すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ぼくは怖くない」 ニコロ・アンマニーティ (イタリア)  <早川書房 ハヤカワepi文庫> 【Amazon】
1978年の夏、ミケーレはまだ9才の少年だった。父親はトラックの運転手で留守がち、母親は美しく、 逞しい女性だった。イタリアの僻地にあり、4軒しか家のない集落アックア・トラヴェルセはその夏、とにかく尋常ではない暑さだった。 ミケーレは5才の妹マリアにつきまとわれながら、友だちと遊んでいた。ボスは12才のテスキオ、命令する のが大好きで、意地悪な少年だった。一番の親友はサルヴァトーレ、同じ9才で、高名な弁護士の息子だった。 それから、落ちこぼれのレーモと、ふとっちょの女の子バルバラ。6人はある日、凶暴な豚を飼っているという噂の遠くの家まで 行ってみることにした。噂はどうやら間違いのようだったが、その家の裏には、大きな丸い丘があった。テスキオは だれが一番最初に頂上にたどりつくか競走しようと言いだし、マリアのせいでビリになったミケーレは罰として 丘の向こうにあった、廃屋の中を探検することとなった。そこでミケーレが見つけたものは・・・。
にえ イタリアの権威ある文学賞、ヴィアレッジョ賞の受賞作品だそうです。
すみ 受賞も納得、少年の目を通して書かれた小説は星の数ほどあると思うけど、これは秀逸。
にえ 少年の目を通した描写のすべてが素晴らしかったし、設定やストーリーにも新鮮な驚きがあったし、 これは「やられた」と思ったね。
すみ 大人のエゴや歪みとまっすぐな少年の視線のコントラストがみごとだったよね。 少年が知る事実しかこちらには伝わらないから、わからない部分も多々あるんだけど、それがまた無駄を省いてクッキリと 主題だけを浮かびあがらることになってるし。
にえ はじめの書き出しの部分から夢中になって、ラストまで、もう一気に読んでしまった。
すみ 異常なほど暑い夏、麦に覆われた大地、丘を登る少年ミケーレと、転んでしまったと 泣きごとを言う妹のマリア。そこから話が始まるのよね。
にえ マリアがもうホントにリアルな妹なの。作者ご自身も妹さんがいるそうで、 この本はその妹さんに捧げられているんだけど、やたらと邪魔で小うるさくて、でもなにかあったら助けてやるかわいい妹っていう 存在が、スンゴク微笑ましかった。
すみ マリアは斜視で、眼鏡をかけていて、お兄ちゃんのミケーレが大好きな 5才の女の子なんだよね。なんでもお兄ちゃんたちの仲間に入りたがるけど、すぐメソメソ泣いちゃって。でも、どんなときでもお兄ちゃんの味方。
にえ ミケーレが丘に登っていたのは、マリアを除く5人で競走をしていたから。ボスのテスキオは、女の子の バルバラに仕返しをするために、競走をしようと言いだしたの。きっとバルバラがビリになって、罰を与えられるはずだから。
すみ 結果は、マリアのせいでミケーレがビリになっちゃうのよね。でも、競走のあとの言い争いで、 あやうくバルバラが罰を受けそうになるの。だけどテスキオがバルバラに、ズボンを脱げなんて言いだすから、ミケーレが、自分が罰を受けるって言いだして。
にえ 罰ゲームは、見つけたばかりの二階建ての廃屋のなかを一人で探検してくること。そこでミケーレは、とんでもないものを見つけてしまうの。
すみ 廃屋には隠し穴があって、そこにはミケーレと同じぐらいの年の少年が、 鎖につながれて、とらえられているのよね。
にえ 少年の死体を見つけたと思ったミケーレは、自分が見つけたんだから自分のものだって ことで、少年のことはだれにも話さないの。
すみ で、もう一回、今度は一人で行ってみるんだけど、じつは少年は死んではいなかったのよね。 汚れて、痩せこけて、飢えて、衰弱してはいるんだけど。
にえ ミケーレはお水をあげたり、食べ物を持っていったりして、少しずつ話ができるようになるんだけど、 少年の言ってることはわけがわからないことばかりなの。
すみ 衰弱して意識は朦朧としているし、子供に降りかかった突然の出来事ってことで、 自分になにが起きたのか、本人がよくわかってなかったりするのよね。
にえ ミケーレの家のほうでは、大好きなお父さんが素敵なプレゼントをもって帰ってきて、 しばらくは家にいるって言ってくれるし、お母さんは厳しいけど愛情たっぷりだし、幸せな家庭、のはず。
すみ でも、なんだか目つきの悪い怪しげなジイさんがやって来て、ミケーレの家に滞在して、 やたらとお父さんに偉そうに命令するし、弟のテスキオよりたちの悪い兄のフェリーチェが、遠くに行ってたはずなのに戻ってきて、 やたらとミケーレの家を出入りするようになるし、なんかおかしいの。
にえ じつは、すべての裏には、とんでもない刑事事件の犯罪が隠されていたのよ。
すみ 愛情のある幸せな家族、友情を誓いあった親友、ミケーレの前で信じて いたすべては音を立てて崩壊してしまうのよね。
にえ そう言っちゃうと、ドンヨリ重く暗い話みたいだけど、読むと瑞々しく、少年の目を 通してすべてはキラキラと輝いているの。かなり怖くもあるんだけど。
すみ とにかくこういうものを書けてしまう感性ってスゴイと思う。貧しさから抜けるため、家族を護るため、 いろんな理由づけから歪んでいく大人たちと、単純に愛と正義を信じて、優しさだけで駆け抜けていこうとする少年、美しくも残酷な対比を みごとに書ききったこの小説は、もちろん、絶対オススメっ。