すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「奇術師カーターの華麗なるフィナーレ」 上・下  グレン・デイヴィッド・ゴールド (アメリカ)
                                     <早川書房 単行本> 【Amazon】 (上) (下)

1923年、ハーディング大統領がサンフランシスコで突然、謎の死を遂げた。大統領は死の直前、 まわりにいる人々に「おそろしい秘密を知ってしまったら、きみはどうするかね?」と問いかけていた。 大統領は死亡前夜、カーター・ザ・グレートの奇術ショーに特別ゲストとして参加していた。カーター はショーの前に、大統領と二人きりで打ち合わせをしている。病死とされている大統領の死は、巧妙な 暗殺ではないのか。だとすれば、殺したのは最期の時をともに過ごした大統領夫人か、それとも誰かに 依頼されたカーターか。新聞記者らが騒ぎ立てる中、カーターは彼らをまんまと煙に巻き、 客船ハーキュリーズ号に乗って姿を消した。
にえ これはねえ、アメリカのエンタメ系小説としては、最高に上質な、 最高に上出来の小説でした。
すみ デビュー作とはいえ、もともとが新聞記事も脚本も書くフリーライターで、 この本を書くにあたっては5年もかけて調べあげたというだけあって、未熟さのみじんもなく、最初から最後まで ホントに素晴らしく良かったよね。
にえ 途中までは読んでて、だんだん書かれていることが把握できて乗ってきな〜と思って きたところで、場面も登場人物もガラッと変わって別の話になっちゃうから、ちょっとイラッとしなくもなかったんだけど、 読後は大満足というしかないな。
すみ 大統領殺しを追う推理小説のようでもあり、一人の奇術師の栄光までの道のりを語る サクセスストーリーのようでもあり、手に汗握るサスペンスもののようでもあり、とにかくいろんな要素がつまってて、すべて楽しめた。
にえ 登場人物が実在した人たちなんだよね。ハーディング大統領も、奇術師チャールズ・カーターも実在した人だし、 他にもたくさん実在した人物が登場するの。
すみ でも、いかにも実在した人って感じじゃなくて、この小説の中でしっかり人格が与えられて、 それぞれが活き活きとした人物像になってたよね。完全に小説の中の人たちだった。
にえ ま、私は正直なところ、フーディーニ以外は巻末の解説で教えてもらわなかったら、 実在した人だとは気づかないで、ぜんぶ架空の人だと思っちゃうところだったんだけど(笑)
すみ お話はまず、ハーディング大統領が謎の死を遂げ、カーター・ザ・グレート、こと 奇術師チャールズ・カーターが疑いを受けるところから。
にえ 奇術師といっても色々あるだろうけど、カーターは一座を率いて大々的なショーを演じる、 大規模イリュージョン系のマジシャンなのよね。
すみ カーターのことを疑い、執拗なまでに調べあげるシークレット・サーヴィスの 特務員、ジャック・グリフィン。この人が第二の主役ってとこかな。
にえ グリフィンは過去の大失態のために、シークレット・サーヴィスではちょっと 疎まれる存在なのよね。でも、まじめで地味だけど努力家。それでもって意外なことに、あとのほうではアクションシーンや小さなラブロマンスと、 かなりの見せ場が彼のために用意されてました。
すみ それからお話は変わって、カーターの生い立ちから、今のような立派なマジシャンとなるまでの 経緯が語られていくの。
にえ カーターはジェームズっていう弟がいて、裕福だけど、子供のことより仕事や自分のことの ほうによりに興味のある両親に育てられているのよね。
すみ 子供としてはかなり傷ついてしまうような出来事が二つばかりあって、 その二つの出来事に1冊の本との出会いが加えられ、カーターが奇術の楽しさを知るきっかけとなっていくの。
にえ それから、最初はミステリオソっていう奇術師がトリをつとめる一座で、トランプやコインを使った クローズアップ・マジックをやる地味な奇術師としてスタート。巡業の旅に出ることになるのよね。
すみ コメディアンやらなにやらが共存する一座で、いろんないざこざがあったりもして、 そんな中でカーターは腕を磨きつつ、初恋やら対立やら協力やらがあって、やがて運命の大きな転機が訪れるの。
にえ それに一役かうことになるのが、なんとあの偉大なマジシャン、フーディーニ!  さすがに出番は少なくても、フーディーニの存在感は凄かった〜。
すみ 自分の一座を持って大々的な公演をするほどになったカーターは、やがて 最愛の妻を亡くし、どん底に。他人から借りてきたマジックネタを、やる気もなく演じるようになってしまうんだけど・・・。
にえ そこからまた紆余曲折があるんだけど、芝居小屋でのショーから、映画へ、 そしてテレビへと人々の関心が移っていく、ショービジネスの変遷に、カーターの物語がうまくからんで、おもしろいことになっていくのよね。
すみ あとねえ、カーターのマジック・ショーの描写が細かく丁寧で、ショーを見てる気分でドキドキしながら読めた。 たっぷり楽しめるよ〜。
にえ それで、ハーディング大統領の暗殺疑惑とどう結びついていくのかっていうと、 これがまたビックリな展開なのよね。カーターは生前の大統領から、あるとんでもないものを託されてたってことだけ言っておきましょうか(笑)
すみ それはまさに、新時代への鍵だよね。最後にはしっかりカーターのイリュージョンに 翻弄されていたことに気づき、してやられたと思いつつ、大満足したのでした。