=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「光の軌跡」 エリザベス・ロズナー (アメリカ)
<早川書房 ハヤカワepi文庫> 【Amazon】
ジュリアンとポーラの兄妹は、広めのアパートの1階と2階を借りて暮らしている。二人の父親は ユダヤ人で、腕に数字の入れ墨があり、戦争中に辛い経験をしたらしいのだが、とうとう何も語らないまま亡くなってしまっていた。 ジュリアンは大学で極紫外線宇宙物理学の研究をしていたが、辞めて今は「科学辞典」の改訂の仕事をして、大学の事務局から 金をもらっている。部屋からはほとんど出ない。積み上げた11個のテレビをつけっぱなしにして、昼も夜も部屋に籠もっている。 ポーラは声量が足りないとはいえ、特殊な美しい声を持ったオペラ歌手で、プロとしてさらに羽ばたくための努力をつづけている。 事情があってアメリカの舞台には立てなくなったポーラは、1ヶ月間ヨーロッパに渡り、さまざまな国でオーディションを受ける ことにした。そのあいだは、掃除婦として来てもらっているソーラに留守番をしてもらうことにした。悲しい過去を持つ ソーラと予期せぬ共同生活を強いられることになったジュリアンは戸惑う。一方、、ポーラはヨーロッパで・・・。 | |
詩人であり、短篇小説も書くエリザベス・ロズナーの、初の長編小説だそうです。 | |
詩人の書いた小説ってことで、けっこうゆったりとした情景描写豊かな、あまりメリハリのない 小説なんじゃないかな〜と思ってたんだけど、違ってたね。 | |
うん、けっこうテンポがよくって、スローペースを覚悟して読みはじめちゃったから最初戸惑った。 | |
ジュリアン、ポーラ、ソーラの三人の一人称の語りが、短くコロコロと入れ替わっていくの。 | |
そのうちに、それぞれの過去や謎として残っていた部分がわかっていくという。これがまた 意外と、気を持たせといて最後まで引っぱっちゃうって感じでもなくて、けっこうあっさりと、どんどんわかっていくのよね。 | |
まず、ジュリアンとポーラは、早くに母親を亡くしてるの。成功率の高い手術を 受けたのに、麻酔の事故であっさりと亡くなってしまって、家族はポッカリと穴の空いたような喪失感を感じることに。 | |
ポーラはその後すぐ家を出て、本格的に声楽を学ぶため、マダム・ラ・フルールっていう人のところに 行ってしまってるのよね。 | |
二人の父親はユダヤ人で、どうやら第二次世界大戦後にアメリカに移住してきたらしいんだけど、 過去のことは家族にさえ語らない。でも時々、悲しみのなかにいるような人が訪ねてきて、家族にはわからない言語で会話を交わしているの。 | |
学校の先生で、化学を教えていたのよね。もともとは、まあまあ熱心なユダヤ教徒だったみたいだけど、 妻を亡くしてからはそうでもなくなっちゃったみたい。 | |
ジュリアンは生まれつきの天才で、特に科学については飛び抜けた能力を 発揮するのよね。大学に行ってからは物理学の研究をしていたみたいなんだけど、途中放棄。 | |
それからは、11個ものテレビを拾ってきて、直して映るようにして積み上げてるの。 テレビがついてないと眠れないみたいで、いつでも音を消したテレビをつけっぱなしにしているの。 | |
テレビを壁にして、なるべく外界とは接しないようにして生きてるのよね。 父親が病死してからは、まともに会話をするのは妹のポーラだけ。 | |
で、二人はアパートの1階と2階に分かれ、一緒に暮らすようになるんだけど、 ポーラが1ヶ月間、ヨーロッパに行くことに。その1ヶ月間、ジュリアンの様子も見るという条件で、ポーラの部屋に住むことになったのがソーラ。 | |
ソーラは政治不安のある国で故郷の村で惨劇に遭い、親切な医師の援助があったとはいえ、 独りぼっちでアメリカに渡ってきた女性なの。 | |
ジュリアンは戸惑いつつもソーラに心惹かれ、ソーラもまた、過去の自分に似ている ジュリアンに惹かれていくのよね。 | |
一方、ポーラは師をマダム・ラ・フルールから、カリスマ指揮者に移す恋愛がらみの過去の顛末をまじえつつ、 ヨーロッパ各国での出来事を軽く語っていくんだけど・・・。 | |
出会うべきものに出会ってしまうのよね。その衝撃に、ポーラは耐えられるのか。 | |
それから、ソーラの過去は? そして、惹かれる気持ちはあっても触れあうことの できないジュリアンとソーラはどうなっちゃうの?ってことで、話は進んでいくんだけど。 | |
部分、部分で美しさにハッとするようなところはあったんだけど、ちょっと深みに欠けるかなって気はしたよね。 | |
う〜ん、そうねえ、二人の父親の過去の深さに比べて、ソーラの過去が チト薄いんじゃないかなって気はしなくもなかった。ジュリアンについては、ちょっと納得できないところもあったし。 | |
勝手に決めつけて悪いんだけど、「再生」にこだわりすぎてるんじゃないかなって気がしてしかたなかった。 「再生」をテーマにした小説を書こうとして、あとから物語がついてきた、みたいな印象を受けてしまった。あ、でも、けなすほど悪くはないのよ。 いろんなものが含まれた美しい物語だったし。 | |
うん、美しくまとまった小説ではありました。正直なところ、私としては物足りなさを感じてしまったんだけど。 | |