=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ハザール事典」 女性版&男性版 ミロラド・パヴィチ (ユーゴスラヴィア)
<東京創元社 単行本> 【Amazon】 <女性版> <男性版> かつてハザールという国があった。黒海とカスピ海に挟まれた地域に強大な王国を築き、2世紀末から11世紀にかけて 存在した。独特の文化を形成していたこの王国は滅びるとともにその歴史まで失ってしまった。1691年、その謎の王国を解く 鍵として、「ハザール事典」が出版された。「赤」「緑」「黄」の3書から成り、それぞれが異なる言語で書かれていた。 そして現代となり、ようやく本書「ハザール事典」第二版が刊行されることとなった。言語を統一し、3冊の本をまとめて1冊とし、 付記をつけたこの本によって、ハザールの謎は読み解かれることとなる。 | |
私たちにとって初のミロラド・パヴィチ本は、[男性版]と[女性版]の2冊があって、事典のような形式だけど、空想たっぷりの小説という、 とっても変わった本でした。 | |
[男性版]と[女性版]はたった17行違うだけなのよね。で、私が[女性版]を、にえが [男性版]を読みました。 | |
読み終わったあとでその17行を読み比べてみたんだけど、そこだけでガラリと印象が変わったりするの?と 思ったら、そういうわけではないのよね。ただ、読み合わせると、転生の流れがよりわかるんだけど。 | |
それはまあ、置いといて(笑) まずは、ハザール王国について。この国って架空の国なのか本当にあった国なのか、 私たちにはそこからわからなかったから、さっそくネットで検索して調べてみたの。 | |
出るわ、出るわ(笑) 国としては珍しく改宗していること、ユダヤ人の国ではないのにユダヤ教国であったこと、11世紀まであった国にも関わらず、 わからないことが多すぎるのが特徴みたい。 | |
キリスト教のビザンチン帝国、イスラム教のイスラム帝国に挟まれて、 どっちかを選ぶと他方を敵にまわすことになるため、あえてユダヤ教を選んだってのが通説みたいだね。 | |
でも、この本によると、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、それぞれの代表者たる賢者たちが、ハザール王国の王カガン、 王女のアテーを前にして、今でいえばプレゼンテーションみたいなことをして、それでユダヤ教に決まったってことになってるんだけど。 | |
その熱き集いについては、<ハザール論争>と呼ばれているのよね。 | |
で、その<ハザール論争>で、一番賢く、一同の目を瞠るような発言をつづけたのが、 皇女アテー。 | |
アテーのたとえ話は、だからなんなのよ?って感じで、私には理解不能なものが多かったんだけど。 深すぎるわっ(笑) | |
そんでもって、<ハザール論争>後、いろいろあって王女アテーは不死の身となり、運命の男性に出会い・・・となっていくんだけど。 | |
それからずっとずっとのちの世では、マスーディという男がいて、 他人の夢から夢へと旅をして、狩りをするようにある者を探し続ける<夢の狩人>だったの。 | |
それからまた時は流れ、「ハザール事典」初版本出版に携わることになる男たちがいて、そのまた 後世には、ハザールについて研究している女性大学教授がいて、となってくるのよね。 | |
読み進めると、すべての登場人物はやがて転生によって繋がれる幾本もの意図であることがわかってくるの。 それぞれ運命の相手がいたりして。 | |
それが縦糸だとすると、「赤」「緑」「黄」の3書は横糸で、その縦糸と横糸によって、 壮大なハザールというタピストリーが完成されるのよね。 | |
そうそう、「赤色の書」では、キリスト教側から見た時の流れが、「緑色の書」では イスラム教側から見た時の流れが、「黄色の書」ではユダヤ教側から見た時の流れが読めるようになっていて、3つを読むことは、 同じ流れを3回なぞることになるんだけど、なぞるものは同じでも、わかることはそれぞれ違ってて、3つがあわさって、はじめて全貌が見えてくるという趣向。 | |
それにしても濃かったよね。比喩さえ濃すぎるって感じで(笑) | |
事典形式で各項目には、私たちでは嘘か誠か判断できないような言語や生活習慣、民話伝承などの綿密な記述があったり、 人物の紹介があったり。で、項によってはお話が始まり、そのお話の登場人物が、また新たな話を語りはじめたりもするの。 | |
最初のうちは、単なる空想事典みたいなものかと思ったよね。おもしろいけど、 これは最後まで読むのは辛そうだな〜なんて思ってたら、いつのまにやら物語の流れがつかめてきて、俄然おもしろくなっていった。 | |
ただ、事典形式ってところでつい気を抜いて、二人ともメモを取らずに読んだのは失敗だったね。 だんだんとわかってくると、あ、この人はあの人の転生なんだとか、この人とこの人はこうつながっていくのか、とかがわかってきて、 人物相関図を作りながら読んでたら数倍おもしろかっただろうにと大後悔。 | |
悪魔の存在がおもしろかったよね。人々の中にあたりまえのように悪魔が混じっていて、 かならずしも悪なるものとは限らなくて、まるで悪魔というより異形の者って感じなんだけど。 | |
キリスト教徒にとっては悪魔でも、ユダヤ教徒にとっては悪魔じゃないとか、そういう蘊蓄含みの解釈がふるってたね。 | |
尻尾でヴァイオリンを弾き、足にある口でものを食べる悪魔以外にも、日と週と年を産むニワトリとか、 人間を作った人の話とか、半分だけが白いひげを持つ男とか、記憶がまったく消えない男とか、 魚の形をした果実とか、挙げたらきりがないんだけど、不思議おもしろいものがたくさん出てきたね。 | |
しかも、事典形式でただそれらを羅列してあるんじゃなくて、あとになってくると、すべては 壮大な物語のなかの重要なアイテムだったり、参加者だったりすることがわかってきて、その存在理由を知ることができたりするから感激しちゃう。 | |
物語としては、男女の運命的な恋愛があり、戦いがあり、ミステリ的な要素まで混じってて、しかも悪魔に 夢の中の旅、夢占いといったファンタジー的なところもあり、宗教論議あり、伝承が鸚鵡によって語りつがれたりするようなマジックリアリズム感もあり、わかってきてからは 語り尽くせないほど面白さテンコ盛り本だった。 | |
ウンベルト・エーコあたりで腹八分だった読者には大満足のオススメでしょ。あとは私たちのように、わからないながらも、 デッカイ脳味噌による大蘊蓄祭りの壮大な物語に喰らいつきたくなるタイプの方にもオススメ。とにかくスゴイ本でした〜。 | |