すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ダークライン」 ジョー・R・ランズデール (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
1958年、修理工だった父親がドライヴイン・シアターを経営することを決意し、ミッチェル家はテキサスの 田舎町へ引っ越すことになった。その時まだ13才だったスタンリーは、ついこの間までサンタクロースの 存在を信じていた自分の幼さにうんざりしている少年だった。引っ越したときは夏休み、学校はとうぶん始まらない。 スタンリーはドライヴイン・シアターの裏にある森で、地面に埋められていた箱を見つけた。なかには、 切手を貼っていない手紙が数通と、日記の切れ端らしきものが入っていた。それは13年前に殺された少女が書いたものらしかった。 同じ日に別々の場所で殺された、マーガレットとジュエルという二人の少女のどちらかはわからないが。
にえ これは、ランズデールの最高傑作との呼び声も高い、アメリカでも今年の1月に 出たばかりの、ほんとにホットな新刊です。
すみ ランズデールというといろいろとテイストの違う小説を書いてるけど、 これは「ボトムズ」路線だったよね。ノスタルジックな少年時代の回想録であり、そこにミステリがからむというストーリー展開の。
にえ 出来は「ボトムズ」より良かったと思う。ミステリ部分も「ボトムズ」みたいに、まるわかり じゃなかったし。でもちょっと、私は夢中になって読んだわりには、乗りきれなかった感があるんだけど。
すみ う〜ん、翻訳文がちょっと気にならなくもなかったよね、とくに会話部分が。 言葉遣いのメリハリをつけようとしてつけそこねてるみたいなところもあり、 自分の小作人みたいな喋り方がいやだって言ってる人が都会の娘のような言葉で喋ってたりしているような・・・。
にえ まあ、それについてはアメリカで1月に出たばかりの新刊を、3月にはもう邦訳本で 出版しようってんだから、しょうがないって気もするけどね。でも、正直なところ、私もチト気になった。 地の文の「呼ぶ」ですむところをぜんぶ「呼ばわる」で統一してるとことかも。
すみ あとね、最後のほうで、ちょっといくらなんでもここまで残酷で衝撃的なことにしなくてもってのが 1つあったのと、発見された手紙の内容とか、二人の少女についてとか、過去の謎についてもうちょっと明らかにしてくれても良かったかな、とも 思ったんだけど。
にえ 細かいことを挙げだしたら、どの小説だってきりがなくなるけどね。 ようするに、好きになっちゃうかどうかってことに尽きると思うんだけど、なんでだか「ボトムズ」ほど 好きになりきれなかったのよね、私は。期待しすぎちゃったのかな〜。
すみ なぜだか私は、最初から最後まで細かいところばっかり気になっちゃった。 それが邪魔をして感情移入しそこねたって感じかな。残酷な部分の刺激が強すぎちゃったし。登場人物はみんな魅力的だったんだけど。
にえ 中心となるのは、ミッチェル家の家族愛だよね。まず、他の家族と比べると、 黒人と白人を区別して考えるような、当時のいやな慣習にとらわれているところもあるし、わからずやなところもあるけど、 子供たちや奥さんを心から愛して護ろうとする気持ちの強いお父さん。
すみ それに、もっと進歩的で、人種差別も男女差別も乗り越えちゃって、 意思表示がいつもハッキリしてるけど、出しゃばりすぎはしないお母さん。良い両親だよね〜。
にえ お母さんのほうは、黒人のお手伝いさんロージィを家族としてかばい、 大事にしながらも、料理の腕が自分より上だってことにはちょっとだけ嫉妬してたりして、二人とも欠点はあるけど愛すべき人って印象、 そこが良かったな。
すみ ミッチェル家の子供は、お姉さんのキャリーと、弟のスタン。キャリーはかなりの 美人で、引っ越した早々からモテモテなんだよね。
にえ この娘がまたいいのよね。かなり勝気で、自惚れも目覚めはじめて、調子に乗って男の子に愛想を振るって みたりもするんだけど、相手をうまくコントロールできるほどの悪賢さがないから、起きた結果に戸惑ってたりするの。
すみ 主人公であるスタンは、年のわりには純情すぎる、まだ幼さの残る少年なんだよね。 性についてなんてホントになんにも知らなくて、知ったかぶろうとしては驚きまくってて、とにかくスタンの目を通すと、なにもかもが 新鮮でキラキラしてるの。
にえ スタンは黒人が差別されてるってこともほとんどまったく知らなかったんだよね。 お手伝いさんのロージィが大好きになって、そこで初めて差別の実体にぶつかって愕然としてしまうの。
すみ ロージィは、お料理が上手で、向上心があって、なにより他人をばかにするより 賞賛することに気持ちが行く女性。サボリ上手なのもご愛敬。でも、ロクでもない旦那がいて、そのためにミッチェル家にとてつもない恐怖を運びこんじゃうことになるんだけど。
にえ で、なんといっても可愛いのが、飼い犬のナブよね。ナブは小さくて、 ふだんはただのいたずらっ子だけど、いざというときは勇敢で、何度もスタンを助けることになるの。いつもスタンのそばにいるんだよね。
すみ で、スタンは裏の森に埋もれていた箱を見つけ、その中に入っていた手紙や日記の切れ端をきっかけに、 13年前の二人の少女の殺人事件を知ることになるの。
にえ 手紙には名前が書いてなくて、MからJへ、としか記されてないのよね。そして箱があったところから少し森の奥に 入っていくと、そこには焼け崩れた大きな屋敷の残骸が。
すみ 大きな屋敷はスティルウィンドという、裕福な町の実力者の家だったのよね。 そこの娘であるジュエルって少女がベッドのうえで縛られて、家に火をつけられて焼死してるの。
にえ その同じ日に、そこからそう遠くないところで、マーガレットという少女が線路の上に置かれて、 走ってきた汽車に頭を切断されて亡くなってるのよね。マーガレットはジュエルとは全然違って、貧しい娼婦の娘だったんだけど。
すみ その事件に興味を持ち、調べはじめるスタンに協力するのが老いた黒人の映写技師バスター。 バスターは謎が多くて、酒飲みで気分もむらっけが強いけど、本をたくさん読んでて、とにかく賢い男なの。
にえ その謎解きが少しずつ進みつつ、ミッチェル家には様々な問題が降りかかり、 それでも互いの愛情と家族みんなが持ってる優しい気持ちで乗り越えていくという、本当だったら好きにならずにはいられないような お話。ああ、なんで乗れなかったんだろ〜(泣)
すみ 私は、まず初っぱなに文章が気になってそこから細かいところが気になりだし、無理にでも物語世界に 入りこもうとしてるうちに、今度はスタンの友だちのリチャードの家の、父親の家庭内暴力の残酷さに嫌悪が先に立ち・・・だめだめパターンにハマってしまった。ということで、ごめんなさいっ。