すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「太陽をみつめて」 ジュリアン・バーンズ (イギリス)  <白水社 単行本> 【Amazon】
イギリスのこれといって特徴のない田舎に住む娘、ジーン・サージャント。ジーンは答えのでない、たくさんの疑問を抱え持っていた。 ジーンが子供の頃から大好きなのはレズリーおじさん。レズリーおじさんはいつもジーンをゴルフに連れていってくれた。 ジーンが17才になった年に、第二次世界大戦が始まった。レズリーおじさんはうまいことアメリカに渡っていて、徴兵を逃れた。 ジーンの家では、両親とジーンだけでも充分狭い家なのに、空軍の兵士を下宿させなくてはならなくなった。やって来たのは トミー・プロッサー軍曹。プロッサーは、ドーヴァー海峡上空飛行中に太陽が2度昇るのを見たという。
にえ 私たちにとって2冊めのジュリアン・バーンズ本は、第二次世界大戦前から 近未来までにわたる、一人の女性の生涯をつづったお話。
すみ 特別になにをした人ってわけじゃないのよね。人生での最大イベントはおそらく、 当時としては高齢出産にあたる38才で妊娠、出産したことと、その時に20年の結婚生活を捨て、生まれた息子を一人で育てたこと。
にえ とても不思議な余韻の残る小説だったよね。読んでいるあいだ、やたらと生と死につい て問いかけられている感じだったし。
すみ 題名の「太陽をみつめて」っていうのは、やっぱりプロッサー軍曹の逸話とあわせて、 太陽のように強烈すぎてなかなか直視できない生と死というものを、まっすぐに見つめるってことを象徴してるのかな。
にえ ジーンは子供の頃から抱えこんでいる疑問があるの。サンドイッチ博物館は本当にあるのか、 ユダヤ人はゴルフが嫌いなのか、なぜミンクは並はずれて生命力が強いのか、そういうちょっと不思議な疑問なんだけど。
すみ 多くの発生元は、レズリーおじさんがする変な話なのよね。
にえ レズリーおじさんは何というか、典型的な真面目に生きられない人なんだよね。 子供のジーンを相手にくだらない騙しをやったり、好き勝手なルールを作ったり、本当か嘘かわからないような話をしてみたり。
すみ そうそう、ジーンが自分のせいで病気になったかなと思ったら、まず第一に、そのことを両親に 告げ口しなかったかをジーンにたしかめるような人なのよね。
にえ でも、ジーンはレズリーおじさんが大好きなの、それはよくわかるな。 とにかく、他の大人よりおもしろいし、刺激的なんだもん。
すみ 予想通りパッとしないし、ろくなものでもない人生しか歩まないレズリーおじさんは、なんのために生きて るんだろうと言いたくなる典型的な人物だよね。
にえ なんのために生きてたんだろうと考えさせられる男性の登場人物がもう一人。 第二次世界大戦中、ジーンの家に下宿していたプロッサー軍曹。
すみ プロッサーは戦闘機に乗るうちに臆病風に吹かれ、降ろされてしまった人なのよね。 レズリーおじさんと違って、なにかを求めて生きてたように思うんだけど、それを探り出すのはとても難しいな。
にえ プロッサーは戦闘機に乗っていたとき、18000フィートの高度のところにいて日の出を見て、 そのあとすぐに8000フィートの高度まで降りたから、もう一度、日の出を見ることになったことがあるの。
すみ その逸話は、ジーンの胸に深く刻みこまれることになるのよね。
にえ で、プロッサーが下宿していた頃、ジーンはマイケルという堅実なタイプの 警察官とつきあいはじめて、そのまま結婚へ。
すみ だんだん優しくもなくなった、でも、暴力とか振るうわけでもないマイケルとの結婚生活は 20年続くの。
にえ 村には、そういう一緒にいてつまらない夫のことを笑い話にしながらあきらめて、 淡々と暮らしている主婦がたくさんいるのよね。でも、ジーンは20年で終止符を打つの。
すみ それからは、ウェイトレスをやりながら子供を育てるんだけど、 これまた特別に苦労話ってこともなく、ジーンの人生は続いていくのよね。ちょっとした刺激はあるにせよ。
にえ 息子のグレゴリーがまた、平凡に生きるために生まれてきたような子供だしね。 そのあいだも、ジーンの頭には様々な疑問が渦巻いているのだけど。
すみ 残り100ページを切った第三部で、急に近未来SF&哲学みたいな 話になって驚いたけど、結局、言いたかったことはここに集約されているのかな。
にえ 60才になったグレゴリーが、生と死について深く悩み、コンピュータ相手に質問を延々繰り返すのよね。 それにしても、ラストは美しかった〜。
すみ 第三部の最初の方を除いては、別に難しいところもないんだけど、とにかく問いかけてくるのが、 愛とか、性とか、生とか、死とか、こちらでもまったく答えの用意できないものばかりだから、なんだかとても難しいようにも感じてしまった。
にえ 質問じたいがとてもストレートだったしね。答えがないってわかってるのに、問いかけ続けてしまうことそのものが人生なのかしら、 なんて考えてもみたりして。
すみ そうね、いくら先の世になっても、人はその問いをしつづけるんだろうな、なんて読みおえてから思うのでした。