奉していた4歳年下の従弟サッカーとの関係は、たった一言で壊れた。
『西八十丁目の中庭』大学に入り、中庭のあるアパートで一人暮らしをはじめた私は、話をしたこともない向かいの部屋に住む赤毛の男性を特別な人だと信じていた。
『ポールディ』ハンスはポールディが好きだったけど、ポールディの心はいつも他に向いていた。
『空より息吹来たりて』病気のコンスタンスは治療のためにもうじき遠くに行く。健康な妹や弟は海水浴を楽しんでいるのに。
『孤児院』子供の頃、友達だったティットに、私は気味の悪いガラスビンを見せられた。
『あんなのはいや』五歳上の姉シスの恋愛を見たあたしは、あんな恋愛だけはしたくないと思った
『見知らぬ町』三年ぶりで家に帰るアンドルーは、見知らぬ町で子供の頃を思い出していた。妹と作ったグライダー、やさしい黒人の家政婦、尊敬していた背の低いユダヤ人の男。
『文通』アメリカの少女は見知らぬブラジルの少年と文通をはじめようとしていたが。
『とりつかれた少年』ある日、二歳年上の親友ジャックと家に帰ったヒューは、ノイローゼのために自殺しようとしたことのある母の不在に不安になった。
にえ では、最初っからいきましょうか。まず、『お人好し』ですね。
すみ 自分のことを崇拝している少年がいて、自分は女の子に夢中で、だけど少年が崇拝してくれなくなってみたら、って話よね。
にえ 子供の頃ってたしかに、年上の同性に憧れまくっちゃう時期って あるよね。憧れられてる方はちょっとうざったい、でも、尊敬の眼差しがなくなると寂しい。
すみ ちょこっと同性愛の匂いもするようなしないような、雰囲気のある話だったよね。
にえ 『西八十丁目の中庭』はかなりイビツな話よね。ぜんぜん話したことのない人を、 こう思ってるに違いないって決めつけて、神聖化してる。
すみ 一人で悶々としてるより、逆に孤独がくっきり表現できてると思ったけど。
にえ 『ポールディ』はポールディがかなりのバカ女なの。振り回されるハンスが惨め。
すみ 会話の妙を楽しめるよね。で、不毛な会話を積み重ねておいて、 最後の六行でシビレさす。これはやられたな。
にえ 『空より息吹来たりて』は、病んだコンスタンスと健康な妹ミックの対比がオミゴト。
すみ 健康な子供は病気の人に無頓着なのよね。残酷だけど、無垢なの。 そういう怖さがあったね。
にえ 『孤児院』は知ったかぶりして妊娠ってどうなるか知ってる?とか言う、 どこかにいたような子供の話。
すみ かならず家にある変な物とか見せたがるのよね(笑)。子供の頭のなかの、 想像と現実の折り合いがみごとに表現されてたんじゃないかな。
にえ 『あんなのはいや』は、男に振り回される姉に失望し、自分はあんなふうにはならないぞと決意する少女の話。
すみ 男に夢中になる姉が妹としては淋しいのよね。でも、どうなるのかな。他人の恋愛は 客観的に見れるけど、自分のこととなると別だからね。
にえ 『見知らぬ町』、これは圧巻。前に読んだ『夏の黄昏(結婚式のメンバー)』とかなり似てる 部分が多かったけど、これは少年の眼を通した話。
すみ うん、時計屋のお父さんとか、やさしい黒人の家政婦さんとか、登場人物も近かったよね。 あと、少年が出ていくきっかけとなった出来事はわずか一行の半分で書かれてるの。この省略はすごい。
にえ 大事なのは、そうなってしまうまでの状況と、その後の関係なのよね。 その出来事じたいはあったかなかったかだけわかればいい。だから簡単に書いて済ませてしまう、こういう無駄のなさって読んでて快感だな。
すみ 『文通』はアメリカの少女の手紙だけが載ってるわけだけど、それを 受けとったブラジルの少年の表情が見えてくるようで、これはちょっと可笑しかったな。
にえ 若いっていうのは我儘というか、自分中心というか、今思い出すと赤面ものだね。そういうのを 書かせると上手いんだなあ、この人は。
すみ で、ラストが『とりつかれた少年』。これはもうマッカラーズの世界って感じでしょう。 少年の孤独とか、不安とか、親子のせつない関係とか、緊張感を保ったまま書かれてて。
にえ と、ここまで一気に並べましたが、私の全体としての感想は、 『空より息吹来たりて』あたりまではなんだかわからないまま読み進んで、『孤児院』からから方向性が 見えてきて、そこからは夢中になって読んだ。
すみ 『見知らぬ町』と『とりつかれた少年』は特にすばらしかったよね。 この感じはマッカラーズじゃないと味わえない。
にえ さりげない描写に胸を突かれる。やっぱりいいわ、マッカラーズ(笑)