すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「カニバル(食人種)」 ディディエ・デナンクス (フランス)  <青土社 単行本> 【Amazon】
それはゴセネがまだ若者だった、1931年のこと。ニューカレドニアのカラナで生まれたゴセネは、 村の代表に選ばれ、20人ほどの青年と数人の娘たちをヌーメアまで連れていった。ヌーメアにはさらに多くの カナック族の若者たちが集められていて、総勢は百人ほどだった。フランス人副総監ジョゼフ・ギヨンは彼らに向かい、 ヨーロッパに旅立ってもらうと告げた。パリで行なわれる植民地博覧会でオセアニアに先祖代々伝わる文化を 紹介してほしいというのだ。ところが、博覧会に連れていかれてみると、彼らが入れられたのは檻の中だった。 檻には札がついていた。「ニューカレドニアの人喰い人種」。
にえ これは歴史の闇に消えてしまいそうになっていた、酷い事件をもとにして 書かれた小説です。
すみ 内容のあまりの酷さ、痛々しさに辛くなりすぎないかしらと読むのを臆しそうになったけど、 読んでみたら、そんなことはなかったよね。ホッとした。
にえ 冒険小説的なストーリーに仕上げてあるんだよね。読んでいるあいだは、ゴセネと一緒に パリの町を走りまわり、ドキドキ、ハラハラに夢中になって、読み終わってから、こんな酷いことが本当にあったんだと、あらためて 考えればいいのではないかな。
すみ まず、この小説にもしっかりと書かれてある史実から話すと、1931年、フランス領ニューカレドニアから、 百人前後の若者がパリに連れていかれたの。
にえ 5月1日から行なわれる、植民地博覧会に向けて、彼らを乗せた船が出航したのが1月15日。長旅だよね。
すみ 長旅なのに、船旅の条件は劣悪。ろくな食べ物も与えられずに甲板で寝起きさせられて、着くまでにマラリアにかかって亡くなった人もいるの。
にえ 彼らが連れていかれたのは、動物園のなかにしつらえたカナックの村の檻の中。その檻には札がついていて、 「ニューカレドニアの人喰い人種」って書かれているの。
すみ その檻の中で、寒いのに上半身裸にさせられ、動物のような鳴き声をあげながら水の中で泳がされたり、狩りをしているふりとか、 丸太舟をつくるふりとか、させられたのよね。
にえ 彼らは敬虔なカトリック教徒だから、ニューカレドニアにいたときは、 人前では肌をさらさないようにして暮らしてたのにだよ。
すみ しかも、ふだんは文化的な生活をしているのに、檻のなかでは一夫多妻制のふりまで させられたのよね。いかにも未開人っていうふうに。
にえ 暴力でむりやりいうことをきかされちゃってたんだよね。
すみ さらなる悲劇が起こるのが、開会式の前日。動物園にはカリブから運んできたワニがいたんだけど、 そのワニが突然、ぜんぶ死んでしまったの。
にえ かわりのワニを、ドイツのサーカス団から借りてくることになったのよね。で、交換に、カナック族の若者30人ほどが、 ワニにかわる見世物として、サーカス団に連れていかれることになったの。
すみ この本では、パリ見物の観光に連れていってやる、なんて騙されて連れていかれちゃったのよ。
にえ これがぜんぶ、本当にあった出来事だなんて、もう、なんというか、ひどすぎる、 信じられないを通り越して、なんと言ったらいいかわからないよね。
すみ で、ここからは小説だけの架空のお話なんだけど、博覧会に 連れてこられたカナック族のなかに、ゴセネという青年がいたの。
にえ ゴセネは、連れてこられたなかでただ一人、フランス語をしゃべれるのよね。 読み書きはできないんだけど、しゃべるほうはかなり流暢。
すみ ゴセネはカナラ族の首長の娘ミノエと婚約していて、一緒に連れてこられたんだけど、首長には ミノエをしっかり守ると約束して村を出ているの。
にえ そのミノエが、サーカス団に連れていかれてしまったのよね。ゴセネは残されて。
すみ 檻を抜け出し、ひたすらミノエを追うゴセネ、パリの街に驚き、地下鉄に驚きながら、 追いながら追われ、走りまわるの。
にえ 見ず知らずのゴセネを助ける人も現れるのよね。ただ、困っている人を助けるのが人として 当たり前だと思ったから。正義って単純だから難しいんだなとあらためて考えさせられた。
すみ 薄めの本で、読み応えたっぷりとまではいかないけど、いつまでも胸に残りそうな小説でした。