=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ホテルワールド」 アリ・スミス (イギリス)
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イギリスのある街に堂々と建つグローバルホテルは、最高のサービスを約束し、世界に広がるホテルチェーンのひとつだった。 そのホテルで働くことになった19才のサラは、わずか2日めにして冗談のように愚かな過失を犯し、命を落とした。 サラは幽霊となり、薄れゆく記憶をたどりながら、生きていた頃の自分の軌跡を追っていた。 | |
これはアリ・スミスにとって2作めの長編で初邦訳、ブッカー賞、オレンジ賞の最終候補まで残り、 アンコール賞とスコッティシュ・カウンシル文学賞を受賞した作品だそうです。 | |
う〜ん、なんと言ってよいやら、好みは分かれそうだし、人には勧めづらい 小説だったよね。 | |
それ以前に、私は自分がいいと思ってるんだか、いいとは思わないんだか、それがもうわからないよ(笑) | |
いかにも最近風の純文学って感じだよね。女性作家が感性だけで書ききってるって感じで、文章は詩的でもあり、 少しだけ型破りで前衛的でもあるような。 | |
作者は慢性疲労症候群に苦しんだ経験がある方だそうで、それをそのまま小説に反映させたような、 喪失感というより虚脱感とでもよびたくなるようなものが全編に流れてて、でも、救いのような光が射してもいるの。 | |
とにかく、よくまあ、この小説を邦訳したなあというのが一番の感想かな。 英語の綴りをすり替えたダジャレやら、韻を踏みまくった文章やらがやたらと出てきて、そういう言葉遊びでリズムを とって進んでいってるような小説だから、これを日本語にしたのはすごく大変だっただろうなと思うよ。 | |
原文が透けて見えるような翻訳文ってあるけど、これはもう原文はこんなですって表記しつつ、 しかも邪魔にならないように処理しなければならないという大変さ。なにはともあれお疲れさまでしたと言いたい(笑) | |
ストーリーのほうは、6つの章に分かれてて、それぞれ主人公が違ってるけど、話はつながっていたり、 登場人物が重なりまくってたりする、連作短編集のような趣なのよね。 | |
第1章の「過去」は、命を失ったサラが、生きていたときには覚えていた言葉と記憶を少しずつ忘れていきつつ、 自分の短かった生を振り返るお話。 | |
読んでいくと少しずつ、サラがどんな女性で、どんな死に方をしたかがわかってくるのよね。死に方については、 あまりにくだらないことで命を落としたようで、唖然としてしまうし、生きているときの話にしても、好きになりかけてる人がいたり、 仕事を始めたばかりだったりと、ホントに唐突に死んでしまったんだなという印象。 | |
第2章の「現代形で語る過去」は、そのサラが亡くなったホテルの周辺にたむろする浮浪者の女性エルスの話。 | |
エルスの場合は、まず肺炎でちゃんと発音ができなくなってしまっている、それから、どうやら愛情深い家庭で育ち、 本をたくさん読んでるみたいなんだけど、そのへんの記憶が混乱しちゃってるの。 | |
エルスもまた、失いかけた言葉に執着したり、言葉は知っていても意味が分からなくなって必死で追い求めていたりと、 サラに似てるところが多いのよね。 | |
第3章の「条件法で語る未来」は、グローバルホテルの受付嬢リサの話。リサは1日だけサラと一緒に働いているし、 前の章で思いつきの親切から、エルスをホテルに泊めているのよね。 | |
そのリサはこの章では、慢性疲労症候群で部屋にこもりっきりになっちゃってるの。 | |
言葉も記憶もあいまいになってきているし、時間の観念すら失いつつあるのよね。 | |
リサの母親は詩人で、慢性疲労症候群になったリサを題材に、行ごとに韻を踏んだ詩を作ろうとしてるの。 | |
第4章の「完了」では、グローバルホテルに泊まっているペニーという女性が主人公。ペニーはジャーナリストで、 ワールドという新聞の家庭欄を埋めるべく、気のきいた話と言葉探しに奮闘中。 | |
ペニーはひょんなことからエルスと知り合い、エルスが浮浪者とも知らず、 一緒に街をふらつくことになるのよね。 | |
第5章の「過去形で語る未来」では、サラの妹15才のクレアが主人公。 クレアは姉を亡くした喪失感を語りまくるんだけど、これが句読点なしのズルズルッと連なった文章で、まさに言葉の洪水。 読み疲れた〜(笑) | |
で、視点をちょっと遠くにおいて、皆を見まわすような第6章の「現代」がある、と。 感動しないまでも、美しさのある小説だったよね。 | |
小説でしか出せない面白味もあるよね。あとはもう、好きそうな方はどうぞと言って逃げるしかない(笑) | |